幕間~彼と彼女、その他の来館者たちについて~ 1




******




―――ちょうどその頃。別の場所では……。


「あーあ。彼氏持ちとか、マジ萎えたわー」


「ホント、それな」


ナンパに失敗した二人の男、金髪と茶髪のチャラ男はそう愚痴りながら、水族館の通路を歩いていく。そして、適当な柱の前で立ち止まる。それから男たちは揃って溜め息を吐いた。


「しかしよ、あの子、本当に可愛かったなぁ」


「だよなー、俺、マジで惚れそうだったもん」


「分かるわー、俺も絶対モノにしたいって思ったもんな」


そんな事を話しながら、彼らはその場に座り込んでしまう。


「てか、こんな場所で本当にナンパなんか成功するんか? さっきから彼氏持ちの女の子ばかりなんだけど」


「いやいや、大丈夫だって。俺、先輩に聞いて成功したことがあるって言ってたから、お前を誘ってやったんだろうが」


そう言って笑う金髪の男に、茶髪の男が呆れたように言う。


「ちなみにだけど、その先輩ってどこの先輩よ? 大学か? それともバイトのか?」


「もちろん、あれよ。偉大なる大先輩が数多く集まる、その名もヤ〇ー知恵袋よ」


「……それって参考になるのか?」


茶髪の男の答えを聞いた金髪の男が訝しげな表情で聞き返す。それに対し、茶髪男は自信満々といった様子で答える。


「なるに決まってんだろ! 俺を信じろ!」


「けどなぁ……これで失敗するのも三回目。そろそろ場所を変えた方がいいだろ」


「いいや、俺は諦めないね! 絶対に成功してみせるさ!!」


意気揚々と語る茶髪の男を呆れた目で見ながら、金髪の男は大きく溜め息を漏らす。


「で、次はどうするんだ? さっきは物静かそうな女の子にアタックして失敗。一回目はお嬢様みたいな清楚な子に声を掛けたら、ヤクザみたいな男が出てきて撃沈。二回目は小悪魔系な金髪の女の子に声を掛けたら、変な主従プレイを堂々と見せつけられて終了。これじゃあ、いつまで経っても終わらないぞ」


「うるせー、黙って俺の作戦を聞いてろよ」


「はいはい、分かったからさっさと話してくれ」


やれやれといった感じで肩を竦める金髪の男を見て、茶髪の男は不満そうに唇を尖らせるが、すぐに気を取り直したように咳払いをすると、話し始めた。


「いいか、次に狙うのはギャル系の女の子だ。そういった女の子なら遊び慣れてるだろうから、誘いに乗ってくれると思うぜ」


「ふむ、なるほど。つまり、ああいう感じの子だな?」


金髪の男が指差した方向に茶髪の男茶が視線を向けると、そこには確かにギャル風の女の子が立っていた。そして見るからに遊んでいそうな雰囲気が彼女にはあった。


「ああ、そうだぜ! あそこにいるような子だよ!」


期待に満ちた眼差しを茶髪の男は女性に向け、そう口にした。


「よっしゃ、そうと決まれば早速行動開始だぜ!」


「おう、そうだな」


そうして二人は立ち上がると、ターゲットに向かって歩き始める。その際、金髪の男と茶髪の男は互いに目配せをし合うと、同時にニヤリと笑みを浮かべたのだった。


「ねぇねぇ、そこの彼女~」


「えっ、アタシ?」


「今一人でしょ? 良かったら俺たちと一緒に遊ばない?」


軽薄そうな笑顔を浮かべた茶髪の男がギャル風の少女に声を掛ける。すると、ギャル風の女性は一瞬驚いた表情を浮かべた後、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「あっ、すみませーん。実はアタシ、今日は友達と来ててー」


「へー、そうなの。じゃあ、その友達も一緒でいいからさー、俺たちと遊ぼうよ。そうすれば、二対二でちょうど良くね?」


「あー、でもー」


「いいじゃん、いいじゃん。そんなこと言わずにさ、俺らとエンジョイしようぜー!」


「そうそう、一緒に楽しもうよー!」


ギャル風の少女の言葉を遮るように、二人の男が捲し立てるようにそう言った。そんな彼らの勢いに押されたのか、ギャル風の少女も戸惑っている様子だった。


「うーん、どうしようかなー」


「悩む必要なんてないからさ」


「そうそう。ほら、行こうぜ!」


そう言って二人は少女に笑みを浮かべながら迫っていく。すると―――


「おい、何をしてるんだ、お前ら」


男たち二人はそうした声が聞こえたと同時に、肩を掴まれて動きを止められる。驚いて振り返ると、そこに立っていたのは一人の男だった。


彼は少女と似たようなアロハシャツを身に纏っていた。そして目立つ赤髪とハート形のサングラスを掛けていて、さらに雰囲気が普通の人とは違うような雰囲気を醸し出していた。そんな彼が険しい表情を浮かべ、二人を睨みつけていた。


「え、えっと……?」


「あ、あなたは……?」


「あっ、彼がアタシの言ってた友達でーす」


戸惑いながら尋ねる二人に対し、ギャル風の女性は明るい声で答えた。それを聞いた男たちは驚きの表情を見せる。


「そ、そうなの……?」


「はい、そうですよー」


にこやかに笑いながら返事をするギャル風の女性。それに対して、男たちは冷や汗を浮かべていた。明らかに動揺しているのが見て取れる。


そんな彼らの様子を気にすることなく、少女は言葉を続ける。


「で、どうします? さっきの二対二ってのが良く分からないですけど、彼も交えて一緒に遊びます?」


その言葉を聞いた瞬間、彼らは顔を見合わせると、揃って首を横に振るのだった。


「いえ、結構です……」


「そうですね……なんか怖そうだし……」


怯えた様子でそう言う彼らに、少女はニッコリと笑うと、今度は男の方に顔を向けていた。


「という訳だからさー、放してあげてね」


「……別にいいが」


男はそう言うと、二人から手を離した。そして、二人は男と少女から距離を取りつつ……。


「す、すみませんでしたー!」


「ご、ごゆっくりー!」


そして二人はそのままどこかへ走り去っていった。そうした慌てた姿を、男は頭を掻きながら見送っていた。


「何だったんだ、あいつら?」


「んー、ナンパのお兄さんたちだよ。アタシが一人でいると思ったから、声を掛けてきたんじゃない? けど、卯月くん。ナイスタイミングだったねー」


「お前なぁ……まあいいか」


「あははっ、ありがとね」


男と少女―――煌真と未来の二人はそうした会話を交わす。実はこの二人も蓮たちと同じ水族館にこの日、訪れていた。


お揃いに近い服装やサングラス。傍から見れば、付き合っているカップルのように見えるが、その実態は違う。二人は別に、付き合ってなんかはいない。


彼らの目的、それは……蓮たちのデートの行方を見守ることであった。


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