第9話 初恋


~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ、南街・中央~AM9:00


“転移サービスKS2番ゲート”と書かれた店から、

ソロル達三人が出てきた。

肩を落とし歩くソロルは、

自分の迂闊な行動を嘆いていた。

「(よ、45,000レアリー・・・誤算だった、いや当たり前よね・・いつもは一人分で良いけど今は3人分・・・変な気起こさずミノアの“瞬間移動”に頼っとけばよかった・・・ナトスのせいだ、こいつが“地球”の自慢話をするから・・・)」

『“転移”凄くなかったか?』

ナトスは率直な感想としてミノアに同意を求めた

『100km近く移動したと思う、この“ゲート?”がいたるところにあるんでしょ?』

『さっきいた“KC5番ゲート”の待合場にあった“クヨトウ”のマップを見た限りだと西側にある街のを含めて20個のゲートが書かれていた』

『え、・・ああ言うの覚えてるの?』

『当たり前じゃないか、知らない土地で超電導車に乗る時とかも駅の名前覚えるだろ?』

『い、いや・・車内にあるし覚えないよ』

『それはそうかもしれんが・・今回は一瞬で着いたし、覚えておいた事でわかったことも事もあるぞ』

『そうなの?』

『このクヨトウの街は端から端まで500kmほどある広大な街だ』

『500!?東京・大阪間ぐらいあるじゃん!』

『これだけ大きな街となるとその移動も困難を極める、この転移ゲートがインフラとして確立されてるって凄くないか?そんな“世界”今まで見た事ないだろ?』

『今までの“世界”って言っても、33番目以外は瞬殺であんまり知らないだけだよ』

『そうか?』

『このゲートって他の街、例えばおじいちゃんが言ってた“コハキ”とかにも・・』

「あんた達ってホント無口ね、さっきまであんなにペラペラ“地球”自慢してたのに」

二人が念話で会話しているとは思いもしないソロルが

嫌味を含む言い方で話しかけた。

そしてナトスがソロルの言葉を否定する。

「人聞きが悪いなぁソロちゃん、何も自慢などしてないぞ」

「ハン!“地球にはリニアと呼ばれる高速の乗り物があるんだゼ!空を飛び音速を超える物もあるんだゼ!”って自慢してたわよ」

「(“だゼ”って・・・)」

ミノアは嫌な予感がした。

ソロルの嫌味が増した言い方が、ナトスの悪癖を

くすぐる可能性が高いからだ。

そしてミノアの予感は当たる。

「それは誤解ってもんなんだゼ」

ナトスがソロルの使った口調を真似しながら話し出した。

「(わ、わざとやり出したし)」

「(カチン!)」

当然ソロルは面白くない。

神経を逆なでされる思いが走る。

それを見てナトスが追い打ちをかける。

「“地球”の人間には魔法の概念が無いから科学が発展した世界観の説明をしただけなんだゼ、解りやすいよう乗り物を例にあげ補足したにすぎないんだゼ」

「(確かにそういう話の流れだったけど、それずっと続けるの!?兄さん!)」

「ソロちゃんのように“ハン!そんなもの!このメジューワにはもっと早い移動手段があるわ!良いわ、見せてあげる!”と言いながら、わざわざお金払ってまで自慢した覚えは無いんだゼ」

そこまで言ったらヤバイでしょと、ミノアは頭を抱えた。

「(はぁ~・・・)」

ソロルはナトスの言い草に怒り心頭、

爆発寸前で踏みとどまっている。

「え、えぇ~、わ、私そんな言い方したかなぁ~じ、自慢何てした覚えないけどなぁ~(くそー!ムカツクッ!ナトスこのヤロー!イライラするよー何なのナトス!このヤロー、腹立だしい!このヤロー!くそー悔しいぃぃぃ)」

