彼女の行き先は、昨日と同じ?
学校を出てからしばらくして、僕らは繫華街の方に向かって足を進めていた。如月さんが先を歩き、僕がその後ろを付いていくという形で。
本当は如月さんの横を並んで歩いたり、昨日に弥生さんが言ったり卯月が実践していた様に車道側をカバーしながら進む事も考えたけど、昨日の今日でまだまだ度胸の足りない僕は、そんな大胆に動く事は出来なかった。
そんな感じで進んでいくけど、僕にはこの歩いている道中は覚えのあるものだった。というか、昨日に歩いた道のりと全く一緒だった。
このまま歩いていけば、如月さんが途中で買い食いをしていた大判焼きの店があるだろうし、もっと進めば卯月の家に辿り着くのだろう。
でも、如月さんは何の用事で、何の目的があってこの道を進んでいくのか。この先の道中で何が僕を待ち受けているのか。全く想像が出来ないでいる。
彼女が出したヒントから考えるのなら……ただ単に遊ぶという可能性も考えられるけど、そんな安直な行動を如月さんがするのだろうか。
だって、あの如月さんだよ? 出掛けようといって山に行くし、調理実習でこれでもかという量の香辛料と唐辛子をぶち込もうとしてたし、水族館ではサメを特に愛でていた彼女なんだから。
そんな突拍子も無い行動をする彼女がいう遊びなんだから、もっと複雑怪奇な行動になる可能性が十分にある。例えば……そう、このまま前日の雨で水量の増えた河川敷に赴いて、それから空に向かって手を広げ、まだ見ぬ宇宙の人々に交信を図ろうとするかもしれない。ベントラーベントラーって感じで。
……いや、流石にそれは無いな。そんな路線は如月さんを馬鹿にし過ぎな想像だ。突拍子も無い彼女だけど、アニメとかラノベに出てきそうな奇天烈な行動は彼女はしない。やるなら、もっと現実的な路線での行動だろう。
ただ、じゃあ如月さんが今からするかもしれない遊びとは何なのか……という事になるのだが。これが全然分からないから困るんだよね。だから、今も現在進行形で困惑しているのである。
「蓮くん」
そして如月さんが僕の名前を呼んできた。なので、僕は彼女の方を向く。すると、彼女は僕に向かってある方向を指差してこう言った。
「あそこ」
如月さんが指差した先。そこには何も無く、ただただ整備された道が続いているだけだった。
「……どれ?」
何を指し示しているのか分からなかったので、僕は思わずそんな言葉を漏らしていた。すると如月さんは僕のその声を聞いてか、こう言ってきた。
「あれ」
「……もしかしてだけど、あれの事?」
「そう」
僕がその場所を指で差すと、如月さんはそうだと言わんばかりに、首を縦に振って頷いた。彼女が示したその場所は、まさかの昨日に如月さんが卯月と立ち寄っていた大判焼きのお店だった。
「えっと、大判焼きのお店に用があるの?」
「違う、今川焼のお店」
なるほど、如月さんは今川焼派なのか。こうなると、誰か回転焼き派の人が出てきてくれれば、主要な呼び方が出揃ってくれる……って、そうじゃない。今は大判焼きの呼び方論争なんかしている場合じゃない。
とにかく、如月さんが指を差して僕に知らせたという事は、間違いなくあそこに用があるのだろう。けど、なんか複雑に感じてしまう。あそこは昨日、如月さんが卯月と一緒に訪れた店でもあるから。
「行こ」
如月さんはそう言ってから、すぐに歩き出した。僕はその後ろ姿を追う。そしてお店の目の前に立つと、彼女は僕の方に視線を送ってきた。
「ねぇ、蓮くん」
「う、うん」
「蓮くんは、どれにする?」
彼女は店頭のメニュー表を見ながら、僕に向かってそう言ってきた。そこには粒あん、カスタードクリーム、抹茶、チョコレート、タピオカといった種類が書かれていた……って、タピオカって何? どう考えても地雷臭のするメニューなんだけど。大判焼きにタピオカとか前代未聞なんですが。
……まぁ、そんな事は置いておいて。如月さんは僕にどれを買うかを聞いてきている。けど、5種類ある商品の中で、僕はどれにするか迷ってしまう。
