綺麗な君へ

黒崎薔薇

第1話

初めて君を見た日。

僕は君のすべてが輝いてみえた。

綺麗な黒髪は爽やかに靡いて、綺麗な瞳はどんな宝石よりも煌びやかで、綺麗な頬はほのかに赤く染まり、綺麗な手は細くてしなやかに動いて僕をこれでもかと魅了する。

そんな君と僕に繋がりなんてあるわけもなくて。どうやったら関われるか…どうやったら君は僕を見てくれるかを毎日考えるようになっていた。それから僕は、友達に君と関わりのあるやつを探してどうにか関わろうとした。

ある日、君と僕に関わりができた。親友と同じサークルのやつが知り合いだったらしくて、僕は君と関わることができた。

その時に君を間近で見ると、初めて見た日より一層綺麗で輝いていると感じた。君との最初の会話は緊張もあってか長い会話ではなかったが、君が気を遣って何回も話をしてくれるから僕の緊張は溶けていった。君との会話にはいつしか花が咲いていた。僕と君の会話は留まることはなく、終始笑顔でいれた。

でも、僕は少し怖くなってきていたんだ。君との会話が終わったらどうしよう…このまま別れてしまうんじゃないか。嫌だ。この会話がずっと続けばいいのに。この時間が止まればいいのに。

そんな思いは桜の花びらが散って汚い絨毯になるようにあっという間に終わった。君の別れの挨拶は僕の人生の終わりを告げていた。だけど、そんな素振りは見せずに笑顔で別れの挨拶を返した。ちゃんと笑顔でいれただろうのだろうか。

そんな夢が覚めたばかりの僕に衝撃が走ったのは三日後のこと。

一通のメールが届き、開くとそこには君の名前があった。本当なのか…!?それが最初に思ったことで。内容を何回も何回も見返してみたけど君しか知らないことが書いてあって信じるというの選択肢がやっと目の前に出た。

それからはメールで会話をしたり、一緒に遊んだり、君から相談も乗ったりした。

もう気づいてたが、忘れていた感情が急に出てきていた。恋という感情。君に恋をした。出会った時からずっと。

だから、僕としては自然な流れで君に告白をした。



今日は1人で街に出かけていたのだが、考えるのは君のことばかりだった。服屋に売っている服を見て、すべてが君に似合ってると思ってしまうほどに。街に並んでる1軒のパンケーキ屋さんを見て、きっと君は嬉しそうにして、目を輝かせながら食べるのだろうと思ってしまうほどに。

そんなことを考えながら、僕は家に帰る。君が待ってる家にね。ドアを開け、僕は静かな部屋に「ただいま」と言うと君は「おかえり」と返す。

それも嬉しそうにかけよって来た。

君とのやりとりも夢のようだと思っても、きっと夢じゃない。覚めてしまわないようにしっかり噛みしめていよう。

君は急に違う話を始めた。

「ねぇー!私ね、体重減ったんだよ!」

「すごいね。頑張ってたもんね。」

そうすると君は嬉しそうに「うん!」と言った。

いつも子供みたいだなんて言ったら、君は怒るかな?言わないけどね。

幸せな時間が続くとやっぱり君への愛を感じる。だから、僕は声に出して「愛してる」って言うとその言葉をいつも君は聞かない。恥ずかしいのかな。いつか君が聞いている時に言ってみせる。だって、君にも言って欲しいから。笑顔でね。



そんな笑顔の日々の中で君のお母さんから手紙が届いた。その内容は娘への心配がほとんどだった。大丈夫?元気にしてるの?無理しないでね?お母さんはいつでも味方よ。なんて素敵な手紙なんだろうと感動したが、君は嫌な顔をした。

「どうしたの?」と聞くと君はこう言った。

「お母さんは私のことをまだ子供だと思ってるのよ。本当に嫌だ。邪魔しないで欲しいのに。私はお母さんに心配されなくても幸せよ!」と少し怒りながら言って僕の手から手紙をとるとその場で破り捨てる。君は寝室に入ってしまった。彼女の気持ちも分かるが、お母さんの気持ちもよく分かる。

だから、君にこう言った。

「君の気持ちも分かる。でも、やっぱり一人娘だからお母さんは心配なんだよ。返事だけでも書こう?ね?」

君は少し落ち着いたようでこう言う。

「分かってるよ。でも、嫌なの。私はあなたといて幸せなのに子供扱いされて、心配されて、なんだか今の自分を否定されてる気分になる。」

「だから、返事は書けそうにないの。あなたが書いてくれない?私みたいに書いて?」

僕は戸惑ったが了承をした。

君がこんなに悲しそうに頼んでくるから書かないわけにはいかないんだ。何かの責任感が湧いてきていた。気づかれないように君のように手紙を書いた僕。



君には多くの友達がいる。それは星の数ほどで数えきれないくらい。色々な種類の人で年齢も違くて僕なんてその中の1でしかない。いや、" 1でしかなかった "って言うべきかもしれない。これは僕の思いあがりかもしれないけど、僕は君の特別になったと思っている。本当の君を見たことがあるのは僕だけだと思ってもいいかな?君の隣にはいつも僕がいる。星の数いる友達じゃなくて僕がね。友達の中には僕以上の人なんて山ほどいるけど、僕がいる。

