小学校 入学



保育園の卒園式では息子は皆と同じように参加できていた。


年長みんなにとって最後の大事な式。

もちろん親にとっても大事な式。


息子の叫び泣きなどによって壊したくなかったので、私はいつものように絶対見つからないような保護者席を選んで着席した。

行事ごとになると毎度のことだが、息子が私の姿を見つけるとどうなるか・・・予想できない事態が発生する可能性があったからだ。


その代償として、私も息子の姿を最後まで見つけることができなかった。


皆と同じように息子にとっても園生活最後の晴れ舞台だったが、見えない覚悟は最初からしていた。


そして無事に終えることができ安堵している私は本当に最低だと自覚している。

”おめでとう”という気持ちより”無事終えて良かった”という安心感の方が勝ってしまっていたから・・・。





このように小学校の入学式もなんとかやり過ごせるようにとばかり願っていた。





入学式前日の夕方、

通級指導の先生から電話が入った。


突然だったが、リハーサル(前日練習)に誘ってもらったのだ。


お風呂に入る直前だったが、電話を切ってすぐ息子と小学校に向かった。


すると大勢の先生に暖かく迎え入れられ、息子も場所見知りすることなく自然に体育館へ入った。


息子は通級指導の先生のことが大好きだ。

年中・年長の頃から行っていた通級の見学や体験、

通級指導の先生も3学期は保育園に様子を見に来てくれていた。


何度も交流しているが、好き嫌いがハッキリしている息子は

初めて会った日から先生のことが大好きだった。





息子以外にも練習に来ている子が数人いたが、我が家と同じく入学前から学校と連携を取ってきたからこそ声をかけてもらえたのだろう。

(後から知ったが、突然の連絡ではなかったのだ。学校から保育園にリハーサルについて伝言が来ていたが保育園が私に伝え忘れていたらしい。そして当日来ないことを心配して電話をくれたのだ。)





私は体育館の後ろで通級指導の先生と見守る。

息子は大勢の先生に入学式の流れを教えてもらっていた。

優しい・・・先生方は本当に優しかった。


そして息子一人のリハーサルは一回で成功。

息子は一度聞いただけで理解することが難しいのに先生の言う通り動くことができたのだ。

先生も物凄く褒めてくれていて、遠くからでも息子の嬉しそうな顔がよく見えた。

その先生が担任なのかな?と思った。(実際は違った。)


リハーサルが終わって息子に近付くと

息子が椅子を指さしながら『僕の座る椅子だけシールが貼ってあるんだよ』と目をキラキラ光らせながら教えてくれた。


体育館に並べられた椅子を見ると、息子が座る椅子には本当にシールが貼られていて「歩いてきたら、このシールが貼ってある椅子に座るんだよ」と先生が教えてくれたらしい。


息子はシールが目印になって分かりやすいと大喜び。


先生方の配慮に改めて感動・感謝した。






そして遂に小学校の入学式がやってきた。


入学式当日は制服を嫌がっていたが、前日までに何度か着る練習をした成果か思ったより着替えに時間はかからなかった。


息子から不安と緊張が伝わってきたが、親子楽しく小学校まで歩いて登校。


クラス発表の用紙が外に貼られている。

そこだけ込み合っていたが、前日に通級指導の先生がクラスを教えてくれていたためクラス発表を見ることなくクラスへ向かった。


騒がしい場所を避けることが出来ただけでも息子の精神状態を考えると非常に大きい。





だがここで意外なことに、

クラスに着くと息子は私達から離れてサッと教室に入り席を見つけて座ったのだ。


特に私から何かを言ったわけでもなく、先に来ていた子が座っているのを見て行動したのだろう。


不安そうな表情も消えてケロッとしている。


保育園にいる時はいつ見ても暗い表情をしていたのに笑顔さえ見えた。





その後、私たち保護者も教室に入るよう指示があり先生(担任ではない)の話や入学式の流れについて説明を受けたが、その間も息子は席についてジッとしていた。


ーーーーー本当に意外だった。



私たち保護者は子供たちより先に体育館へ向かうのだが、それも全く気にしてない様子。


私が教室を出ると、後ろの席を向いて知らない子(同じ保育園出身ではない子)と筆箱を見せ合いながら笑ってる・・・。


本当に大丈夫なのか?

不安と期待が入り混じる。





そして入学式が始まった。


保護者席は入った順番に着席することになっていたので、今までのように”息子から見つからない席”を選ぶことはできなかった。


そうなると当然、目ざとい息子にはすぐ見つかってしまう。


ーーーそれでも息子は他の子と同じように”普通”に参加できた。


息子にとって”普通”は簡単なようで難しい。





今までも”もしかしたら出来るかも・・・”と期待しては裏切られる繰り返しだったので、何事もなく終えたことに対して「これは夢なのではないか?」と信じられなかった。


寧ろ息子は入学式を不安がることなく楽しそうにしていた。


驚きすぎていつの間にか式が終わっていた。

今までこのような時間は物凄く長く感じていたのに、入学式はあまり記憶にないくらいあっという間だった。





感動して私は両親(息子から見て祖父母)に報告すると同じように喜んでくれた。


この気持ちは当事者にしか絶対に分からない。






ーーーだから私は再び油断したのだ。


”もう行事ごとは私が見えるところにいても大丈夫なのではないか”、と・・・。





そして入学してすぐ2日後に控える参観日。


私の心に少しの余裕が生まれた。

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君は太陽 〜自閉スペクトラム症の息子〜 LikuHa @rikuha1210

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