不当な評価に思えても、僕にはそれが否定出来ない
「―――と、言う感じでして……」
「なるほどねぇ……。そういった事があったの」
僕が全てを語り終えると、先生は頬に手を当てながら考える様にしながら呟いた。どうやら僕の置かれている状況を理解して貰えた様だと分かった僕は胸を撫で下ろす気分だった。
「それは立花ちゃん、辛かったでしょうね」
「本当に、辛かったんですよ……」
「うんうん、それなら授業に出られなくても仕方ないわよねぇ……」
「そ、そうですよね」
「可哀想に。私ならその気持ち、理解出来るわぁ……」
「……ん? あの……?」
何やら急に先生の声のトーンが変わった気がして嫌な予感を覚えた僕は即座に尋ねた。すると、釜谷先生はゆっくりと立ち上がり、静かに語り始めたのだった。
「えっと、先生……?」
「……なんて」
「えっ……?」
「言うと思ったの、この馬鹿ちんがぁ───っ!!!!!」
次の瞬間、釜谷先生の怒声が室内に大きく響き渡る。それはもう、割れんばかりの大絶叫だ。その威力はラージャン級……いや、ティガレックス並かもしれない。
とにかく、その声は部屋を余裕で突き抜けて学校全体にまで響き渡った。音の振動でまるで地震が起きたんじゃないかと思ってしまう。そしてその爆心地に立たされる形になった僕は、鼓膜が破れたかと思える程の衝撃を受けていた。
あまりの爆音に驚いて耳を押さえて蹲っていると、目の前には激高した状態の先生が立ち上がっていた。先生は思いっきり怒り心頭状態らしく、めっちゃキレておられるのである。頭部のツルツルな部分には青筋がいくつも浮かび上がっていて、今にもピキっと音がして切れそうに思えてしまう。
「あ、あの……」
「そもそも、彼女に振られたから授業をサボりました……だなんて、そんな理由が通じるとでも本気で思っているのぉ……?」
「いえ……その……」
「傷心なのは分かってあげられるけど、せめて授業ぐらいは出なさいよ!」
「す、すみませんでしたぁ!!」
僕は先生の剣幕に圧倒されてしまい、そのままただただ頭を下げる事しか出来なかった。そんな僕の様子に呆れたのか、先生は溜息を吐くとまた椅子に腰を下ろした。そして一口コーヒーを飲むと落ち着いた様子で尋ねてくる。
「それで? これからどうするつもりなの?」
「いや、どうって言われても……」
「はぁ……全く。とりあえず、明日からはちゃんと授業は出なさい。もし仮病とかで休む様なら、今度こそただじゃおかないわよ?」
「はい。分かりました……」
僕は肩を落としながらそう答える。そんな僕の様子に先生は苦笑し、再びカップに口を付ける。
「それと、本当なら反省文だとか補習だとか、色々とペナルティを付けるべきなんだろうけど……」
「えっ!? そんな事しなくちゃいけないんですか!?」
「授業サボったんだから、当たり前でしょ! ……ただ、今回は初犯だから無しでいいわ。これに懲りたら、二度と授業はサボらない事。いいわね?」
「わ、分かりました」
僕は素直に頷いた。まぁ、サボった事に対しては僕が100%悪いのは明白だし、仕方ない。次からはちゃんとする様に心掛けよう。
「後はそうね……」
「……まだ何かあるんですか?」
「そんな嫌そうな顔しないの。ただ、今後の立花ちゃんの事が心配なのよ」
「へ? 僕が、心配……?」
「そうよ。立花ちゃんの事だから、失恋なんて初めての経験でしょ。だから、この先ちゃんとやっていけるか不安で……」
「そんな……先生、こんな僕なんかを、心配してくれるんですか?」
「あら、当たり前じゃない」
「せ、先生!」
そう言って胸を張る先生を僕は尊敬の眼差しで見つめた。そして僕は考えを改める。先生はただの筋肉モリモリマッチョマンの変態なんかじゃない。ちゃんと僕なんかの事を心配して、寄り添ってくれる素晴らしい教師……いや、頼れる大人なんだと改めて自覚した瞬間だった。
「ふ、ふふっ……!」
それと同時に胸の奥から嬉しさが込み上げてくる感覚を覚えて自然と笑みが溢れてしまった。そんな僕を不思議そうな目で見ながらも先生は首を傾げるばかりだが、それも仕方ないだろう。だって、僕自身ですら自分の感情を上手く表現しきれていないんだから。
だけど、一つだけ言える事があるとすれば……今の僕は物凄く幸せだという事だけははっきりしていると思う。それもこれも全部先生のお陰だと言っても過言ではないだろう。先生への感謝の気持ちで心が満ちていく様な感覚を覚える中、僕の表情にはいつの間にか笑みが浮かんでいたのだった。
「だって、立花ちゃんって変に失恋を拗らせて、ストーカーになったり、不審人物になりそうな気がするのよね」
「は……?」
そして先生の何気無い一言に僕の思考回路は一瞬停止した。今、何て言われた? いや、確かに一理あるかもしれないけど、流石にそれは……。
「立花ちゃんって、どう考えても一途な男の子だからねぇー。そうならない為にも私としては心配で……」
「いやいやいや! そんな心配されなくても大丈夫ですよ!」
慌てて先生に言い返す僕だったけど、その言葉とは裏腹にどこか不安が残ってしまうのはきっと気のせいなんかじゃ無いだろう。
いや、僕だってそこまで馬鹿じゃない。そんなストーカー行為を働くつもりは一切無いし、もしそんな事をしたら如月さんにもっと嫌われてしまうかもしれないのだから。
……だけど、絶対にする訳がないと断言出来ないのはどういう事なんだろうね。うん、なんか僕だったらやりそうな気がしてきたぞ。
「っていうか、その前に先生! 先生の中で僕がまるで、失恋を拗らせてストーカーになりそうなキャラになっているのはおかしくないですか!?」
「いや、だって、そうなりそうじゃない」
「酷い!!」
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