ただ単に決めかねているというのもあるし、どうして如月さんはここに僕を連れてきたのかという疑念もあるし、タピオカの大判焼きってどんなもんなんだって好奇心もある。……というか、マジで気になる。あの黒い粒々が大判焼きに入っているって考えるとキモいって思うけど、それでも凄く気になってしまう。
「……粒あんと抹茶を2つずつ」
と、僕がうんうんと悩んでいる間に、如月さんは店員さんへ自分の注文を伝えていた。そして注文を受けた店員さんは「少々お待ち下さい」と言って、商品の準備をし始める。
「如月さんは粒あんと抹茶を買うの?」
「うん」
「僕は、えっと……どれにしようかな……」
「粒あんは美味しい。おススメ」
「あっ、そうなんだ……」
如月さんからおススメを聞いたので、1つは粒あんに決定だけど、後はどうしようか。安パイはカスタードクリームなんだろうけど、でもタピオカが……タピオカのせいで考えが狂わされる。絶対に地雷だって分かるのに、だけど気になる。
「それじゃあ、その……全種類を1つずつ、お願いします」
そして僕は悩んだ末に、全部の味を1つずつ注文するという、ハズレが出ない買い方をするのだった。超安パイなその買い方に、如月さんは何も言わなかった。
それからしばらくして、店員さんが僕らが注文した商品を紙袋に入れて渡してくれた。僕らはそれを受け取ると、店から離れていく。そして如月さんはというと、紙袋を抱えながらもの凄く期待に満ち溢れた感じの表情をしていた。
「如月さん。その、大判焼き……じゃなくて。今川焼、好きなの?」
「ん」
僕の言葉に彼女は短くそう言って肯定をした。辛いものが大好きな如月さんだけど、こういった甘味も好きなのだろうか。
そういえば、前に食べたたい焼きも美味しいと言って食べてたっけ。辛いものが好きな人って意外と甘いものも好む人がいるから、彼女もそうなのかもしれない。
「それで、あの……これを買ったのはいいけど、どこで食べようか?」
「……」
「もしかしてだけど、歩きながら食べるつもりだったりするのかな……? それか、公園とかに行って食べたり……」
「違う」
如月さんは相変わらずの短い言葉でそう言った。じゃあ、一体何を考えているというのだろうか。僕は歩きながら彼女に次の言葉を待つ事にした。
「まだ食べない」
「え?」
如月さんの言葉に、僕は思わずそう返していた。彼女はそんな僕を他所に歩き続ける。
「これは後で食べる」
そして如月さんはそう言うと、大判焼きの入った紙袋を鞄の中に入れた。
「次、行こ」
如月さんはそう言って、またどこへ行くのか分からない目的地へと足を進め始めた。そんな彼女の後ろを僕はまた付いていく。
「そういえば、如月さん。さっきの買い物は、その……如月さんが言っていた用事になるのかな?」
「……? 違うけど」
「あっ、違うんだ……」
「今のはついでに寄っただけ。特に用事とは関係無いから」
「そ、そうなんだね……」
そんな会話をしながら僕らは歩き続ける。ちなみに方向としては昨日に向かった住宅街の方面じゃなくて、また別の方向。来た道を戻る形だ。
「えっと……如月さん、次はどこに行くの?」
「行けば分かる」
「そ、そっか……」
如月さんの発言に、僕はそう返す事しか出来なかった。まぁ、彼女がそう言うのなら……付いて行くしかないのだろう。でも、一体どこに向かっているのだろうか。それすらも分からないまま、僕らは歩き続ける。
そして如月さんはある場所までやって来ると、そこで立ち止まった。彼女は僕に視線を向けて、ここが目的地だと示してきた。
「着いた」
「えっと、ここは……」
「レンタルビデオ店」
如月さんが連れてきてくれた目的地。そこは僕が想像もしていなかったまさか過ぎる場所だった。というか、如月さんのイメージ的に不釣り合いとも思える場所であった。
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