このままでは収集付かない所まで行ってしまうと思い、

ミノアが仲裁に入る

「まぁまぁ二人とも、その辺にしておこうよ、お姉もあまり兄さんを相手にしない方が良いよ、性格悪いの自覚してる人だから精神衛生面上良くないよ」

「な、何言ってんのよ、私は全然、なーんにも思って無いわよ、ホント平常心、平気だか・・」

「フッ・・」

「(もう・・・)兄さん!」

必死に落ち着こうとしていたソロルに追い打ち

をかけるようなナトスの仕草に、

ミノアはたまらずナトスを怒ったが、

時すでに遅し、ソロルの目には、

口角を上げニヤけた顔をした鼻で笑うナトスが映っている。

「(・・・カッ・・チーーーン・・・)・・・召喚魔法“シャリ”・・」

ソロルが突然召喚魔法でシャリを呼び出した。

ナトス「(なんだ?)」ミノア「(え?)」

「・・・シャリ・・・シャリィ!!悔しいよーうえ~ん、ナトスがムカつくよー、アイツ絶対わざと神経逆なでして来てんの、性格悪すぎ!バカナトスだよほんと、上から目線で腹立つよー、うぅぅ・・」

「(え?え??)」

ミノアは状況が理解できず、

ナトスにも理解が及ばない。

「(・・想定外の反応だ・・)」

ソロルは自身の精神の安定を図るため、

わざわざ愚痴る為にシャリを召喚したのだ。

それを知るのはシャリだけ。

グチグチ言うソロルに寄り添い

「そうだね、ウンウン」と話を聞いていたが、

徐々に腹が立ってきて、気が付けば怒りの眼差しで

ナトスを見据えていた。

「おっ、何だ?シャリ助」

それに気づいたナトスも面白いと言わんばかりに挑発する。

「ヒュゥー!?」(シャリ「助ぇ!?」)

シャリは泣きすがるソロルの手を振りほどくように

前へ歩み出した。

そしてナトスもソロルも各々何かを感じ取る。

「ん?・・やめとけシャリ助、全然届いてないぞ、まぁ届いたとてだがな」

「(え!?瞬足!?)」

シャリは気付いていた、目の前の男が異次元の強さであることを。

自身が何をしてもビクともしないだろう。

しかし一矢報いたい。

ソロルを、自分を小バカにするこの男に

“ギャフン”と言わせたい。

そして、あの時の突刺技を繰り出したのだ。

バシュン!バシ!!

「言っただろ、届いてないって」

ソロルは、シャリがあの時オランアームレッドに

向けて放った技を、ナトスに向けた事に

一瞬やりすぎだと思ったが、

左手で軽々とシャリの角を掴み受け止めている

ナトスが目に入った。

「(な、見えてるの!?)」

ソロルが驚愕している中、シャリは狼狽えなかった。

何となくこうなる気がしていたからだ。

そして本当の狙い、次の一手に出ようとしたとき、

ナトスの動きで出鼻をくじかれた。

「(それはチクチクしそうだ)よっと」

ナトスはシャリの背中に跨ったのだ。

突然の行動でびっくりしたが、

それならとシャリは“瞬足”を発動させる。

強い眩暈を引き起こし振り落とそうと考えたのだ。

バシュン!

「(ま、まさかこれは!?)」

ナトスが驚いた表情を一瞬見せた。

シャリはバシュン!バシュン!バシュン!と

あっちに行ってはこっち、こっちに行ってはあっちと

何度も繰り返し、ほどなくして気付く。

この男は眩暈を起こしていない、

振り落とせない、むしろ少し楽しんでいると。

シャリは、自分が疲れるだけ、面白くない、

無駄だと思い動きを止めた。

そしてナトスが下りたあと、

とぼとぼとソロルのもとへ歩いていき、

「ヒュヒャーン!ヒュルルゥゥゥ!!」(シャリ「うわぁぁーん!悔しいよぉぉ!!」)

