僕の知らないところで、変な認定をされていた件
「如月さん、ここって……」
「レンタルビデオ店」
「そ、そうだね。うん……それは見れば分かるけど……」
「……?」
困惑している僕に、如月さんは不思議そうに首を傾げていた。いや、僕の方が不思議だよ。どうしてこんな所に連れて来たのかっていう方がね?
このレンタルビデオ店は品揃えが豊富で、僕も良く利用してアニメや特撮作品を借りたりしている。けど、如月さんがどうしてここに僕を連れてきたのかは、さっぱり分からないままだ。
一体、何の目的があってここに来たのか。僕はそれを如月さんに聞こうとした。だが……
「えっと、如月さん。それでここには……って、あれ?」
僕がそう聞こうとする前に、彼女はさっさと店内に入っていってしまった。これでは目的なんて聞けるはずが無かった。
「ちょ、ちょっと待ってよ……!」
僕も慌てて店内に入っていく。店内に入ると、中では流行りの曲がBGMとして流れていた。そして周りにはレンタル用のDVDやBlu-ray、それから中古のゲームソフトや音楽CDなどがジャンル分けされながらも綺麗に並べられている。
その中を横切っていく如月さんを、僕は何とか追い掛けていった。そして少ししてようやく彼女に追いつく事が出来た。
「如月さん、えっと……ここには何をしに……?」
僕は彼女の隣に立つと、そう聞いた。すると、如月さんはとある場所を指差す。そこにはレンタル用のDVDが大量に陳列されていた。
「ビデオを借りにきた」
そして如月さんは真面目な表情でそう言った。いや、レンタルビデオ店に来ているんだから、それは分かっているんだけど……。でも、どうして如月さんがここに僕を連れてきたのかという疑問がまだ解決していない。
「えっと……なんでビデオを借りたいの?」
僕は如月さんに向かってそう聞いた。すると、彼女はこう答えてきた。
「ビデオを見たいから」
「あっ、うん……そうだね」
またも分かりきった回答が返ってきた為、僕はそう答える事しか出来なかった。いや、如月さん……だからそれは分かっているんだよ。僕が聞きたいのはそこじゃなくてね?
「如月さん」
「ん?」
「えっと、そうじゃなくて……どうして僕をここに連れて来たのか、その理由が知りたくて。ビデオを借りるだけだったら、その……僕って必要だったのかな?」
「いる」
如月さんは僕の問いに対して、即答でそう答えた。
「蓮くんがいないと困る」
そして彼女は真剣な眼差しを向けながら、そう言ってきたのだった。まさか、ここまではっきりと断言されるとは……思ってもいなかった。
「困るって、その……なんでかな?」
「……」
「えっと……」
「……いるから」
「え?」
「会員証がいるから」
「……はい?」
「私、会員証を持ってないから」
「……嘘、でしょ」
如月さんの発言に僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。いや、でも……その理由があまりにも予想外過ぎてね。一瞬、何を言われてるのか分からなくなったというか……うん。
というか、なに? 会員証が無いから、如月さんは僕を連れて来たって事なの? なんで? 僕、アイテム要員なの? わけがわからないよ。
「えっと、会員証って……」
「会員証が無いと、ビデオがレンタル出来ない」
「いや、それは知ってるけど……」
「だから、蓮くんの助けが必要」
助けが必要……その言葉はとても嬉しく思うけど、なんか複雑だ。こんな状況じゃなかったら、素直に喜べると言うのに、冗談みたいな話だから喜ぶに喜べない。
というか、そもそも……如月さんは僕が会員証を持っているという前提で話を進めているけど……僕が持っていなかったらどうするつもりだったんだろうか。いや、まぁ、持っているから話は進められるんだけれども。
「と、とりあえず……僕の助けが必要なのは分かったよ」
「ん」
「で……如月さんは何を借りるつもりなのかな? その、ビデオのタイトル的な意味合いで」
僕は誤解が起きない様にそう付け加えて、如月さんにそう質問した。すると、彼女はこう答えてきた。
「こっち」
そして彼女はそう言って、また移動を始めた。良く分からないけど、僕もそれに付いて行く。彼女の後を追って、どんどん進んでいくのだけど……なんだか店の奥に向かって行っている気がするんですが。
この辺って、何のコーナーがあるところだっけ? 普段はアニメと特撮コーナーしか行かないから、この辺りは全然分からないや。なんというか、洋画とか韓国ドラマとか海外系の作品ばかり並んでいるんだけど、如月さんってこういう作品を見たりするのかな。
「如月さん、どこに行くの?」
そんな僕の疑問に答えること無く、如月さんはどんどん進んでいく。そして……あるコーナーの前で立ち止まった。
「ここ」
「えっと……えっ?」
「ここの作品が見たい」
「いや、あの、如月さん。ここの作品って……」
如月さんが指し示したコーナーに書かれているタイトルを見て、僕は思わず固まってしまった。だってさ、これって……クソ映画コーナー、もといB級映画コーナーって書いてあるよ。往年の酷い作品ばかりが集まった、闇鍋みたいな地獄のコーナーになっている。
中にはアイ〇ンマンのパクリみたいな作品だとか、トランス〇ォーマーのパクリみたいな作品だとか、後は実写版のデビル〇ンとかもあった。全て総じてクソ映画である。
「……えっと。どうして、ここに……?」
僕は恐る恐る彼女に向かってそう尋ねた。如月さんは全く表情を変えずに、僕を見てくる。それから一拍置いてから、ゆっくりと口を開いてきた。
「蓮くんは、こういった作品が好きなんでしょ?」
「え、えぇぇ……」
……ねぇ、どういう事なの? なんで、僕……如月さんからクソ映画ハンター認定されてるの? そんな素振りなんて見せた事が無いし……一体、何が原因なんだ?
「ほら、これ」
そして如月さんはそう言ってから、あるDVDのパッケージを棚から取り出して、それを僕に差し出してきた
「蓮くんが言ってた、ファイブヘッドジ〇ーズ」
「あ……」
その映画のタイトルとパッケージを見て、僕は戦慄するのと同時に気が付いた。僕がクソ映画ハンター認定されてる原因って、この間の水族館で発した冗談のせいだという事を。だって、僕……あの時にふざけて好きなサメの名前でファイブヘッドジ〇ーズを挙げてしまったから。
いや、あの時の発言がこんな風に返ってくるなんて、誰が想像出来るんだって話だよ。しかも……如月さん、割と真剣に勧めてきているみたいなんだけど。この誤解、どう解くべきなのか……。
「他にもシャーク〇ードとかもある」
シャ、シャー〇ネード……なんでこんな作品を置いてるの、このレンタルビデオ店。というか、このコーナーを作った店員、今すぐに出て来い。そして撤去してくれ。
「後はシン・ジョ〇ズってやつも」
「……ん?」
「それと、シックスヘ〇ドジョーズなんかもあった」
「……」
……あ。これ、あれだ。変に誤解を解く必要性は無いのかもしれない。というか、そもそも如月さん……別に僕の事をクソ映画ハンター認定している訳じゃなかった。
ただ単に如月さんは……彼女が好きなサメが出てくる映画を勧めてきている。それだけだった。……いや、でも、サメ映画もクソ映画な事には変わりないんだけども。
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