第11話 誤算②

「俺達は“ソロル・ノウビシウムに召喚されし者”だ、これは間違いない確認してもらっても構わない」

ナトスは感じ取っていた、

自分たちが言葉を発し会話が可能であるために

人間にしか見えない。

まさに“もったいない”ことになるのではと。

「何ですって!?」

「どう見ても人間じゃねぇか!」

ベネーもエクードも有りえないと言わんばかりの反応を見せた。

しかしナトスの思惑通りベネーがミノアに確認する。

「“鑑定”を使用しても?」

「ど、どうぞ」

鑑定の対象はミノアになる。

これもナトスの思惑と一致していた。

そしてナトスは本当に“もったいない”

ことになりかけ危なかったと感じる。

ソロルの性格上、面倒を避ける為、

あのまま流していたかもしれないと思ったのだ。

いやそれ以前に、自身が召喚した事実すら

失念している可能性もあった。

「(あっ!そうじゃん、私が召喚したんだった・・)」

ソロルがそんなことを思ってい居ると、

ベネーがトコーナに話しかけた。

「トコーナ、一緒に確認を“鑑定”」

「はい!“鑑定”」

ベネー/トコーナ「!!!」

そんな分け有るかと見守っていたエクードは

二人の様子を見て驚きながら聞いた。

「なんだお前ら、その反応・・・マジなのか!?」

そしてナトスがベネー達に疑問を投げかける。

「いくつか確認させて欲しい、おそらく召喚士並びに召喚獣においての規定・法律等はかなり厳しい物だと認識しているのだが間違いないか?」

ベネーも思うところがあり、考え込んでいると

トコーナが代わりに答えた。

「え、えぇそうよ(凄い!私、召喚獣?いや召喚者と話してる!!)」

ナトスはさらに疑問を投げかける。

「召喚獣が何かしら“不利益”を発生させた場合、それを召喚した召喚士がすべての責任を負わなければならない、では“利益”はどうなる?」

「ナトスさん・・ですよね、あなたの言いたい事は正解です」

ベネーもナトスが言わんとする着地点に気づいていた、

そしてそれを聞いていたエクードも。

「そうだな、フィニクシーがそうだったように、召喚士規定に則るならそうなる!」

ナトスは気付いていた、ベネーもエクードも

ソロルのランクアップを強く望んでいたと。

それだけソロルは他者から愛される人物。

そう感じたからなのか、

最後はいつもの嫌味っぽさが言葉に出てしまう。

「では、ソロちゃんが“召喚士”として俺達を召喚した以上、俺達の罪も功績もそれに伴う罰も権利も、それを召喚したソロちゃんの責務という事で」

ベネーはナトスの言い回しが気に入ったのか、

声をあげて笑いその言い回しに乗った。

「ふふふ♪えぇそうです、あなたの言う通りソロルに責任を押し付けましょう♪」

「え?なに?何の責任!?」

ソロルが話について行けず混乱しているのをよそに

エクードがベネーを急かす。

「ごちゃごちゃ小難しい事言ってないでさっさと宣言しろベネー!俺が証人になってやるからよ!」

ベネーもそのつもりだと言わんばかりに姿勢を正した。

「そうですね、では、コホン!・・・世界冒険者協会専属鑑識エクード・プランプ立会のもと、クヨトウ公営ギルドA型事業局南支部ギルドマスター、ベネー・プルカーノが宣言します!Cランク冒険者で召喚士のソロル・ノウビシウムが、その召喚士としての技能を存分に発揮し、極めて社会貢献度の高い功績を残したことを認めます!よって・・・おめでとう、ソロル・・・あなたがBランク冒険者になった事を宣言するわ」

