かいてきなおうち
山吹弓美
かいてきなおうち
友達の家に、遊びに行った。
古い家なんだけど夏は涼しいし、冬はあったかい。エアコンもないのにものすごく快適で、光熱費にうるさいお母さんがいる私としてはうらやましいんだよねえ。
「いらっしゃーい」
「こんにちはー、お邪魔します。はいこれお土産」
「うっは。このお菓子好きなんだ、ありがとねえ」
宿題やら何やらさせてもらうんで、一応手土産としてお菓子なり食べ物なり持っていく。お母さん、時々晩御飯のおかず持たせてくれて一緒に食べてきなさい、とか言ってくれることがある。……お母さん、お父さんとあまり仲良くないのに二人で食べるのかな。
「……ねえ」
ふと、気になった。
そよそよと風が吹く、という言い方はこの家のためにあるんだろうけれど、その風はどこから吹いてきてるんだろうといつも思う。
「何?」
「この家、エアコンないよね?」
「ないねえ」
「扇風機も、サーキュレーターも」
「ないね」
だから尋ねてみたんだけど、彼女は当然という顔でさらっと答える。この家では、それが当然だからだろう。
けど、私にはわからないから。
「…………なんで、涼しいの? 外、暑いのに」
「もちろん、冷やしてるからだけど?」
やっぱり、彼女が浮かべてるのは当然という表情。
ただその後、なんだか嬉しそうににっこりと笑ったのが、私には怖い顔に見えた。
「ま、そろそろだろうなーとは思ってたけどさ。うちの秘密、教えてあげるねえ」
怖い笑顔のまま、彼女は私の手を取った。一緒に立ち上がり、普段は入らないでって言われてた家の奥に進んでいく。
あれ、下りの階段がある。この下からふわん、と冷たい風が吹き上がってくるのがわかった。そうか、涼しいのはこのおかげか。
「実はね。この家の地下、水脈につながってるんだよ」
「水脈?」
「でっかい鍾乳洞があってね。地下で水もあるから、一年中気温が一定なんだ。で、そこから吹き出してる風のおかげでうちは、夏はとっても涼しいわけ。冬も温度は一緒だから、外から帰ってくるとあったかいんだよね」
「ああ、そういうことかあ」
どうやら、自然のエアコンがあるってことらしい。うわあ、とってもうらやましいな。
この家に住めたら、年がら年中快適な生活を送れるってことでしょう? 夏は涼しい冬は温かい、お母さんに怒られないのんびり生活ができるわけだ。いいなあ。
「おとうさーん。友達、連れてきたよー」
「え?」
階段を降りた先にある扉を開けながら、彼女はその先に声をかけた。そうして、開いた先に私をぽい、と放り投げる。
「ちょ、ちょっと!」
うまく着地できなくて倒れ込んだ先、何かえらくクッション性がいい。というかぬめぬめしてて、柔らかい。
なに、これ。
「私はね、釣り餌なんだ」
「ひっ」
ばたん、と扉が閉まる。その向こうであの子はとっても楽しそうに、おかしなことを言った。
足元のぬめぬめが、足を伝って上がってくる。え、これ、触手とかいうやつ?
「そろそろ、ご飯が欲しいって言ってたもんね。おとうさん」
「ご、はん」
「この洞窟はね、この街の地下に迷路みたいに張り巡らされてる。あちこちの家で快適な生活ができるお礼に、この『おとうさん』に『ご飯』をあげてるんだ」
触手が全身に絡まって、だんだん苦しくなっていく。ごはんって、え、もしかして。
「安心してね。おとうさんが食べるのは、人間の魂だけだから。身体は私みたいな、おとうさんの子供が使わせてもらうから心配しないで。ちゃんと、『あなた』はおうちに帰るから」
「……」
それって、つまり、わたし。
ばくり、ごくん。
かいてきなおうち 山吹弓美 @mayferia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます