第10話 誤算①


~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ、南街・中央~

~南クヨトウ冒険者協会本店~


「はぁい、着いたわよ、ここで魔獣の買取をしてもらうわ」

ソロルの後ろをゾロゾロ付いてきていたナトスとミノア、

それとシャリの目の前には、大な建物が立っていた。

「この大きさと言い、最初に飛んできた建物とよく似ているな、とても買取だけの業務している店には見えないが・・」

「そうだね、巨大さも形も似てる、もっと東の方の建物だったけど」

「ここは南クヨトウ冒険者協会本店、この辺りが私の拠点だったから行きつけで知り合いも多いの、二人が言ってるのは多分東本店よ、まぁ早速中に入りましょ」


~1F総合フロア~


「このまま中央を真っすぐ奥に行けば魔獣解体買取の部署があるわ、それにさっきナトスが言ってたけど、業務はそれだけじゃないの、銀行や保険関連、街の整備や多国間との貿易などもやってて“冒険者協会”って言ってはいるけど他の住民にとっても無くてはならないものなの」

色んな業務を総合的に請け負っている建物なら

ナトス達も記憶にあった。

「なるほど、通りで“日本”で言うところの“総合庁舎”ぐらいの規模感があるのか」

食事の時ナトス達から話を聞いていたソロルが

“日本”と言う単語に反応した。

「“日本”ってあなた達が居た世界の国名よね?そこにもあったんだ同じようなものが」

「まぁ、似たような物はな」

ミノアはシャリがずっとこの場に居る事に

素朴な疑問を投げかける。

「ねぇ、シャリちゃんってこのままでもお姉は疲れたたりしないの?」

「えぇ大丈夫よ、気力(MP)を消費するのは出した時だけだし、あまりにも楽しそうにしてるから帰らせるのがかわいそうで、もう少しぐらいはね・・(おとなしく帰るとも思えないし)・・」

話しをしながら歩いているソロル達は

目的の部署のカウンターが視界に入ってきた。

そこに座っていた優しそうな女性が大きな声を上げる。

「あんれ?ソロルちゃん!?無事だったんかぁ!?」

その声にソロルが返答する。

「へ?り、リーネさんおはようございます・・」

「なんだ、なんだぁ!?大きな声上げて」

その声にびっくりするように顔をのぞかせた

髭面の男性が近づいてきた。

そしてソロルの顔を見るなり豪快に笑いだした。

「おっ!ガハハハハ!どうやら俺の一人勝ちみてぇーだな!オラーみんな!ソロル・ノウビシウムの帰還だぞ!ガハハハハ!何はともあれ無事でよかったじゃねぇーか、なぁ?」

その髭面の男の声を聴いた、奥で暇そうにしていた男たちは

「マジかぁ」「一人勝ち!?」「昼飯が・・・」

等の声を漏らすと髭面の男が豪快に笑い飛ばす。

「お、おはようございますエクードさん、さっきから無事だの帰還だのって何です?一人勝ちって言うのもわかんないし・・」

ソロルからエクードと呼ばれるこの男性は、

魔獣解体買取部署の部長で、中の男達はその部下になる。

受付の女性はリーネと呼ばれ、事務作業全般をこなしている。

この辺を拠点とし冒険者活動をしているソロルとは

みんな顔なじみであった。

「ん?大したことじゃねぇよ、お前仲間を逃がす為囮になったんだろ?それ以降行方知れずって話だったが、救出部隊が結成されないからな、こいつらがアホ面下げて“きっと駄目だったんだろ・・・”とか“絶望的な状況なら救出部隊は結成されないもんな・・・”とか“良い子だったのに・・可哀そうだな・・”とかシケた事言ってるもんだからよ、俺がバシっと言ってやったわけよ、“俺は生存に500レアリー!当然お前らは死亡説唱えてんだからそっち賭けなんだよな?ハイ成立!”ってな、ホント不謹慎な奴らだぜ」

「不謹慎はおめぇさんだぁ!」

バチコン!リーネの拳骨がエクードの頭に落下した。

「あイテ!」

男A「ソロルさん信じてください、僕ら強要されたんです!」

男B「パワハラですパワハラ!断れないんすよ」

男たちが必死にソロルへ弁明していたが、

ソロルは苦笑いをうかべながら答えた。

「ま、まぁ、確かにそうなんだろうけど、“昼飯が”って心の声も聞こえてたわよ、生存してた側が気まずくなるから人の生き死にで賭け事やめようね・・・」

エクードが豪快に笑い飛ばそうとしたが、

「ガハハハ!まぁ気にするな、冗談みてぇなもんだ!金はもらうがな!」

バチコン!ギロッ!

