民俗学研究会

なまはげ

花見

大学の食堂で暇を持て余した私たちは誰が言い出したか花見をしよう。という運びになった。


もうすでに日は暮れていたし、お金もない私たちは大した準備もできないままコンビニで安い発泡酒とつまみを買い、近くの公園へと向かった。


まだ開花してないかと思われる時期だったが、公園に着くと五分咲き程度には咲いていた。


その公園は小高い丘の上にあり、昼間は家族づれで賑わい、桜の咲く季節の週末は出店なども出る立派なものだった。

けれども平日の夜に、しかもまだ満開には程遠いこの時期に花見をするのは私たちのような暇を持て余した大学生くらいなもので屋台もまだ無く、普段よりも静かな気さえするほどだ。


「なんだか不気味だね。」


そんなことを言いつつ私たちは薄暗い街灯に照らされた桜を横目に些細な宴を始めた。


他愛のない話をしつつ酒をちびちびとやっているとアルコールと初夏の寒さのせいかトイレに行きたくなった。

けれどもこの公園にはトイレがないのは知っていたので人目のないはじっこの方でこっそりと用を足すことにした。


目立たないように席を立ち、人のいない藪の方へと向かうとそこで用を足すことにした。

ふうっと一息つき、なんと無しに前を見やると藪の奥、私から4,5メートルほど離れたほとんど森になったあたりに人影のようなものが見えた。


よく見れば街灯などがなく良く見えないもののその人影のそばには立派な桜の木があった。

濃い雲に覆われてはいたものの満月の月明りに照らされたその桜の木は奇妙な美しさがあり、藪の向こうにある、というめんどくささがなければ、あるいは友人とで無く一人で訪れていたら私もあの木のそばに寄って花見をしていたかもしれない。


「私もそばで見てもいいですか?」

そう声をかけてみようかなとも思った。


けれどもあんまり友人たちを待たせると心配されるかもしれないし一人の時間を満喫してるかもしれない人影の人物の邪魔をするのも気が引けるので私はおとなしく元の花見の輪へと戻った。



その公園で男性の死体が見つかったのはその次の日のことだった。

私たちが酒を飲んでいた場所のそう遠くないところで亡くなっていたらしい。

首を絞められて



食堂でその話を聞きショックを受けている私のそばで友人がこんなことを言った。



「花見しようって言いだしたの誰だっけ?」




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