泣いた。


「うぇぇーん!ごめんシャリィィ私が召喚したばっかりに嫌な思いさせちゃったねぇ」

「ヒュヒャーン!ヒュルルゥゥゥ!!」

「(もう、二人とも泣かせちゃったよ・・・どうすんの)」

呆れて頭を抱えているミノアに突然ナトスが話しかけた。

「ミノア、ちょっとおぶされ」

「はぁ?おんぶ!?何でよ、意味わかんないでしょ」

「いいから、一瞬で終わる、嫌ならお姫様抱っこになるが・・・」

「はぁ?」

ミノアはナトスが意味のない冗談、

意味のない事をしばしば口にするから

おんぶなんて嫌だと思ったが、

どうも重要な事のようだと感じた。

「いいから乗れよ、本当に一瞬で良いから」

「はぁ・・・何なの本当に・・・」

ミノアはしぶしぶナトスの背に手をかけ、体重を預けた。

「よい、行くぞ」

バシュン!

「(え!?)・・え!?」

ソロルの視界からナトスとミノアが一瞬消え、

ソロルの背後でまたバシュン!

と聞こえたかと思ったら、先ほどの場所にまた二人が現れた。

ソロルには見えないが、見覚えがある現象だった。

「(まさか、瞬足!?)」

ミノアをおろしながらナトスが声をかけた。

「どうだミノア?」

ミノアには兄が何をしたかったのか理解できた。

「・・・まさかこれって」

「“鑑定”の時と同じ感覚だったろ?」

そしてミノアも試しに発動させた。

「(瞬足)」

バシュン!

ソロルの視界からミノアだけが消え

ソロル達のすぐ背後から声がした。

ミノアはナトスから距離を取ったまま会話を続ける。

「やっぱり僕たちの能力の何かが反応しているのかな・・・」

「その可能性が高まったな」

「それはそうと兄さん、別件なんだけどさ」

「ん?何だ?・・・!!!?」

ナトスは驚きの表情を見せた。

「(瞬足!)」

バシュン!ドゴォォォン!!!

ミノアの斜め上に突き出した左拳が

ギリギリナトスのガードに阻まれ衝突した音で

辺り一面に轟音が響いた。

その衝撃波がナトスの背後に広がる空を駆け抜け、

分厚い雲を一瞬で飛散させるな。

周囲では驚き腰を抜かす者、悲鳴をあげるもの、

地震だ天変地異だなどと騒ぐ者で、騒然としだす。

突然のミノアの行動に焦りながらナトスが口を開いた。

「・・・な、なんの真似だミノア・・」

「いやぁ、せっかくシャリちゃんと同じ瞬足を手に入れたからさぁ、シャリちゃんと同じ技で兄さんに一矢報いようとね、思ってさ」

やけにゆっくりしゃべるミノアは

冗談とも本気とも取れる目をナトスに向けている。

ソロルとシャリは嬉しさのあまりミノアの名前を呼んだ。

「ミノア!」

「ヒューン♡」

「そ、そうか、それにしては際どかったぞ、クリーンヒットしてもおかしくなかった」

ミノアは淡々と返す。

「お姉とシャリちゃんの無念、二人分だったからね、最悪拳がめり込んでもさ死なないだろうしさ、それなりに・・ね」

「こ、怖・・・」

シャリが突然ミノアにジャレつく。

「ヒューンヒュヒーン!」

「わぁ、なにシャリちゃんどうしたの!?」

強烈なミノアの攻撃はソロルとシャリの溜飲を

一瞬で晴らすほどのものだった。

シャリは“瞬足”で少し距離を取っては

ミノアに近付きジャレるを繰り返し

何かのアピールをしている様だった。

ソロルに歩み寄ったナトスが話しかける。

「かなりなついてしまったようだな」

ソロルは嫌味を含めて返した。

「そらそうよ、あんたなんかより全然、断然、ミノアの方が良い男だもん、好きになったのよ」

ナトスはそれをさらに嫌味っぽく返す。

「そうかそうか、なかなか男を見る目があるじゃないか、シャリ助は」

「ハン!その何て言うか、上から目線?落ち着いて焦らない大人の男気取られても癪に障るだけだからやめてくれる、あと“助”もやめて、可愛くない」

「ん?意味が解らないぞ、俺はソロちゃんの意見に同意したに過ぎない、俺自身ミノアが良い男であると思っている以上普通の発言だと思うが、“俺の方が良い男だー”と慌て焦るなんて起きえないだろ、まっ・・・言いたい事は分かるけどな」