無言のままリーネの拳骨が再度お見舞いされた。

「・・・」

「アテテテ・・・っで、き、今日は何の用だ?」

エクードはたまらず話しを切り替え、本題に乗り出した。

ソロルも本来の目的を思い出し、買取依頼を申し出る。

「え?あっ、そうだった・・魔獣の解体査定、買取までをお願いします」

「大きさは?」

「3m超えです」

エクードはそこまで聞くと歩き出し、

開けた場所を指さしながら言った。

「それじゃーそこのスペースに出してくれ、見ての通りこの時間はみんな暇してるからチャチャッと終わらせよう」

ソロルはその場所に手をかざし唱えた。

「では、お願いします・・・“空間魔法・展開”猿魔獣オランアームレッド、ナンバー13!」

エクードはソロルの言い方に違和感を覚えた。

と同時に驚愕する。

「(ん?わざわざナンバーを?)っ!って言うか13だと!?」

目の前にはあの時消え去った、

そのままのオランアームレッドの死骸が横たわっていた。

ソロルはエクードが慌てる声を発した事に驚き、

質問する。

「わぁぁ!どうしたんですか!?」

エクードはソロルからの質問を一旦置いておき、

部下に号令をかけた。

そして、技能を発動させる。

「おめぇーら触るな!先に確認させてもらう、“鑑識眼”」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

名称:猿魔獣オランアームレッドの死骸  

生前情報

個体番:13  性別:無

レベル:166 lv 

  死因:頭部切断

現状態

  毛皮等に劣化・傷が殆どなく極めて良質

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「(間違いねぇ・・・)ソロル、申し訳ないがこいつを直ぐに解体するわけにはいかねぇ、おめぇらも暇かもしれないがもうちょっと他所で油売ってろ」