そう思いあがれるが、やっぱり心配になっしまうのが僕の悪い所だって君も言っていたっけ。

君に聞きたいけど聞けない。じっと君を見ていると君にその視線がばれてしまう。

「どうしたの?そんなにじーっと見て、なんだか恥ずかしいからやめて!」

恥ずかしそうにしたと思っていたのに急に君は変わる。

「聞きたいことがあるんでしょ?」

君には隠し事が出来ないな。

「君は僕のことを本当に好きなのかなって…。」

そう言うと君は「好きじゃない!」と即答されてしまった。

そうだよなと思いショックだった。こんなに一緒にいたのに本当に思いあがりだったなんて悲しすぎる。

「やっぱりそうだよね…。」

僕は無理に笑顔を作ったが、きっと歪んだ笑顔だったはずだ。涙目になってしまう。

「えー!?なんで泣いてるの!泣かないでよー。ごめんね?違うの!好きじゃないってそういう事じゃなくてね?それ以上だよってこと!」

「え?」と思っていると君は優しく包み込んでくれた。その感覚はさっきまでの負の感情を吹き飛ばしてくれるものだった。僕は「ありがとう」と言って君を抱きしめた。僕は君の特別な存在だと思えるだけでこれまでにないほど幸せなんだよ。



君に出会った日、君と初めて話した日、君に恋をしていると自覚した日、君に告白した日…。

すべての日が遠い昔みたいだね。

今の君は昔と少しだけ違うけど、愛しているのは変わらない。そして、告白をした日はこの世で素晴らしい日であり、史上最悪な日になった。思い出さないようにしてたけど、思い出さないと今日までに作られた幸せを説明できない気がするな。僕が自分で気づいてないと思ったの?そんなわけないだろ。

あの日はいつもみたいに君と出かけてご飯を食べて君を家まで送っていった。思った以上に遅い時間になってしまったので、君の家に泊まることになった。その時、今だと思ったから君に問いかけた。

「今、好きな人いる…?」

君は笑いながら「急に何ー?」って言う。

「気になって…るの?」

少しして君は「ふふっ…いるよ。」とニヤニヤした顔で言った君は子供みたいだった。絶対僕をからかってる。

「誰…?」

「えー、どうしようかなー」

「僕の知ってる人…?」

「うん、そんなに知りたいの?」

まだ僕をからかってる。そんなに楽しいのか?

僕は少しだけイライラし始めていた。

「教えてよ。」

「しょうがないな。教えてあげるよ。」

君は僕の耳に近づいてきて、僕はドキッとした。

そんな期待を裏切って僕の耳に息を吹きかけ離れてニヤニヤしている君を見て苛立ちが増す。

「嘘だよ。今好きな人なんていない。恋人欲しいとも思ってないしね。」と君は笑って言った。

その言葉で僕の感情は爆発して、怒りに近い感情になった。

「からかわないでくれ!僕は本気なんだ!」

叫んでしまったから、君はびっくりして少し怯えている。

「ごめん・・・。でも、僕は本気なんだ。君のことが・・・好きなんだ。」

「え?じょ、冗談でしょ…!もー、やめてよね。」

まだ君は僕を笑い続けてた。

君が悪いんだ。僕を馬鹿にし続けたから・・・。

そして、気づいたら僕は君にまたがり首に手をかけていた。慌てて手を離して体を揺さぶっても反応がない。警察に電話をしなきゃ、その前に救急車か?複雑な考えをしていないのに頭がおかしくなりそうだったが、急に冷静になった。僕はあることを思いついてしまったんだ。" 君を僕だけの人にしてしまおう "って・・・。

そう思ったったら止まらなくなって、君をベッドに寝かせ、僕は親友にメールで君と付き合うことになったと言った。その時だったかな、幻想の君が見えるようになったのは。僕に話しかける君は幻想というか僕が思い描いていた理想の僕と君の形で、僕が思ってる綺麗な君だったのかもしれない。


君はきっと綺麗だったから天国にいるだろうね。僕はどっちに行くかな。君と一緒がいいな。でも、まだそっちに行くわけには行かないんだ。ごめんね。こっちの君を綺麗なまま守らなきゃいけないんだ。

あと、お母さんは僕が書いてるとも思わないで幸せに暮らしてるよ。君の友達だった人とは縁を切らせてもらった。邪魔だったからね。こっちの君にはそんなもの要らないだろ?

みんな気づかないなんて馬鹿だね。

外は朝にも関わらず騒がしい人々ばかり。それの原因が僕であるかもしれないとも思ったけど、だからなんだという気持ちになってしまった。

君は僕といる限り綺麗なままだよ。心配しないで。


という文で日記は終わっていた。彼が被害者に対して抱いた感情は愛情だったかもしれないが、その感情の歪みが彼を化け物にしたは間違いない。彼は今、檻の中で何を思うのか。誰にも分かりはしない場所に彼の思いはあるんだろう。

事情聴取では彼は黙秘を続けているらしい。でも、私が話を聞きに行った日、彼が話した話を私は忘れない。

「僕は人としてあってはならないことをしたと思います。でも、後悔や罪悪感はありません。だって、彼女はまだいるんだ。僕の中に。だからなのか分からないんですけど、悲しくはないんです。どちらかというと今の方が僕は幸せですよ。彼女の笑顔は見れないし、愛してるとも言っくれないですけどね。」

穏やな表情で彼は言った。その言葉の中には愛情が確かにあった。だが、彼の愛情には何かがかけていたし、多分言葉を無理やり付けるとするなら狂愛が合うかもしれない。彼は人間が隠している部分をさらけ出しているように私には見えてしまった。きっと、私は彼を忘れることはないだろう。恐怖はもちろんだが、ある意味で尊敬することができる。そう思ってしまう私にも彼のような心の欠損や歪んだ悍ましい化け物がいるのかもしれない。

物語には題名が必要になる。この物語の名を「綺麗な君へ」としよう。

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