幕間~彼と彼女、その他の来館者たちについて~ 2
―――遡ること数時間前……
蓮と心奏が集合場所にしていた駅前にある時計台広場。ここで蓮が心奏を待っていた時のこと。
「……」
時計台広場から少し離れた物陰。そこで煌真は蓮の様子を伺っていた。
「あいつ……本当に大丈夫だろうな」
誰に尋ねることも無く、一人で呟く煌真。彼は今日、二人の行く末を心配に思い、こっそりと尾行をしていたのだった。
「立花のやつに、出掛ける時の服装を見繕ってくれ、って頼まれた時には何事かと思ったけどよ。てか、何だってあいつは俺に頼んできたんだか……」
二人がデートをするというのを知ったのも、それが切っ掛けだ。蓮がテストで頑張ったご褒美として、心奏と出掛けることを決め、そしてその時の服装についてアドバイスが欲しいと頼まれたのだった。
煌真としては複雑な心境であったが、それを無碍にすることやアドバイス無しで行かせて失敗した場合を考えると、放って置くことは出来なかったのだ。そして何より、その相手に変な気を遣わせることになる方が、もっと問題だと思ったからこそ、引き受けたのだった。
「しかし、あいつもあいつだ。一体、何を考えているんだか……」
そして彼がそう呟き、一考するのは蓮が待っている相手である心奏のことだ。煌真にとって昔馴染みでもある彼女。人付き合いが嫌いで遠出も嫌う彼女が、こうして出かけることを承諾したこと自体、意外な出来事であった。
(……まあ、あいつの気まぐれは今に始まったことじゃないしな)
昔からそうだったと思い返しつつ、煌真は再び視線を戻すと、蓮の様子を観察することにする。すると―――
「あれー? 卯月くんじゃん」
「げっ!?」
突然背後から声を掛けられたことで驚く煌真。慌てて後ろを振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。その人物を見て、思わず顔を顰めてしまった。
「……何でお前がここにいるんだよ」
不機嫌さを隠そうともせずに煌真が尋ねると、目の前の人物は屈託のない笑みを浮かべて答える。
「やー、たまたま通り掛かっただけなんだけどさー」
そう言って彼女―――未来は笑う。そんな彼女に対して、呆れたように溜息を吐く煌真。
「通り掛かっただけだと?」
「いやいや、今日は休みで、家の手伝いも無いからさ。適当にぶらぶらしてたら、何やら怪しい感じマシマシの卯月くんを見かけてしまった訳でしてねー」
「……そうかよ」
「うんうん、それで? こんなところで何をしてるのかなー?」
にやにやとからかうような笑みを浮かべながら尋ねてくる彼女に、煌真は思わず舌打ちをしたくなる衝動に駆られた。だが、なんとか堪えると、ぶっきらぼうに返事をする。
「何でもいいだろ」
「ふーん、そっかー」
何かを察したのか、彼女はそれ以上追及してくることは無かった。そのことに安堵しつつも、煌真は内心で毒づく。
(くそっ、面倒な奴に見つかっちまったな)
心の中で悪態を吐く彼だった。それと同時に何とかして彼女を追い払わないと、と思考を巡らせていると―――
「って、あれあれー? あそこにいるのって、立花くんだよね?」
そうしている間に、未来が遠くにいる蓮の存在に気付いたようだった。それを聞いた途端、焦り始める煌真。
「何だか、オシャレな格好してて……もしかして、あれってデートってやつなのかなー?」
「は、はぁ? 立花? どこにいるんだ、そんなやつが……?」
「いやいや、あそこにいるじゃん」
そう言いながら指で指し示す未来。その先にはついさっきまで煌真が見守っていた蓮が呑気に立っている。そして見つかってしまった以上、もう言い逃れは出来ないだろうと判断した彼は素直に白状することにした。
「……ああ、そうだよ。あいつ、今日これから出掛けるみたいなんだとよ」
観念したように煌真が言うと、未来は少し驚いた表情を見せた後、楽しそうに笑っていた。それを見て煌真は思う。
(くそっ、やっぱりこうなるのかよ……)
そう思いながら頭を抱える彼に構わず、未来はさらに続けた。
「へー! そうなんだー! これは面白いことになりそうだねー!」
そう言う彼女の目はキラキラと輝いているように見えた。
「で、そのお相手はもちろん……心奏ちゃんだよね?」
「そうだな」
「なるほどー。それで、卯月くんは二人がちゃんとやっていけるかどうか、見守ってるんだねー」
「……何でそんなことまで分かるだよ」
「んー。まぁ、状況証拠的にーそれが妥当かなって思ったからだよ」
「そうかよ」
「うん、そーだよー」
にひひとした笑みを浮かべる未来。それに対して、苦虫を噛み潰したような表情を見せる煌真。そして彼はそんな彼女に対してぶっきらぼうな口調でまた話し掛ける。
「つーか、そんなことよりも、さっさとどっか行けよな。俺は忙しいんだ」
「えー、そんなこと言わずにさ。せっかく会ったんだから、もう少し話そうよ」
「断る」
「ぶー、卯月くんのいけずー」
「うるせぇ、いいから早く消えろっての」
「嫌でーす。お断りしまーす」
未来はそう言って、煌真の言葉を一蹴する。
「というかさー、ここで会ったのも何かの縁だし、アタシも一緒に付いていっても良い?」
「はぁ!?」
突然の申し出に驚く煌真。そんな彼をよそに、未来は言葉を続ける。
「だってさ、気になるじゃん。あの二人がどんなデートをするのか。だから、アタシもこっそりついて行って、その様子を観察したいなーって思うんだけど、どうかな?」
「お前なぁ……別にこれは、遊びでやってるんじゃあ……」
「良いから、良いから。お願いだから、アタシも行かせてよー」
「……ちっ、勝手にしろよ」
「わーい、やったー。卯月くん、ありがとー」
「はぁ……」
渋々ながらも了承してくれた煌真に対し、無邪気に喜ぶ未来。そんな彼女を横目に、彼は深い溜息を吐いたのだった。
そして二人は合流した蓮と心奏の後を追うようにして歩き始めたのだった。
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