エクードが慌てながらも皆に再度指示を飛ばす。

ソロルは事態が飲み込めずエクードに質問する。

「え?何か問題があるの?」

「今帰ってきたなら知らねぇのも無理はねぇーが・・悪いようにはしねぇ、もうちょっと待っててくれ、おい誰か!裏行って隣のマスター引っ張ってこい!」

エクードは詳しくソロルには言わず、部下の男に指示を飛ばした。

男C「へい!了解っす」

ソロルは流れがいつもと違う事に不安を覚えていた。

「えぇぇ、買い取ってもらえなかったらどうしよう・・・(ここ12時間ですでに10万レアリー以上浪費してるのに・・・ヤバイ一月持たない・・・)」

それを察したナトスとミノアがソロルに話しかける。

「心配するな、これが買取出来ないものなら、出来るモノを狩ってくれば良い」

「そうだよ、僕と兄さんなら何でも獲って来れるよ♪」

「ヒュイヒュイ!」

「あはは♪シャリちゃんも頑張る見たい」

ソロルは異次元の強さを持つ二人なら確かにそうかと思いながら、

その強さに素朴な疑問を投げかけた。

「まぁ確かにね、そう言えば、あなた達の居た“地球”の人間ってみんなそんな異次元の強さを持ってるの?」

ミノアは地球上の人間は今まで見て来た世界の中でも

一番弱い存在だと感じていた。

当然ここメジューワの人間の様に魔力を

使用し技を繰り出すなど出来ないのだ。

「いや、そんなことは無いよ、もしかしたらここ“メジューワ”の人たちより弱いかも、魔力見たいな非科学的なものも使えないしね」

この答えを聞いたソロルは混乱する。

ナトスとミノアから想像していた地球上の人間像と

大きくかけ離れていたからだ。

「ん?・・へ?・・・うぅん・・どういう事?・・」

その反応をみたナトスが、

そんなに混乱する事でもないはずだと感じながらも

ソロルに質問した。

「どうした?何か腑に落ちない事でもあるのか?」

「うーん、そう言えば、魔力もない魔法もないから科学が発展したって言ってたわよね?」

ソロルは食事の時の会話を思い出しながら質問した。

ナトスはミノアの発言を補足しつつ、

ソロルの質問を肯定する。

「そうだな、その認識で間違いではない、非科学的なものを信じない傾向が強いな」

ソロルが混乱し腑に落ちない違和感を覚えたのは

まさにその部分であった。

食事の時ナトスとミノアも当然の様に話していた内容が

つながらない。

「でも、“神”の存在を信じてるよね?」

「うむ、なるほど理解した、ソロちゃんは勘違いをしている、俺達が神を信じざるを得なくなったのは、その存在を実際に感じる事になったからだ」

ナトスがソロルの疑問に気付き、説明を始めると、

ミノアも気付きそれを補足するように話し出した。

「“地球”の人たちは誰も“神”の存在を感じる事は出来ないんだ、だからほとんどの人が信じていない、でも居たらいいなって信仰してる人は居るんだけどね」

それを聞いてソロルは自分達メジューワの

世界観から比べて不可解だと感じた。

「へぇ、何か難し世界観ね」

ナトスもその言語化に難しさを覚え、ソロルに同意した。

「言われてみれば確かにそうだな」

「私達“メジューワ”の人たちはね、魔法や魔力を持ってるのもそうだけど、その非科学的な存在を信じている人たちばかりよ」

ソロルがメジューワの世界観を口にすると

その中に出て来た非科学的な存在について

ミノアは聞き返した。

「“神様”?」

「少し違うかな、“メジューワ”では、“女神”って呼んでる」

ナトス/ミノア「(女神・・・)」

ソロルが説明を続ける。

「この“メジューワ”を創ったのは10人の“女神”様で生物に魔力を与えたって言う昔からの伝承があるの」

ナトス/ミノア「・・・」

「そして、その存在を実際に感じてる人がいる事をみんな知ってるの」

ミノアはこの言い回しに違和感を覚え質問をする。

「信者って言うか、信仰しているような人たちじゃないの?」

「いや、それだとソロちゃんが俺達の認識を誤解するほどの理由にはならない気がする」

ナトスの否定は正しと、ソロルが補足する。

「そうね、あなたたちのステータスに私が勘違いしてしまった理由と女神の存在を誰もが信じてる理由があるわ」

「僕らのステータス?」

ミノアの質問に対しソロルが続ける。

「三段目に“神の寵愛”ってあったでしょ?この“メジューワ”には“女神の加護”ってステータス持ちが実際に居るの」

「(・・・加護?実際に?・・)」

ナトスは“女神”と言う言葉を聞いた時から、

“自分たちのやるべきこと”を考えていた。

それはミノアも同じだったが、

ナトスはソロルの言葉を一つ一つ考えていた。

ソロルの説明は続く。

「みんな学校で習うわ、歴代で何人も“女神の加護”持ちが確認されてるし、今現在このリデニア国で一番有名な人が持っている事も確認されてるの。だからみんな“女神”の存在を当たり前の様に信じてるわ」

「この国で一番有名な人って?」

ミノアの質問にソロルは答える。

「SSSランク冒険者で、現リデニア国代表テナクス・サキュリフィー王将よ、“女神の加護:リーオ”を持ってるらしいわ」

「冒険者で王様!?そんなすごい人がいるだね」

ミノアが驚いていると、ナトスが疑問を投げかける。

「“リーオ”と言ったが、他にもあるのか?」

ソロルは何かを思い出しながら、丁寧に答えようとした。

「えっと・・何だったかな、名前だとしたら10人分ちゃんと確認されてるって教科書にも書いてあって・・・確か“ヘンア”“リーオ”“トリア”“テセラ”“ペンデ”“ペクシ”“エクタ”“オクト”“エネア”・・・と・・何だったかな?あぁもうテストに出るから暗記してたのに・・えぇぇっと、ここまで来てるんだけどな・・えーと・・」