ナトスが最後に付け加えた一言で

遊ばれているだけだと理解したソロルは

どっと疲れが出た

「(駄目だこいつ・・・全部わかってて話してる・・疲れた、諦めよ・・)はいはい、わかりましたー」

そんな不毛なやり取りをしている二人に、

未だ要領を得ないミノアが困って話かけて来た。

「ねぇ二人ともー、シャリちゃんのこのアピールなんなのー?」

ソロルはシャリと意思疎通が出来る為、

シャリの気持ちを代弁する。

「シャリちゃんミノアと鬼ごっこで遊びたいって」

それを聞いてミノアもピンときた。

「あぁ!“瞬足”で鬼ごっこか♪良いよーシャリちゃん!」

「ヒュイ!ヒュイ!」

喜ぶシャリにミノアが提案した。

「じゃぁ最初は僕が鬼ね!ほらシャリちゃん逃げてー」

バシュン!「ヒュイ」バシュン!「こっちか」

バシュン!「ヒュ♪」バシュン!「早い早い♪」

バシュン!バシュン!「ここだー」「ヒャーン♡」

「捕まえたー、んじゃ、次はシャリちゃん鬼ね♪捕まえてごらん!

」バシュン!

「ヒュイ!」

バシュン!

その光景を微笑ましく見ていたソロルが

ナトスに疑問を投げかける。

「そう言えばあなた達“瞬足”も使えるようになったのね」

「そうだな、シェンター殿の所で話した通り、この身で体感すると使えるようになるようだが・・・一つ疑問は残る」

「疑問?」

「俺達はここに来る時、“転移ゲート”を利用している、ソロちゃんの話の中で“転移技能”と言う言葉があったが、それが発現した感覚は無かった」

その言葉を聞いた時ソロルは技能の特異と得意を思い浮かべた

「・・・理由は、いくつか考え着くけど・・有力なのが一つあるわ」

「おっ!そうなのか?」

ナトスがかなり食いついた感じがしたソロルは、

止せばいいのにまたナトスに仕掛けてしまった。

「まぁーあなたには教えてあげないけどね!!(頭を下げてお願いしなさい!ナトス!)」

「(フッ・・)・・そうか・・残念だが、仕方ない・・な・・・」

そしてナトスからは想定外の反応が返ってくるだけなのだ。

「!?はぁ!その反応はなんなの!?もっとこう、何んていうの!?“そこを何とかソロちゃん頼むよ”とかさ“なんだよそれー教えろよー”と悪態をつくとかさ!?あるくない?」

「(フフッ・・)ん?“どうしようかなぁー”ぐらいの話しだったら解からんでも無いが、“嫌だ”と言っている人間の気持を変えさせてまで自分の利を求める行為はいかがなものかと思うが?無理強いは良くないだろ」

それも至極全うで正しい理屈のもと返ってくるのだ。

この時ソロルは混乱し、気付けない、

互いの前提がそもそも違う事に。

「(え?え!?何それ、理屈が通ってる気がする?わかんない、え?私の感覚間違えてる?いや、え?なに?混乱する・・駄目だ・・・ナトスと話してたら疲れるだけなんだった・・・やめよ)・・・はぁ・・もう行くわよ・・・」

「(フフフッ♪ソロちゃんの反応は面白いな、素直で良い女性だ・・良くも悪くもな・・)おぉーいミノア、シャリ蔵、おいてくぞー」

ナトスがトボトボ歩くソロルから

後ろで遊んでいたミノアとシャリに目を向けると、

シャリに捕まったミノアが顔を

舐めまわされている光景が飛び込んだ。

「(う・・うわぁ・・・)」

「ヒュゥー!?」(シャリ「蔵ぅ!?」)

「んじゃ、行こうかシャリちゃん」

「ヒューン♡」

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