［祝・１３万ＰＶ達成］ 如月さんは なびかない。～クラスで一番の美少女に、何故か告白された件～

彼のお節介さは底抜けである。

「終わったな」

「うん、終わった」

　エンドロールの最後まで見終わった後、煌真は立ち上がってテレビに近付いていくと、ビデオデッキを操作して、さっきまで見ていたＤＶＤを取り出していた。

　取り出したそれをレンタル用のケースにしまうと、煌真は私に視線を向けて来た。

「で、次はどうするんだ？」

「同じシリーズの次の作品が見たい」

「……そうか。まぁ、でも待て。俺としては、このディープブ〇ーって作品の方が面白そうなんだが、そっちを見ないか？」

「嫌」

「即答かよ……分かったよ、そっちにすればいいんだろ」

「ん」

　私は煌真の言葉に軽く頷いて返した。それを聞いた彼は小さくため息を吐いてから、次のＤＶＤをビデオデッキに入れて、それを再生した。

　そしてさっきと同じ様なサメ映画がまた始まった。同じシリーズだからこそ、この作品も竜巻に巻き上げられたサメが人を襲っていく。しかも、今度は空を飛ぶ旅客機をサメが襲っていた。本当に良く分からない作品だ。

「ホント、ある意味凄いよな。普通ならこんな作品を作ろうだなんて発想にはならないぞ」

「それ、褒めてるの」

「逆だよ。褒める要素が見当たらねえ。まぁ、昨日にみたエイ〇アンvsジョーズよりかは全然マシだけど」

「……そう」

　私は煌真の言葉にそれだけ返した。それからまた、テレビの映像に目を向ける。そしてしばらく映像を眺め続けていると……

「……なぁ、心奏」

　煌真が私に声を掛けて来た。だから、私は彼に視線を向けた。すると、彼はテレビに視線を向けたままで、話し掛けてくる。

「ちょっと聞いてもいいか？」

「なに？」

「今更、聞くのもなんだが……本当にこれが、お前の為になる事なのか？」

「……」

　煌真のその質問に、私はすぐに答えられなかった。私の為になるかと言えば、多分だけどなると思う。蓮くんの好きなものを知れるという意味合いでは、学びになるから。

　でも、それがいいのかどうかは私にも分からない。やってる事が間違っているかもしれないし、空回りしているかもしれない。

「……良く、分からない」

　だから、煌真の率直な問い掛けに対して、私は素直にそう答えた。結果が出るまでは、まだ分からないから。

「分からないけど、とりあえずはやれる事はやりたいの」

「……そうかよ」

「そう」

　私は煌真にそれだけを答えた。そしてまた、視線をテレビに戻し、映像を見つめ始める。すると……

「……なぁ。もう１つだけ、いいか？」

　再び、煌真が私に話し掛けて来た。今度は顔を向ける事はせずに、そのまま言葉を返した。

「なに？」

「これを一緒に見る相手、本当に俺で良かったのか？」

「……どうして？」

「どうしても何も無いだろ。俺は何度も言ってきただろうが」

　そして煌真は私の目を真っ直ぐに見つめてくる。『何度も言ってきた』というその内容には触れないまま、目で訴えてきた。

「別にお前が頼むのなら、俺はいくらでも付き合ってやる。お前が迷惑掛けようが、文句は言うけど構ってやる。だけど、俺はあいつにはなれないぞ」

「あいつ……？」

「そこまではっきり言わないと分からないほど、お前も馬鹿じゃないだろ」

「……」

　彼は明確な答えを言わないまま、視線を外して映像の方に目を向けていた。そんな煌真の横顔を見ながら、私は考える。

　煌真が言いたいのは、どうして蓮くんじゃなくて自分を誘ったのか。蓮くんを誘えばそれで良かったじゃないか。そうした事を言及をせずに追及している。

　けど、その理由については煌真に言う訳にはいかなかった。だって、私は蓮くんにこう言ってしまったから。『自分の事は、自分で何とかするから』って。

　それなのに、もう彼に頼ろうとするのは、それは私の甘えだ。だから、彼に頼らなくても大丈夫な様に、自分で頑張るしかないと思う。

　蓮くんとまずは普通に話す事が出来る様に、まずは学んでから……

「……はぁ。全く」

　そして私が考え事をしていると、煌真がそんな事を言いながら深いため息を溢していた。

「お前は昔から変わらないよな」

「……なにそれ」

「人一倍意地っ張りで、言う事を聞かない。それでいて、変に頑固なところが多々ある」

「うるさい。だから、なに？」

「意地を張るのはいいけどよ、少しはあいつの気持ちも考えてやれよ」

　そう言われた私は首を傾げて見せる。すると、煌真は呆れた様にまたため息を吐いていた。

「立花の気持ちだよ。お前も不安なんだろうが、あいつだって不安に決まってるだろ」

「蓮くんも……？」

　蓮くんも不安でいる。煌真に言われて私は初めてその事に気付いた。どうしてそんな当たり前の事に気付かなかったんだろう。

　そう言われてみれば、私は自分が頑張る事ばかり考えていて、蓮くんの事は気にしていなかった。頑張っている姿勢を見て貰いたかったから、その事ばかり考えていて、彼を遠ざけていた。

　だけど、蓮くんだって私と何も変わらない。彼も悩んだり不安に思ったりする。その事に頭が回っていなかった。

「……私、蓮くんの事、全く考えてなかった」

「そんな事だろうと思ったよ……まぁ、あいつの気持ちも少しは汲んでやれ。あいつは自己主張が苦手なんだよ」

「……」

「どうせお前の事だから、あいつを遠ざけてたのも変に甘えたくないとか、そんな理由なんだろうがな。別に甘えたっていいだろ」

「……私なんかが、良いのかな？」

「良いに決まってるだろ。あいつはそれを無碍にはしたりしねえよ。そういう奴なんだからな」

「……」

　私は煌真の言葉を黙って聞いていた。そして、煌真はそんな私を見てから、また口を開く。

「まぁ、お前があいつに近付きたいってんなら、俺はいくらでも協力してやる」

「……ん」

「お前が立花と対等になりたいんだったら、少しはあいつに合わせてやれ」

「……うん」

「で、それでもあいつと向き合うのが不安だって言うのなら、それまで俺が手伝ってやるからよ。こんなＢ級映画だって一緒に見てやる。まぁ、言うなれば……」

　そう言った後、煌真は顎に手を当てて、少し考える様な仕草をしてから……

「俺は立花の代わりだ。仮の彼氏役ってところだな」

　ハッと鼻で笑いながら、煌真はそんな言葉を口にしたのだった。