エクードが喜びながらも悪態を付く

「何だぁベネー、最後までビシッと決めろよまったくよぉ・・・まぁでも、ソロル良かったな・・」

過去他の冒険者が宣言を受けてるのを見たことがあったソロルは

今回自分の名で宣言されたことに驚愕していた。

「・・・わ、私がBランクに昇格?・・嘘、ホントに・・」

男A「上位の仲間入りじゃないっすか!」

男B「めでたいっすね!」

「嬉しいねぇソロル」

リーネ達その場に居たみんながお祝いの言葉を述べる中、

トコーナもお祝いの言葉と共に話しをふった。

「やったね!ソロル♪あっ、でも換金しようとしてたなら、それは残念だったかも」

冒険者のソロルはそれが何の話なのか直ぐにピンときた。

「だ、だよね・・・確か討伐依頼がかかった魔獣はギルドに没収されるんだったっけ」

「今回の討伐報酬は60,000レアリーとランクアップのみだから金銭に関しては損するのは間違いないでしょう、“暗黙の了解”が在るとはいえBランク以上の冒険者が手を出しにくくする為の物でもあるのごめんなさいね」

ベネーが解体を諦めなければならないソロルに説明と共に謝罪の言葉を口にした。

それに対しソロルは元気いっぱいに返答した。

「いえいえ、謝らないでください、上位ランカーになったんだから他でも稼げます!大丈夫です!」

そのやり取りを見ていたエクードが、

解体の件で思い出した疑問を投げかける。

「そういやぁ一つ気になってんだがよ?お前そのアームレッド“展開”する時、わざわざ個体ナンバー言ってただろ、もしかして他のアームレッドも“収納”してんのか?そのナンバー13ぐらい状態の良い物ならそれなりの値が付くってもんだか」

ソロルもそれを思い出し解体の申し出をする。

「あっ!有る!忘れてた・・・あります、後一体、それお願いできますか?」

「あぁー良いぜ!さっきも言ったが皆この時間暇してんだ、チャチャッと処理してやるよ!」

エクードが気持ちよく引き受けると、

ベネーがトコーナに指示を出した。

「では邪魔だとは思うので、規定に則り討伐対称だったそのアームレッドはこちらで回収します、トコーナ、収納を」

「了解です、“空間魔法・収納”」

トコーナがソロルと同じ能力で回収作業を終えると、

ベネーも仕事に戻る旨をソロル達に伝えた。

「私たちはこの後関連機関との情報共有等ありますのでこれで失礼させていただきます」

「おう!忙しいとこ世話になった」

エクードがベネーにお礼を言うと、

トコーナはソロルに話しかけた。

「んじゃねソロル、後でギルドに寄ってよ、新しいランク章と報酬の6万準備しとくからさ」

それに対しソロルも返答し、ベネーに挨拶をした。

「ありがとトコーナ、ベネーさんもお忙しいとこありがとうございました」

「いえいえ、では、また」

ベネー達を見送った後、エクードが改めて声をかけてきた。

「では、出してくれ」

ソロルは返事をし、空いたスペースに手をかざした。

「はい、“空間魔法・展開”猿魔獣オランアームレッド」

エクード達の目の前に先ほどよりも大きな猿魔獣が“展開”され

みんな息をのみリーネが呟く。

「あんらぁ、こりゃまた大きな・・」

男C「エクードさん!この大きさはまさか・・・」

部下の一人がエクードに問うと、

すでに“鑑定眼”を発動させていたエクードが驚きながら答えた。

「・・あぁレベル211、石持ちだ・・・どうなってんだ」

男A「中央じゃなきゃこんなの拝めないっすよ・・・」

エクードは気合を入れなおし、リーネに伝えた。

「リーネ!猿魔獣オランアームレッド、ナンバー5だ!」

「あいよ」

それを聞いたリーネが書類作成に取り掛かる、

そしてエクードは部下に檄を飛ばす。

「お前ら!良い経験になる!締まってかかれよ!」

「ソロル、申請書にサインを」

書類を作り終えたリーネがソロルに手渡す

「はい」

ソロルが猿魔獣オランアームレッド、

ナンバー5と記載された解体申請書にサインをすると、

みんなが解体に動き出した。

エクードが監督として指示を飛ばしみんなテキパキと動いていた。

30分後。

「待たせたな、物がモノだけに時間がかかっちまった」

少々時間がかかった事をエクードが

申し訳なさそうにソロルに言うと

ソロルはお礼を言った。

「いえ、ありがとうございました」

すぐにエクードが査定結果を話し出した。

「結果から先に言うぞ、レベル200を超えているこの手の魔獣の相場は60万ほどだが、今回の買取査定金額は150万レアリーだ」

「ひっ!?・・・え??」

ソロルは絶句した。

そしてエクードは査定の根拠を説明する。

「この査定の根拠だが、状態が極めて良い事にある、外傷が殆どなく死因の頸部切創のみである事で体中ほぼ全域の毛皮・肉・骨・内臓が利用可能だった、さらに頭部が無傷で“魔石”も確保できている、どうする?」

