ウッドパペットと自由の森

つくも せんぺい

自由の森に隠したもの

 コトンと、彼は森で生まれました。

 辺りは薄暗くて、でも木々が穏やかにそよぎ、鳥は優しく鳴くそんな森の中。


「おはよう、私はマザーツリー。アナタはウッドパペットよ」


 彼の目の前にはとても大きな、でもとても優しい顔をした木がいました。


「うっど……ぱぺっと?」

「そうよ」


 たどたどしい言葉に、マザーは優しく頷きます。


「たくさんのことを私が教えてあげる。アナタはこの森で自由に暮らしていくのよ」

「……?」


 彼にはまだ意味がよく分かりません。ただ、遠くになんだか眩しい場所があって、その方向をじっと見つめていました。


「……アナタもなのね」


 その様子に、マザーは寂しそうに呟くのでした。





 いくつかの季節がめぐりました。

 彼は、カラコロと駆け、おしゃべりも上手になりました。


 ですが、彼には一つ分からないことがあります。


 生まれた日からずっと気になっているあの光。

 一度マザーに内緒で光まで走った時、気がつくと彼はマザーのつるに抱かれていました。


「ウッドパペット、アナタはこの森で自由に暮らすのよ」

「光にはどうしていけないの?」

「それは、アナタがウッドパペットだからよ」

「自由の森なのに、行けないところがあるの? そんなの自由じゃないよ」

「そうね。でもアナタはこの森だから、自由なのよ」


 答えはいつも同じ。あんまり話すとマザーは悲しそうにするから、いつの間にか、ウッドパペットも話さなくなっていました。





 ある日ウッドパペットは、やっぱり光を眺めていました。

 すると、光から真っ黒な何かが飛び込んできました。

 それは見たことがないまっ黒な鳥。でも足は黄色。


「イテテ……」


 むくりと鳥は起き上がります。ウッドパペットは興奮を抑えられません。

 だって、やっぱり光の向こうにはなにかある!

 そう分かったのですから。


「ねぇキミ! 大丈夫?」

「? うわ、誰?」

「ぼくはウッドパペットだよ。キミは?」

「ウッド……? 知らないなぁ。オイラはカラスさ」

「カラスくん?」

「違う違う。名前じゃない。オイラみたいなのはみんなカラス。名前なんかない」


 そう、カラスが言いました。


「そうなの? じゃあ足が黄色いからキキってどう? ぼくね、キミに聞きたいことが沢山あるんだ!」


 目をキラキラさせて、ウッドパペットはキキに言います。


「キキ? お前変な奴だな」


 でも、カラスの中で自分だけ名前がある。得したような気がしたキキは、その日からウッドパペットの友だちになりました。キキはよく遊びに来て、いろんな話をしました。


 光の正体は森の出口であること。

 外はもっと眩しくて、ここよりずっと広いこと。

 どうしたらウッドパペットが外に出られるのか?

 たくさん話して、彼はもっと光の世界に憧れました。


「どうして出られないんだ?」

「マザーツリーは、ぼくがウッドパペットだからだって」

「なにそれ」

「さぁ」


 でも、出る方法は分かりません。

 そんな時、キキが持ってきていた光るモノが目に入りました。


「それ、なぁに?」

「あぁ、鉄って言うんだ。お前のウッドも、木って意味だろ? ならこれはアイアン、かな?」

「アイアン……。そうか! そうだよキキ!」

「なに?」

「ぼく、になる!」


 それから、キキは少しずつ、鉄の指輪や空き缶を持ってきて、ウッドパペットの体に合う形の物を揃えるように頑張りました。

 ウッドパペットはそれがマザーに見つからないように、木々の陰に隠します。

 鉄は重たいから。身につけて走る練習もしました。


 そしてとうとう、アイアンパペットに変身する日を迎えたのです。


「マザーツリー、ぼくは今からアイアンパペットになって、森の外を見てくるよ」


 そう伝えると、マザーツリーは「あなたもなのね」と泣きました。


「私はずっと森の中。アナタや、他にもを生んだのに、みんな居なくなってしまう。森から出たら止まってしまうパペット。でも鳥に乗ったり、ウサギに乗ったり。アナタは木じゃなくなった。ここは穏やかで、優しい森。この森ならみんな自由なのに……」


 マザーツリーは泣きました。


「私も自由になりたいわ」

「さみしいの?」

「寂しいわ」


 その涙に、アイアンパペットは決心しました。


「いっぱい友だちを連れて、またここに住むよ。だから、待っていて?」


 そう言って元気に、彼は光に向かって駆け出します。鉄の体は光を反射して、すぐに見えなくなってしまいました。


「……良かったの?」


 キキはマザーツリーにとまり、そう聞きます。

 彼女は木であり、森そのもの。楽しそうに鉄を集めるウッドパペットのことはすぐに気づいていました。


「これ、アイツとお揃い。一緒に待っていてあげるからさ、オイラには外よりここの方が居心地が良いんだ」


 そう、キキは一本のネジをマザーに付けました。

 差し込む光に、駆けていった彼のようにネジが光ります。


 マザーツリーの優しさは、優しい子の約束と、黄色い足の友だちを連れてきてくれたのです。


 キキは泣き止まない彼女に、弱った顔で声を掛け続けるのでした。

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ウッドパペットと自由の森 つくも せんぺい @tukumo-senpei

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