第6話

9月8日、小説が書き終わった。

それを彼女に電話で伝え、家に向かい入れる。

小説を見せると、彼女は喜びながら、「ありがとうございます」と。

財布を拾った日の「ありがとうございます」とは違う。何かが違う。

人は何かを覚えると感情が変わる。当たり前のことだが、今感じた。

俺もそうなのかと考えると恐怖で震える。

逃げたい。この場から今すぐ逃げたい。怖い、彼女が、いや人が怖い。

小説を右手に持つ彼女が、段々俺を馬鹿にしているように見える。

部屋のドアから見られているような気がして、目を逸らすと彼女が見ている。

もうダメだ。おしまいなのかな。

でも心の奥で何か変な感覚がある。直近1週間2週間の思い出が頭をよぎる。

これだ。この感覚が、「好き」なんだ。何をされても。

ずっと自分がわからないこの感情は「好き」なんだ。俺はこれが好きなんだ。

心の奥の感覚が俺の背中を押した。そして2階から飛び降りた。

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