5:別のお姉さんに待ち構えられていたぼく
「そこの二人、止まれっ!」
「ぅえっ!?」
「あらあら~」
御幸がまひると仲良く手を繋いだまま校門に辿り着けば、凜とした声が投げかけられた。
もしかしなくとも、……
「風紀委員長……」
鬼の風紀委員長こと鬼哭院愁がそこにはいた。
「喝っ!」
「ひぃっ!」
「風紀委員長ではなく愁、もしくはお前と呼べ! 何せ私はもう御幸きゅんのお、お嫁さん、なのだからっ!」
「あらあら~、そこで照れるのがやっぱり愁ちゃんよね~」
「まひるは茶化すんじゃないっ!」
「あはは……」
笑えばいいと思うよ、と言われずとも、御幸は笑うしかなかった。
思わず零れた心底の笑み。
「それで~、どうして愁ちゃんは私たちを止めたのかしら~?」生徒会長の糸目が風紀委員長を見据える。その隙間に薄ら寒いモノを感じるのはきっと気のせいではない。「まさか不純異性交遊とか言うつもりはないわよね~、風紀委員長の装備がブーメランって、とっても怖いわ~」
思った以上に毒吐くなこの人……と御幸が思っていれば、
「そのようなことを言うつもりはないわ! 私はただ、確かに今日の登校はまひるが担当だったが、校門をくぐればその縛りはなくなると思っただけだ」
「あ~」と、まひるは冷ややかだった糸目を残念なモノを見る目と変えて、「愁ちゃん、器が小っちゃいもんね~」
「心外だな!?」
声を荒げる彼女であったが、御幸は内心で同意していた。
「まひるがそんなことを言うから御幸きゅんまで妙な目で見て来るではないか!」
「い、いえ……、ソンナコトハナイデスヨ?」
「気を遣われているのが分かるっ!」
――でも、なんか、愁さんって、思っていたイメージと違うな。
思ったよりも怖くなくて可愛らしくて、そして思ったよりもしっかりでも寛大でもない。ポンコツ可愛い?
「……御幸きゅんよ、何やら不穏当なことを思われているような気がするのだが?」
「べ、別に何も思ってはいませんよ……?」
「んン?」
と凜々しい顔を近づけてくる愁からは、良い薫りがした。そして彼女はポンコツ可愛くとも凜々しい綺麗系の美少女なのだ。
気恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
それに「やはり図星なのだろう!」と目線を合わせようとしてくる愁に、「御幸くん、思ったことはちゃんと言った方が良いよ~、このポンコツが! って」「おいコラまひるぅっ!」
三年生同士仲が良い。
しかし御幸を挟んで二大巨峰――もとい巨頭がそびえ立っていれば、否応なしに視線を集めるものである。
「おい、あれ、生徒会長と風紀委員長……」
「おお、タイプの違う巨乳美少女が並んで……眼福やぁ……」
「それだけじゃないぞ、ほんわか生徒会長が堅物風紀委員長にほんわかして――なんて言うか、てぇてぇ?」
「ってか、その間に挟まれてるあいつ誰だよ。もうちょっとであの巨乳にサンドされそ……されたぁーっ! そこ替われぇっ! ぐぎぎぎぎぃ……」
「はぁっ、はぁっ、ダブル姉ショタ、ダブル姉ショタっ!」
「もがぁああっ!」二人のお姉さんの巨峰に挟まれた御幸は動けない。
そして二人は分かっているかのように更に御幸を包み込んでしまうのだ。
「あなたたち、何をしているの?」
と、あまりにも冷え切った飛鳥の声に切り裂かれるまで。
陽光に映えるどころか呑み込んで濡れる黒髪を靡かせて、呉林飛鳥がそこに立っていた。チラリと大きな姉っぱいに挟まれた御幸を見て、
「せめて人前は止めなさい。生徒会長と風紀委員長ともあろうものが、公序良俗を乱すとは……いいえ、それならむしろ私にとって好都合かしら? 素行不良として……御幸くんは私たち三人で美味しくいただくから、どうぞ続けてちょうだい? 御幸くんも嬉しそうだし? あなたもやはり大きなおっぱいが良いのかしら?」
「ふぐぅもがぁっ!」
柔らかくて温かくて良い匂いだったが、鋭く寒いモノを御幸は感じていた。するとお姉ちゃんたちはそっと御幸をおっぱいたちから解放して、
「あらあら~、私たちから話を持ちかけたのに~、こういうのを泥棒猫、というのかしら~?」
「はっはっは、面白いこと言うな、飛鳥一年生、はっはっは」
「ふふふ、お気に召していただけて何よりだわ」
ガクガクブルブルガクガクブルブル……。
女三人寄れば姦しい――と言うがその中心に男が挟まれては碌なことがない。
「修・羅・場♪ 修・羅・場♪」
と愉しそうにする愉悦者への反応など出来る筈もないのである。
三人とも傍目には睨み合っているようにすら見えない。それなのにまる氷刃を孕んだ粛殺の風が吹くようで――、
「あっ! あのっ!」
ちろり、と三者三様の瞳が向けられた。
逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ!
とばかりに、
「み、皆……仲良く、ね? じゃないと、ぼく、その中には居たくないなー、って……」
――沈黙。
不動。
固唾を呑む。
まるで嵐の中心点のような静けさで、御幸は彼女たちの中心で答えを待つ――、
「そうだよね~、それなら仲良くしないといけないわよね~」
「ああ、まったく、御幸きゅんはたまらない提案をしてくれる」
「ふふっ、そうだったわ、御幸くんがいなくては本末転倒よね」
うんうんと彼女たちは頷いて、仲良く隣の者同士で手を繋ぎはじめ――、
――あれ?
と、御幸が気付いた時には、お互いに手を繋いだ彼女たちの輪の中に御幸は閉じ込められていた。
「言質取ったわ~」とまひるが糸目で口端を釣り上げ、
「そうだよな、そういうことだよな、私は安心したぞ」と愁からは妙な圧力を感じて、
「御幸くん」と飛鳥がまるでトドメを刺すように、――思わず見惚れてしまうような美しい笑顔を浮かべて――「と言うことは、私たちが仲良くすれば、御幸くんはその中に居てくれると言うことよね?」
私たちに、囲われてくれる。
飛鳥は念を押すようにそう言った。
三人で御幸を
「………………。………………えっ?」
ようやく呑み込めた御幸だったが、囲まれていては回り込まれる以前に逃げられない。
そして彼女たちはにこやかに歓談をはじめるのだ。
「いや~、良かった~、ちゃあんと御幸くんから言質取れて~、こんなこともあろうかと、ボイスレコーダー押しておいて良かった~」
「はっはっは、流石はまひるだな。そつがない」
「この場合そつがないと言うよりは抜け目ないとか狡猾とか……いえ、敵に回しても懐に入れても厄介な……むしろ今の関係が安心できる距離感と言うことね。頼もしいわ」
一名、別のことで納得している者もいたが、彼女たちは御幸を囲うために同盟を組んでいる同士なのである。
方針自体は一致している。
そして御幸は籠われ続けていた。
「「「ってことで、言質取ったからね~(わよ)(ぞ!)」」」
「あっ、あはっ、あはははははっ……」
こういう時、御幸はもはや笑うしかないのであった。
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