エクードは冗談のつもりでソロルに問いかけたが

ソロルはテンパってしまう。

「ひゃ、150・・・5万以上の査定何て初めてで・・・」

「ガハハハ!まぁ、このまま買取契約書作るが良いよな?」

エクードは豪快に笑うとソロルに促した。

「あっ、はい、お、お願いします・・(何なの、どういう展開なのよ!?いきなりBランクになるは一日でプラス収支120万超えるは・・・)」

「取りあえず一安心だな、借りが返せて良かったよ、それと、おめでとう」

一連の流れを見ていたナトスがソロルにお祝いを言うと、

ミノアもそれに続いた。

「そうだね、何かよくわかんないけどめでたい事もあったしね、良かったねお姉!」

そしてシャリも

「ヒュイヒュイ!」

ソロルは何だかよくわからない笑いをしつつ、

みんなにお礼を返した。

「ははははは・・ホント嬉しい大誤算って感じ、みんな、ありがとね・・・」

後ろからエクードの声が響く。

「契約書が出来たぞー、解体申請書にあるように今回の査定額の一割を解体手数料として引かせてもらった、135万レアリーになるが、現金で持ってくか?」

エクードは冗談のつもりで問いかけたが

ソロルは狼狽えてしまう。

「いやいやいや、さすがに持ち歩けない!ぎ、銀行にお願いします」

「ガハハハ!んじゃ口座とサインを書いてくれ、すぐに振り込むからよ、後で確認はしといてくれよ」

エクードが豪快に笑いながらソロルに言うと、

ソロルは元気に返事を返した。

「はい!」

ソロルが契約書に口座などを書いている最中、

ナトスとミノアは考えていた。

いやその前から。

“女神”と言う単語を聞いてから

“ゼイア”の名前が出てくる間も。

ミノアは思っていた。

自分たちにとって最後の

“召喚”であるはずのこのメジューワで

“消滅”させるべき対象は

“女神の加護:ゼイア”を持つものだろうと。

その後“ゼイア・セアー”本人も消滅させ、

最後に地球に戻るのだと。

ナトスは思っていた。

当然自分たちの“消滅対象”についてだが、

現時点では“答えを得ない”と言う“答え”を。

いくら仮説を立ててもそれを否定する根拠が出てしまう。

いや、仮設足りえる根拠もない。

一見有力そうに見える“女神の加護:ゼイア”を持つ者も

対象になりえない根拠に思考が到達していた。

ナトスは自分たちから動く事を考え出していた。

「(・・考えるのは一旦やめだな情報が少なすぎる、いや、色々余計な情報が入りすぎて気になってしょうがない・・・一旦整理したいが・・・好ましくは無いが、こちらから動くしかないか・・・)」

