彼女の登校を心から待ち侘びる僕
それからしばらくして……教室の扉が開く音を耳にし、僕は視線を扉の方に向けた。そこにいるのは如月さんであると期待して、僕は扉の方に目を向ける。
しかし、そこにいたのは如月さんではなく、別のクラスメイトだった。眼鏡を掛けていわゆる坊ちゃんヘアーと呼ばれる髪型をし、真面目を絵に描いた様なそんな容姿をしている男子生徒。
彼はうちのクラスの学級委員長である。名前は知らない。だから、僕は勝手に丸尾くんと心の中で呼んでいたりしてる。別に友達でもなんでもないけど。
そうして如月さんガチャが見事に外れた僕は少しだけため息を吐いて、それからまた視線を読んでいる本に戻した。さっきから、こんな事を繰り返してばかりである。扉の開く音も、もう何度となく聞いてきている。
全く……どうやら今日の如月さんガチャの設定はあまり良くないみたいだ。いつもならもう出てもおかしくないのに、今日はSSRの引きがやって来ない。どうなっているんだ、今日のガチャ排出率は。
もちろん、SSRは如月さんの事で、委員長はコモンである。……うーん、でも、委員長は委員長で良いキャラしているし、アンコモンでもいいんだけど、僕の求めるキャラじゃないし……まぁ、如月さん以外は全部コモンクラスでいっか。
「……はぁ」
そんな馬鹿げた事を考えながら、僕はため息を吐いてから読書を再開した。そして再開をしてから数秒後―――またも扉の開く音を僕は耳にする。僕はまたも読書を中断して、扉の方に目を向けた。すると、そこにいたのは卯月の姿だった。
彼は僕が視線を向けた事に気付いたのか、気だるげな表情を浮かべながら僕の席の方に近付いてきた。そしてそのまま自分の席に鞄を置いてから、僕に向けて声を掛けてくる。
「よう」
「あっ……お、おはよう……」
僕は近付いてきた彼に向けて、たどたどしく挨拶を交わした。すると、彼は僕の近くの席の椅子を引き、そこにドカッと座った。それから僕に向けて鋭い視線を向けてくる。
「……」
「……え、えーっと?」
「……悪かったな」
「へ?」
卯月にジッと見られ続け、僕はその思惑や意味というものを理解出来ずいたけど、そうしたら急に彼はそう言って謝ってきたのだった。それだから、僕は思わず気の抜けた返事をしてしまった。
「だから、悪かったっつってんだよ」
「え? いや、あの……何が?」
「……はぁ」
卯月が何について謝っているのか分からない僕は彼にそう問い掛けると、彼はこれ見よがしに大きなため息を吐いた。
「それ、言ってもいいのか?」
「え、えっと……別に、いいけど」
「……あいつじゃなくて、悪かったな。俺が言いたいのは、そういう事だよ」
ぶっきらぼうな感じに卯月はそう言い終えると、何とも言えない感じに後頭部をガシガシと掻いてみせた。
「お前、如月の事を待ってただろ? で、俺が教室に入った途端、落胆した様な表情をしやがった」
「え、えっ? 僕、そんな顔してたかなぁ……?」
「あぁ、してたよ。明らかに、目に見えて残念そうな表情を浮かべてやがった」
……ちょっと待って。という事は……卯月の前に入ってきたクラスメイトに向けても、僕はそんな表情を浮かべていたのだろうか?
もっと言えば、教室に入った時にもそんな表情を浮かべていたかもしれない。見渡してもいなくて、それでガッカリして……みたいな感じで。
……もしかすると、僕がそんな表情を浮かべていたからこそ、弥生さんは僕の事を心配して声を掛けてくれたのだろうか……なんて、それはちょっと考え過ぎか。
「ったく、そんな風に待ち侘びるぐらいだったら、あいつと一緒に登校するとか、待ち合わせるだとか、そうすればいいじゃなえか」
「そ、それは、ちょっと……如月さんに迷惑、というか……僕の都合に付き合わせるのは、どうかと……」
「……あのな。お前はあいつの……如月の彼氏なんだろ。それぐらいの1つや2つ、付き合わせてやれよ」
卯月は呆れた様子でそう口にしてきた。僕はその彼の言葉に思わず言葉を詰まらせる。
「だ、だけど……」
「お前ばかり付き合わされるのは違うだろ? あいつだけ迷惑ばかり掛けるのは筋違いだ。だから、もっとあいつに迷惑掛けてみろって」
卯月はそう言うと、僕の肩を軽くポンッと叩いてきた。それに対して僕は何て言えば良いか分からず、口を噤んでしまう。
そもそも、彼はまだ知らないから、そんな事が言えてしまうのだ。僕はもう、如月さんの彼氏役でも何でもないのだから。そんな僕が迷惑を掛けるだなんて、それこそ筋違いだ。
と、僕がそんな風に考えていると、もう何度目か忘れていて思い出せない、扉の開く音が聞こえてきた。僕はその音に反応して、またも扉の方に目を向けてみる。
「……あっ」
すると、僕が視線を向けた先、教室の扉のところにいたのは、今度こそ如月さんだった。
「……」
彼女は教室に入ってくるやいなや、何かを探す様に教室内を見渡していた。そして、そんな彼女は僕と目が合うと―――
「……いた」
如月さんは小さくそう言って、僕と卯月が腰掛けている席に向かって歩き出したのだった。
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