6:クラスメイトに囲まれるぼく
「なぁ、聞いたか?」
「ああ、聞いた聞いた。まさかあいつがねぇ……可愛い顔してよくやるよ」
「可愛い顔ってお前……まさか……」
「いやっ! そんなことはないぞ! ……だけどあいつと一緒だったら一妻多夫でも上手いことヤっていけるって言うか……」
『分かる』
羨望の視線やら妙に湿って熱い視線やら――そこに向けられる腐った視線など悲喜交々。嫉妬の視線も無きにしも非ずではあったものの、御幸を囲っている少女たちの面子を知って、そして御幸の容姿を見れば、
――ああ、
と納得する様子ではあった。
御幸は彼女たちを囲ったのではなく、囲われた側であるのだと。
その上で悪感情を向ける相手もいないこともなかったのだったが、そうした視線はいつの間にかいなくなっていた。
どうやらこの学校の風紀委員はしっかりと仕事をしているらしい。
いいや、職権乱用であったのかも知れぬ。
兎に角、様々な視線の中、御幸が自身のクラスへと辿り着けば、
「おっ、工藤だ! 工藤が来たぞ!」
「お前っ、噂は本当なのかよ! 校門のところで生徒会長と風紀委員長とお嬢に囲まれていたって……助けが必要だったよな?」
「あはは……」
あんな美少女たちに羨ましい! と言った勢いだった彼は、だんだんと心配そうな声に変わっていた。
「もしも助けたのなら工藤とワンチャン……」
その後の言葉は聞こえなかったこととした。
「でも本当なのかよ、あんな美少女たち五人とお前がって」
「本当らしいよ」
「らしいってそんな他人事みたいな」
とは言われても伝聞系でしか伝えられぬ。何せ自分だってこの状況が理解出来ていないのだから。御幸が把握していることとしては、
『私たち五人であなたを囲います』
と言うことと、
『おはよう~、御幸くん~』
『まさか御幸に五人もお嫁さんが出来るなんて!』
外堀が埋められているどころか本丸にまで攻め入られ、すでに自分心が討ち取られているということだけであったりする。
……いいや、まだ討ち取られるまではいかず、身柄を拘束されたところまでだろうか。そして逃げられる気が毛頭もない。
すると、
「ねぇねぇ、工藤くんは皆とどこまでいったのー?」
「こら、そんなこと訊いたら駄目だよ、だけど教えてくれるのなら……」
「ところで私にもワンチャンあるかしら?」
恋バナは男子よりも女子の好物だ。
そして最後の一人はこのクラスに潜んでいた風紀委員によって連れられて行った。
クラスに一人はいると思え、風紀委員。
そうするとこの学校では風紀委員の魔の手が伸びすぎではなかろうか。いいや、一夫多妻も一妻多夫も多妻多夫も認められ結婚年齢も引き下げられたこの自由婚社会。締めるところは容赦なく締めねば無法地帯になることは想像に難くない。
学校に於ける風紀委員の役割も数も多かった。
「風紀委員が見張ってる……」
「風紀委員長の職権乱用……ひぃっ! 私は何も言っていませぇんっ」
まるで
とそこに――、
「流石は風紀委員長、良い仕事をしてくれる」
「……そ、そうなのかな、やっぱりやりすぎなような……」
「大丈夫、やりすぎだったらまずは最初にむっつりの千尋が連行されているから」
「違うからねっ!」
まるで大海を裂くようにして現れたのは、
「逆木さんに御剣さん……」
「ノン、ぼくもちゃんと下の名前で、それからむっつりの方が先に呼ばれたことにはたいへん遺憾の意を表したい。このむっつりがっ!」
「だからむっつりじゃないからねっ! それで何で二回も言ったのっ!?」
「大事なことだから」
そう言う御剣有紗はいつもの如くに半眼で――その小学生と言ってしまえそうなミニマム体型に反比例して態度がデカい。
「もう有紗ちゃんはぁ……」
ガクリと肩を落とす苦労人は逆木千尋である。
「えっと……おはよう、有紗さんに千尋さん」
御幸が返せば有紗はぺったんこの胸を張る。
「――ウム、そしてさんは付けなくて良い。オーケーマイステディー?」
「あっ、はわわわわっ、御幸くんに名前で呼んで貰えて……はわわわわっ」
「良かった、今日のオカズは決まった」
「決まってないよっ!?」
「え? どうして今ので献立が決まるんですか?」
「………………」「………………」
「千尋?」有紗が半眼のジト目を向ければ、千尋は頬を淡く染めてそっぽを向く。やはり有紗の半眼は慧眼であったらしい。
「ふぅ、まったく、不毛な刻を過ごしたわ。……ところでこれはどういう状況かしら?」
あの後生徒会長と風紀委員長とやり合い続けていたらしい飛鳥が、艶やかな黒髪を靡かせて颯爽と教室に入って来た。
訊ねる彼女には、
「千尋が御幸を今日のオカズにすると言う話」
「違うからねっ!」
千尋の叫びがクラスに響くのだった。
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