ソロルが思い出せないでいる言葉を、

ミノアが突然口にする。

「・・・“ゼイア”」

ソロルはそれが正解であることを思い出し

驚きつつも、疑問を投げかける。

「え!?そう!“ゼイア”よ、思い出した!・・でも、何で知ってるの?」

「“ゼイア・セアー”は僕らの知る女神だよ・・・そして・・目標、かな」

ミノアが濁しつつ答えると、

ソロルは意味が解らず聞き返した

「知ってる!?・・・目標!?」

しかしここで話の腰を折られてしまう。

男C「エクードさん、お連れしました!」

先ほどエクードに言われ“隣のマスター”を

呼びに行っていた男が戻ってきたのだ。

その為一旦中断してしまった

この“女神ゼイア・セアー”の話し。

これはナトス、ミノアにとって重要な情報だった。

ミノアの言った通り“ゼイア”は二人にとって目標、

・・目的・・・標的だからだ。

「おぉーやっと来たか、こっちだこっち」

ソロル達が、エクードの声をかけた方に目をやると、

男が女性を二人連れて歩み寄ってきていた。

ソロルはその女性二人と面識があり声をかけた。

「ベネーさん!トコーナ!」

ベネーはソロルに気づき足早に歩み寄りながら

ソロルの名を呼んだ。

「!!ソロル・・」

「ソロルー!」

トコーナも駆け足で近付きソロルの手を

握りながらソロルの名を呼ぶ。

その後ろからベネーは話を続けた。

「・・実際に顔を見れて安心しましたよ、大変でしたねソロル」

ソロルはベネーの言い方から

先ほどのエクード達のやり取りを思い出し、

苦笑いを浮かべつつ答えた。

「はははは・・・そっちでも死亡説が?」

「死亡説??」

トコーナが頭の上に“?”を浮かべる中、

ベネーが話しを続けた。

「ユナから報告を受けた時は一瞬取り乱しそうになりましたよ、ユナもあなたの救出部隊を結成するように申し出ていましたし」

ソロルはユナを一瞬思い浮かべた。

「(ユナ・・・)」

「でも、ほぼ直前に同じ報告を受けていたので、その情報源がもしやと思い確認したら・・・やはり、あなただったようですね、安否確認が取れたので一安心しているところでしたよ」

ベネーの話しを聞いていたエクード達たちがこれに反応した。

男A「(!?なんだってぇ)」

男B「(安否確認が取れてた!?)」

男C「(ま、まさか・・)」

エクードはマズいと思い話しを変えようとしたが

「そ、そんな事よりよぉ、今日お呼び立てしたのは・・・」

「ちょっと待ちぃおめぇさぁ!!」

リーネに阻止され、エクードは怯えた。

「ビクッ!!」

男A「ベネーさん!救出部隊が結成されなかったのって無事だとわかっていたからですか!?」

トコーナが当たり前だと言わんばかりに言い放つ。

「はぁ?それ以外に何があるって言うのよ」

そしてベネーが丁寧に説明する。

「もしかしたら遠方に情報が行き渡っていないかもしれませんが、変な誤解を招かぬよう、近隣関連機関の部長クラスに“救出部隊を派遣しない理由”は情報共有済みのはずですよ」

「私が直接エクードさんにも報告しに来たし」

トコーナが最後に補足をした事で、エクードは慌てふためく。

「あ、あれぇーそ、そうだったかなぁ・・・」

男A「“部長”それはないっすよ・・・」

男B「いくらガサツな“部長”でもおかしいとは思ったんだ・・・」

男C「さすがに“部長”でも不謹慎すぎるって・・・そういう事か・・・」

エクードの悪乗りが暴かれ、リーネの逆鱗に触れた。

「・・・」

ギロッ!バチコン!

「アテッ!」

エクードに拳骨をお見舞いしたリーネは男たちにその制裁内容を発表した。

「おめぇたちぃ、今日の昼は何でも好きなもんご馳走してやんどぉ、もちろん、こん人のお小遣いからなぁ!」

男A「マジかぁ!やったぁ!!」

男B「リーネさん!あざぁっす!!」

男C「昼飯代が!!」

「そりゃないぜ!リーネ!」

エクードが異議を申し立てたが

ギロッ!バチコン!

「アテッ!」

通るはずもなかった。

「あらあら、こっちでも大変な事になってたみたいね」

ベネーが笑顔でソロルに語り掛けると、

ソロルは苦笑いを浮かべた。

「ははははは・・・そのようです・・」

そしてベネーが本題を切り出した。

「あれね?私が呼ばれた原因は」

横たわる猿魔獣を指さしベネーが言うと、

トコーナが歩み寄り確認した。

「間違いなくナンバー13です、レベルも166だったようです」

それを聞いていたエクードが状況の説明をした。

「アテテテテ・・・、ソロルが知らずに解体・買取の申し出で持ち込んだんだ、危うくもったいない事するところだったぜ」

「もったいない?」

ソロルがキョトンとした表情で居るのを見て

ベネーは考える。

「(ソロルのこの感じ・・・おそらく知らなかったのは間違いなさそうね・・だとすると、アキト組が結託し“極めて社会貢献度の高い”討伐任務を発令させるための芝居だった線は限りなく薄い・・)一つ確認したいのだけれど、どうやって討伐を?」

