後悔なんか、してもしょーがないじゃん?
「それにしても、俺たちは両想いだったって、最後が来る前に知れたのは良かったんだろうか。それとも、もっと前から知っていたら……」
「それを言ってもしょうがないよ。あたし、今日で地球が終わるのを、朝に空を見上げて実感したからこそ、勇気をだしてタクミに気持ちを伝えられたと思うんだ」
「そうか、そうかもしれんな」
「……これが吊り橋効果ならぬ、隕石効果ってね!」
「使い方が若干違う気がするが…… まあいいか」
「それにしてもさ、あたしたちの卒業式とあたしの告白が終わるまでは落ちないでいてくれるなんて、隕石も粋なことするんだね~」
「これで軌道がそれて地球にぶつからないでくれれば、もっと粋だがな」
「……たしかに、そうだね」
「…………」
「ま、落ち込んでもしょうがないし、お菓子でも食べますか!」
「……ああ、そうだな」
「ええっと…… あたしのはこれ!」
「なんだ、うまい棒か。どうせならもっと高いお菓子でも買えばよかったのに」
「価値は値段だけでは決まらないし!あたしはうまい棒一筋18年ですから」
「はいはい。俺の分も袋から出してくれ」
「うん!はいこれ!って、栗ようかんか!やっぱ高校生なのに渋いチョイスで、いつ見てもウケるわ」
「食う菓子に年齢は関係ないだろ。俺はコンビニのレジ前に置いてある小さめの栗ようかんが昔から好きなのは知ってるだろ?」
「うん。知ってる。でもやっぱり面白い!」
「俺は最後の晩餐が栗ようかんでも全く問題ないな」
「あたしも、うまい棒で問題ないよ」
「あぁ…… 隕石、さっきより近づいてきてるな」
「……そうだね。道路もさっきから車が何台も事故るから燃えちゃってるし。周りのみんなキャーキャー叫んで怖がってるね」
「これぞ非日常って感じだな」
「…………もう、最後なんだね」
「……隕石が落ちる前に、俺は栗ようかんを食べるぞ」
「あ、あたしも!……もぐもぐ……やっぱりおいしい!」
「んぐ。やはりうまいな……」
「………ねぇ、」
「ん?なんだ」
「最後が来る前にさ、もう一回だけ、もう一回だけでいいから、すきって言ってくれないかな?」
「む…… 中々に恥ずかしい注文をするな」
「ダメ、かな?」
「いや、ダメじゃない。…………お、俺は、ハルが…………好きだ。」
「うん、うん、ありがとう…… あたしも、タクミがすき……」
「…………やはり恥ずかしいな。でも、ハルに好きと言うのも、言われるのも悪い気分じゃない」
「……タクミがそう言ってくれて、あたし嬉しいよ。 じゃあさ、最後にもう一個だけ、お願いできないかな」
「……何をだ?」
「その……さ、キス、とかできないかな?」
「んなっ!? それはかなりの難題だな……」
「でも、あたし、すきな人とキスができないまま最後を迎えるのは…………いや、だな」
「だが、俺はそんなのしたことないぞ……」
「あたしだって、したことないよ?」
「そ、そうか………… では、期待に添えないかもしれないが、やってみるか」
「う、うんっ……」
「……恥ずかしいから、目、閉じろ」
「うん」
「じゃあ、今からするからな」
「……うん」
「…………………」
「………………………………」
「…………これでいいか?」
「……うん。なんか今、すごい心臓がバクバクしてる」
「俺もだ」
「初めてのキスは甘酸っぱいレモン味ってよく言うけど、タクミのキスは栗ようかんの味だった」
「ハルのはうまい棒のめんたいこ味だったぞ」
「うわっ、それなんか恥ずかしいかも…… 甘いお菓子を食べておけばよかった」
「ふふ、まあ、めんたいこ味だって悪くなかったぞ」
「ほんとに? 」
「多分好きな人とのキスだったから、かな」
「んもう! なんかタクミ、さっきからだいぶ言うようになったじゃん」
「まあ、それも隕石効果のおかげ、かな」
「そっか………… あ、もう」
「かなり近いな。もう本当にこれが最後なんだな」
「……………………」
「ん? どうした?」
「あたし、あたしね……」
「うん」
「…………あたしっ! やっぱり、これで最後なんていや!!」
「…………」
「もっとタクミといろんな所にデートしたり、いろんなお話したり…… さっきみたいなキスだって、もっとしたかった!!」
「ハル…………」
「あたし、今、好きな人と心が通じ合う幸せを知っちゃったから、この幸せを失いたくなくなっちゃった…… さっきまでは、もう世界が終わっちゃってもいいかな、って思いかけていたのに…… なんでよ、なんでよ! 」
「…………………」
「なんで今日で世界は終わっちゃうの? なんで明日が来ないの? 終わるのは今日じゃなくたってよかったじゃん!もう少し、もう少しだけ先延ばしにしてくれてもよかったじゃん!」
「ハル」
「なんでよ!なんでっ……………… ひゃっ!」
「…………もうすぐ終わるこの世界を変えることは、俺にはできない。でも、世界が終わるその時まで、ハルの傍にいることなら俺にもできる」
「…………も、もうっ、急に抱きしめるなんてっ……! しかも、なんかキザったらしいことまで言ってたし!」
「う、うるさい! お前を落ち着けさせるためにやっただけだ!それにな、男っていうのはとにかくカッコつけたい生き物なんだよ!」
「……ふふっ。でも、そう言ってくれて、抱きしめてくれて、すっごく嬉しいよ。 …………あぁ~あ!さっきタクミが言ってた通り、もっと早くに告白してれば、こんな風にタクミに沢山抱きしめてもらうこともできたんだなぁ…… 」
「……俺は、今日が最後じゃなければハルを抱きしめることはおろか、ハルに触れることすらできなかったと思う」
「……そっか。隕石なんてだいっきらいだったけど、それ聞いてちょっと好きになったかも」
「なんだよ、それ」
「……すきな人に抱きしめられるのって、こんなにあったかくて、こんなにも幸せな気持ちになれるんだね」
「……そうだな、俺も同じだ」
「……最後が来るまで、あたしを離さないでね」
「ああ、わかってるよ」
「タクミ」
「なんだ?」
「今までありがとうね、さよなら」
「さよなら、はあまり好みじゃない。またね、がいいだろう」
「そっか、それもそうだね」
「ハル、また会おう」
「うん。またね」
「ああ」
「タクミ、もしもあたしたちが生まれ変わったらさ、そしたら、またあたしのこと、すきになっ
それでは、よい週末をお過ごしください。 ないちち @naititi
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