「よし・・それじゃエクードさん、確認はギルドに寄った後にしておきます」

一連の手続きが終わったソロルがエクードに声をかけた。

エクードはそれに応答したが、何処か寂しそうだった。

「おう・・・また機会があったら顔見せに来てくれよ・・」

「まだまだ上位は早いですから、当分拠点は変えませんよ!また来ます!」

寂しそうなエクードに気づいたソロルは元気に返答した。

遠くで作業をしていた男たちも、

ソロル達が帰る事を察してか、

作業を止め手を振ってきた。

ソロルもそれに答え、南本店を後にした。


~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ中央街・中央~am11:00

~サキュリフィー邸~


薄暗い広い部屋の中に18人の人物が

同じ方向を向いて座っている。

真ん中の一回り大きな椅子に鎮座している人物は

リデニア国代表テナクス・サキュリフィー王将。

彼らが向いている方向には5つの大きなモニターが置かれ、

そこには同じように、

それぞれ18人の人物が映し出されていた。

今“世界冒険者協会”の役員定例会が

行われている最中なのだ。

役員は、このメジューワに存在する6つの国の王と、

その王が選出した自国内の有識者17名。

全108名であるが、この場では中立で有り、

言わば“メジューワと言われる世界”の

発展と平和維持を目的に組織されている。

リデニア国側から見た各モニター内では、

3年前から全世界で取り組んでいる内容の

確認が行われていた。


ラジーリャ国モニターではディンタス・インペリウ帝王が

自国の有識者に話しかけている。

「今“王将”が言われた件はどうなっている?」

ラジーリャ有識者A「未だ有力な報告は無いようです」

ラジーリャ有識者B「2名居た協力者の内1人も高齢で亡くなられたと聞きます」


アモリア国モニターではチチウス・パーティム首領が

自国の有識者に手短に問う。

「どうだ?」

アモリア有識者A「各ギルドに派遣している職員からも難航していると」

アモリア有識者B「“真鑑定・極”を持つ者すら未だに・・・」


コパローナ国モニターではカーリー・パンクティス君主が

自国の有識者に質問する。

「“探し物”はどうなっていますか?」

コパローナ有識者A「困難を極めとる」

コパローナ有識者B「そもそも“真鑑定・極”を持つものは“鑑定”を欺きますからな」


チャチェー国モニターではレミーゼ・ヴィバーラナ統領が

自国の有識者に確認する。

「では本日最後に件の情報を」

チャチェー有識者A「国民の管理が行き届いてる我が国内でも見つかっておりません」

チャチェー有識者B「B型・A型・S型すべてのギルドにも有力な情報は入っていないようだ」


リャーラ国モニターではトゥーン・インクゾーナ皇帝が

自国の有識者と話をしている。

「この議題が今日の最後だよね?僕が皇帝になる前から探してるんでしょ?見つかった?」

リャーラ有識者A「いやはやこれがまた難儀でして」

リャーラ有識者B「3年近く各国で探して見つからないのですよ」


モニターの向こうでは各国の役員が各々情報を出しあっていた。

内容は“女神の加護:ヘンアと持つものを探す事”で

3年前“女神の加護:リーオ”を持つテナクス王将が

“平和維持”につながるとして各国に捜索依頼をかけていた。

ステータスの3段目にある加護を確認、捜索するために

“真鑑定・極”の技能を持つものも同時に探しているが、

各国どちらも難航しているようだった。


コパローナ国代表カーリー・パンクティス君主が

全体に向けて発言した。

「リデニア国王将、どうやら今回も・・・」

リャーラ国代表トゥーン・インクゾーナ皇帝も続く。

「うちも情報ないみたい、おじ・・テナクス王将ごめんね」

ラジーリャ国代表ディンタス・インペリウ帝王も

それに同意する発言をした。

「いざ探すとなるとこんなにも難儀するとはな」

手短にアモリア国代表チチウス・パーティム首領も発言する。

「有力な情報は無い」

「わらわの国でも進展は無じゃ」

最後にチャチェー国代表レミーゼ・ヴィバーラナ統領が

応答するとテナクス・サキュリフィー王将が議論を終了させた。

「そうか、これからも捜索はお願いしたい、宜しく頼む・・・では、議長、進行をお返しする」

テナクス王将が今期議長国のコパローナ国代表

カーリー・パンクティス君主に促した。

「はい、本日も各国有識者の方々も含め、それぞれの立場がある中、中立な意見を拝聴できたと思います。“デンスティア”や“遺跡”など“平和維持”の為にはまだまだ議論されるべき課題も残っておりますが、これにて閉会いたします、次回は18日後同じ時間に・・・では、ごきげんよう」

目の前のモニターが次々に消灯し、

サキュリフィー邸に居る者達も帰り支度を始めた。

その中の一人にテナクス王将は声をかけた。

「少し話を良いか?・・・」

「ん?・・旨い茶でも出るのかのぉ?」

声をかけられた人物が応答すると、

テナクス王将は笑いながらその人物の名を呼ぶ。

「フッ・・菓子も出そうじゃないか、シェンター」

ソロルの祖父シェンター・ノウビシウムである。

シェンターはテナクス王将が選出した

リデニア国有識者17名の内1人なのだ。

「ふぉふぉふぉ、時間はあります故、お付き合いさせて頂こうかのぉ」

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異界万象-ソトリシチ 真の結色 @shin_yuiiro

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