ベネーはソロルの事を信用していないわけではない、

ソロルがそんな人間でない事はベネー自身良く理解している。

しかし“極めて社会貢献度の高い”任務を発令した

本人として、“不正”の有る無を確認しなければならない義務がある。

報酬が良ければ良いほど、その手の輩が

一定数出てくるのも事実有りえるからだ。

そしてエクードもソロルが“不正”などしないと信用している。

だからこそソロルがその報酬を得る権利を失ってはもったいないと

ベネーをわざわざ呼び出したのだ。

「どうやってって・・」

ソロルが返答に困っていると

エクードが質問を変えた。

「分かりやすく言やぁこの死因、頭部切断の傷を付けたのは?」

ソロルがナトス達に視線を送ると、

ミノアが背負う武器を下ろしながら一歩前に出た。

「僕です、この武器による断面です」

そう言うと鞘から抜いた刃物を

切り落とされている頭の一部付近に置いた。

「“鑑識眼”で確認しても良いか?」

エクードがミノアに質問すると、

一瞬意味が分からなかったがそれに応じた。

「(“カンシキガン”?あぁ鑑識ね)どうぞ」

エクードは傷口に意識を集中し“鑑識眼”を

発動しつつミノアの置いた刃物の刃を見比べた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

切創:鋭利な刃物による断面

対象の刃による痕である可能性97.9%

皮膚・筋肉・骨・臓器すべてに裂傷が無い

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「(裂傷無しだと!?どんな武器だ!?)」

エクードはミノアの武器にのみ意識を集中し

“鑑識眼”を発動した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

名称:000000000  

生前情報/無

現状態

  000000000000000

  000000000000000

  000000000000000

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エクードは驚愕の表情でミノアに視線を送った。

「(・・・意味が解らんぞ・・・)」

「(・・・何だろう?)」

目が合ったミノアが頭に“?”を浮かべていると

ベネーがエクードを急かした。

「エクードさん、結果はどうでしたか?」

エクードは一旦この件は置いておき仕事を続けた。

「あ、あぁ、この傷口はこの刃物によるもので間違いない、世界冒険者協会専属鑑識エクードが証言しよう」

「承知しました」

ベネーはそう言うと少し考え込むそぶりを見せる。

「ほら、小僧、返すぜ」

ミノアはエクードから武器を返してもらった。

「(こ、小僧・・・)どうもです」

そしてベネーが話し始めた。

「ソロル、あなたに“権利”があればと個人的に期待してしまっていたのですが、どうやら今回はそちらの男性にあるようです」

「ベネーさん、さっきから“もったいない”とか“権利”とか一体何なんですか?」

ソロルは今回の事態を飲み込めずにいた、

そんなソロルにベネーは話を続ける。

「あなたは知らないかもしれませんが、この猿魔獣オランアームレッドは“極めて社会貢献度の高い”討伐任務の対象となっていました」

これにソロルもびっくりする。

「えっ!成功したらCランクからBランクに上がれるあのランクアップ任務ですか!?」

「そうだぞ、お前は何も知らずに解体に来たが、その権利ごと解体しちまうとこだったんだ、どうかんがえてももったいないだろ」

エクードの説明も踏まえて、

冒険者であるソロルは今回の流れの意味を理解した。

そして苦笑いを浮かべつつ申し訳なさそうに言い出した。

「はははは・・・確かに、今回討伐したのはミノアだから権利はミノアにあるわね、私のせいでもったいない事するとこだったわ、ごめんねミノア」

しかしソロルは大事な事を失念していた。

ミノアはそれを指摘する。

「え?え?ちょっと待ってお姉、CとかBとか、そもそも僕は冒険者じゃないよ」

「あっ!そうだった!」

ソロルが声を上げるのと同時に

ベネーは“極めて社会貢献度の高い”任務が

不発に終わったと落胆の声を上げた。

「冒険者じゃなかったのですね・・・(護衛職か協会職員でしたか・・・)」

冒険者じゃ無い者でレベル150を超える魔獣を倒すなら、

護衛職か協会職員で元冒険者だと考えランクアップの対象外だと

ベネーは落胆していた。

それはエクードも同じだったが、

気になる事があり疑問を投げかける。

「・・・やっぱり気になるなぁ、関係ないから黙っておこうとは思ったが・・・お前何者だ?その武器も異常性は分かったが、俺の“鑑識眼”で名前すら確認できなかったんだが」

この質問にミノアが素直に答えようとすると

「え?これは“NINTOU”って言って別名“魂の雫”って言われて・・・」

ナトスがそれを遮るように割って入る。

確かに自分たちは冒険者ではない。

しかしそれ以前に何者なのか。

シェンターのもとで聞いた“フィニクシー”の話し。

自身の理に適う着地点に誘導するため。

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