主人公視点(後編)
由奈は起きたばかりなのに、目をぱっちりと開いている。
それに顔が赤い。
そして、ニヤッと笑った。
「うんうん、そうかそうか。明人はそこまで私に惚れていたか~~」
由奈は勝ち誇ったように言う。
「…………何の話だ」と俺は惚けてみる。
「実は少し前から目を覚ましていたんだよね~~。でも、驚いちゃった。まさかキスをされるなんて……明人の鬼畜~~」
嘘つけ、さっきまで幽体で俺の話を聞いていただろ。
「だけど、明人がいきなり愛の告白をし始めるから、面白くなって寝たふりをしちゃった。聞いてるこっちが恥ずかしくなって、笑うのを必死に我慢したよ」
いきなり告白してきたのはどっちだ。
今日一日中、反応しないようにするのが大変だったんだぞ!
「まぁ、私としては明人はただの幼馴染だし、そんな熱烈な愛の告白をされると困るんだけどな~~」
何だか、由奈の反応がめんどくさくなってきた。
こいつはロマンチックな展開を作れないのかよ。
「眠っている私にいきなりキスなんて、これは一生ものの弱みを握ったね。うん、今日、この瞬間から明人は私の奴隷!」
ブチッと俺の中で何かがキレた。
「――――おい」
由奈の名誉の為にと思って、こいつの今日の蛮行は墓まで持っていくつもりだったが、もう知らない。
「一限目、突然の告白」
「えっ?」
由奈は真顔になった。
「二限目、俺の周りをグルグルと回ってから二度目の告白」
「はい?」
由奈は目を丸くする。
「三限目、スカートをパタパタとさせる。パンツの色は白。そして、三度目の告白」
「ちょ、ちょっと!」
由奈は顔を赤くした。
「四限目、ブレザーを脱いで、シャツのボタンを外す。ブラジャーの色も白。露出癖に目覚め始める。四度目の告白」
「待って!」
由奈はさらに顔を赤くする。
「昼休み、寝たふりをしている俺の体を貫通して遊ぶ。五度目の告白。五限目……」
「待て、って言っているでしょうがぁぁぁぁぁ!」
由奈はついにキレた。
一週間、寝たっきりだったとは思えない力で俺の胸倉を掴む。
俺は構わずに、
「そして、極めつけはキスのおねだり、だもんな。俺は仕方なく、由奈に頼まれてキスをしたんだけどな」
と笑い、勝ち誇る。
「あ、あんた、まさか……」
その後の言葉を言えないのか、言いたくなのか、口をパクパクさせる。
「いや~~、俺に霊感があったなんて驚きだ。それか幼馴染の絆かな?」
「その絆をここで終わらせて良いかな!? じゃあ、なに!? 今日一日中、私の存在に気付いていて、無視して、私が醜態を晒すところを笑っていたの!?」
「笑ってない。ドン引きしてた」
言った瞬間、俺は由奈から鋭いボディブローがを喰らってしまった。
「お前……今度は俺は昏倒するぞ……」
「うるさいうるさいうるさい! 悪趣味! 変態!!」
「悪趣味はどっちだ?」
「そ、それは……とにかく、すぐに声をかけてくれれば、私は恥ずかしい思いをしなかったのに!」
「しょうがないだろ! ベッドで寝たっきりになっているはずの由奈が教室にいて、気が動転したんだ! 気持ちに整理をつけて、声をかけようと思ったら、いきなり告白してくるし……。もし、告白したと後に『実は見えてました』なんて言ったら、お前、発狂するだろ?」
「当然だよ! ポルターガイストを起こす自信があるよ! そして、今、発狂しそうだよ!」
いや、もう発狂しているだろ。
「だから、見えないふりに徹しようとしたんだよ!」
「じゃあ、最後まで徹してよ!。なんでネタばらしをしたの!?」
「お前が俺を挑発したからだろ! それになんだかあのままだと負けた気がしたから……」
「こんなところで負けず嫌いを発揮しないでよ! 馬鹿! 最低!」
「なんだと!? 変態! 露出魔!」
俺たちは精神年齢を十才くらい下げた言い合いを繰り広げた。
二人で騒いでいる内に由奈の両親が面会に来る。
初めは由奈のお父さんもお母さんも、由奈が目を覚ましてホッとし、泣きそうになっていた。
しかし、俺と由奈がいつものように言い争いをしているのを見て、笑い始める。
次の日、検査をして異常がなかったので由奈はあっさりと退院した。
「先生たち酷くない? 一週間以上も休んでいた私に課題をたくさん出してさ!」
目を覚ましてから二日後、久しぶりに登校した由奈は遅れていた授業分の課題を出されてしまった。
まぁ、由奈はいつも赤点ギリギリで、先生たちのブラックリストに入っているので仕方ない。
「愛の鞭だろ。先生たちも由奈にしっかりと高校を卒業してほしいんだよ」
俺が言うと「う~~」と由奈は唸った。
現在、帰り道、周囲には俺と由奈しかいない。
「なぁ、由奈」
「なに、勉強を教えてくれるの?」
「それはいつものことだろ。そうじゃなくて、告白の件、なんだけど……」
言った瞬間、由奈はビクッとした。
「なに、私をまだ辱めるつもりなの!?」
「ち、違う! 一昨日は勢いで喧嘩になったけど、俺が由奈と付き合いたい気持ちは本当なんだ」
「…………」
「由奈はどうなんだよ? ちゃんと面と向かって、言って欲しい」
俺の告白に対して、由奈は一度、視線を外した。
そして、深呼吸をして改めて俺のことをジッと見る。
「私、自分が死んだと思っていたんだよ。あの状況で嘘や冗談を言うわけないじゃん。私だって、明人が付き合いたい」
由奈は恥ずかしそうに言った。
「そ、そうなんだ。ありがとう」
今日、俺と由奈は改めて、恋人になった。
「由奈、ほら」
俺は由奈に手を伸ばす。
「急にどうしたの?」
「いや、恋人らしく手を繋いで下校しよかと思って……」
俺が恥ずかしさに耐えながら言うと、由奈はいつもと違って、しおらしい態度で手を繋ぐ。
「今まだって、手ぐらい繋いだことあるのに、なんで私たち緊張しているのかな?」と由奈が言う。
「それは幼馴染じゃなくて、恋人と初めて手を繋いだからだろ」
「そうかな? ううん、そうだね。ねぇ、またキスをしてくれる?」
由奈は少し緊張した声で言う。
「……いいよ。だけど、外じゃ恥ずかしいから、由奈か俺の部屋で良いかな?」
「うん、良いよ」
由奈の顔は真っ赤だった。
俺の顔も真っ赤だと思う。
【短編】幼馴染が俺のことを好きだと知ってしまったので、俺も幼馴染に好きだと告げる。 羊光 @hituzihikari
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