彼女との内緒の関係。



 そう、まさかの水無月さんだった。まだ学校に残っているものだと思っていたけど、こんな場所でこうして出会うなんて、誰が想像が出来ただろうか。


 僕がそう呼ぶと、彼女は気まずいといった雰囲気を纏いながら目を逸らした。そしてどこか恥ずかしそうにしながら、身体を震わせて俯いている。


 そんな彼女に対して僕はどうしたら良いか分からず……ただ無言で見つめる事しかできなかった。いや、それ以前に相手が水無月さんだったという事実に思考が追い付いていなかった。


「……な、なんだよ」


 すると、僕の視線に耐え切れなくなったのか、彼女はそんな事を口にしながら顔を上げた。その顔は少し赤らんでいたが、それは怒りからなのか恥ずかしさからなのかは分からない。


「あ……えっと、その……」


 そんな彼女の問い掛けに対し、僕は上手く言葉を紡げなかった。だって、まさかここで彼女と出会うとは思わなかったし、それに……同じゲームを手に取ろうとするなんて、誰が予想できただろう。


「……」


「……」


 それから何も言えずに時間が過ぎていく中……お互いに伸ばした手を戻しつつ、商品棚から一歩引いて距離を取った。そしてそのまま無言で見つめ合う。


「……な、なぁ」


「っ、はい!」


 けれども、そんな沈黙に耐え切れなくなったのか、水無月さんが口を開いて僕に声を掛ける。それを受けて僕も思わず大きな声で返事をしてしまった。


「えっと、なんていうか、だな……」


 水無月さんは歯切れが悪い感じで口ごもると……視線をキョロキョロとさせながら話始める。


「……お前もその……このゲーム、やるのか?」


「え? あ、う、うん。一応、興味があって……あの、水無月さんも?」


「まぁ、うん……そう、だな」


 水無月さんは僕からの問い掛けに対して、どこか歯切れが悪い感じで答える。それを聞いた僕はなんていうか、少し意外だと思っていた。


 だって、水無月さんって悪いけど……こういったゲームをやるイメージが無かったし、無縁な気がしていたから。そもそもゲームに興味が無いと思っていたし。


 でも、こうして彼女の口からゲームに興味があると聞かされたからには、人は見かけによらないというか、なんというか。まぁ、偏見は良くないからね。うん。


「え、えっと……」


「……なんだよ。なんか文句あんのかよ」


「う、ううん。そういう訳じゃあなくて……」


 僕がそんな風に返事をすると、水無月さんは不機嫌そうに鼻を鳴らした。そんな彼女に対して僕は少し慌てながら言葉を続けた。


「ただ……意外だなって」


「……うっせ、ばーか。で、どうするんだよ」


「え?」


「いや、だから。このゲーム、買うのかよ?」


 水無月さんはそう問い掛けながら、僕の事をじっと見つめてきた。てか、圧が凄い。


「えっと……まぁ、買えるなら買いたいけど……ただ、今は持ち合わせが無くて」


「ふーん、そうかよ。だったら、あたしが買っても文句はねえよな」


「あ、うん。どうぞ……」


「……ふんっ」


 僕がそう返事をすると、水無月さんは鼻を鳴らしてからゲームの箱を棚から手に取った。そしてその後、僕へまた視線を向けてくる。


「なぁ」


「えっ?」


「……この事は、誰にも言うなよ」


 水無月さんは顔を逸らしながらそんな事を言った。誰かに知られるのが恥ずかしいのか、それとも嫌なのか。


 まぁ、誰にだって人に知られたくない事はあるものだろう。それにそもそも誰かに言うつもりもないし、言う相手もいないから安心して欲しい。


「う、うん。誰にも言わないよ」


 僕はそう水無月さんに告げながら頷いた。それを聞いた彼女はホッとした様子に変わると、そのまま僕に背を向ける。


「……それじゃあな。あばよ」


 そして彼女はそのままゲームを持って、レジへと向かい歩いていった。そんな水無月さんを見送った後、僕はその場で深く息を吐いた。


「まさか、ここで水無月さんと出会うなんて……予想外だったよ」


 僕はそんな事を独り言を呟きながら、改めて棚に並んでいるゲームを見つめる。けど、目当てのゲームは水無月さんが持っていったから、僕が気になるものはあまり無かった。


 ……まぁ、今日はこれぐらいで帰ろうかな。あまり長居し続けて帰りが遅くなると、母さんに怒られちゃうしね。という事で、僕は店から出ていくと、そのまま帰路に着くのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る