君も今日から主人公!(体験版)

羽衣まこと

ーー

「人類は絶滅した、と聞いていたのだけれど」

 と、目の前の機械は言った。

 それは白く無機質な、直径一メートルくらいの立方体だった。「機械」というよりは「箱」という印象だったが、内側からゲーム機に似た起動音らしきものがかすかに聞こえてくることや、所々に継ぎ目らしき直線が見えていること、それから右隅に直径二ミリくらいの小さな点灯ランプが二つついていることなどから、俺はとりあえずそれを「箱型の機械(アンドロイド的なやつ)」と判断した。

 判断はしたが、引き続き混乱していた。

「どうやら間違った情報だったみたいね。生き残りがいたなんて、私って運がいい」

「な……は?」

「ナハ?」

 何これ? ここどこ? てか、は? という三単語を発したつもりだったのだが、言葉になっていなかった。想定外の出来事が起きた時、人はまともに声を発することができなくなるのだということを、俺は今日初めて知った。

「あなた名前は?」

「えっ?」

「うーん、反応が鈍いねえ」

 白い箱は首を傾げるように斜めに傾き、困ったような声で言った。

「まだ目が覚めてないのか、それとも言語が違うのかな? この星のこのあたりの地域で、あなたの時代に使われていた言語に設定したんだけど、間違ったかな」

「いや……え?」

「イヤエ? うーん、座標と時間軸を確認しなきゃ。えーと、どうやるんだっけ」

 箱は「ええと」と呟いたあと、何やら傾いて回転しだした。回転、というのは文字通りの「回転」で、立方体の角の部分を軸にして、コマが回るような感じだった。座標の確認とやらにそんな動きが必要なんだろうか、と俺は純粋な疑問を抱く。キモいし怖い。ていうかここはどこなんだろうか。

 先ほどからなんだか頭の中がぼんやりしている。極度の睡眠不足の時のような感覚だ。頭が重くて、うまく回らない。なんだか妙なことが起きているのはわかっているのだが、この状況に整理がつけられない。

 俺はとりあえず箱の挙動に注意を払いつつ、視線を横にやって周囲の状況を確かめることにした。実際は先ほどから視界に入っていた光景だったが、あらためて確認してみることにした。

「えー……と」

 あたりは見渡す限り、だだっ広い平野だった。

 建物もなければ緑もない。乾燥してひび割れた茶色い地面がどこまでも広がっている。そしてその所々に、黒っぽい大きな塊が「生えて」いた。はじめは何だかわからなかったが、じっと見ているうちに、それらが電柱や屋根の一部であることに気づいた。他にもおそらく看板や、ビルか何かの残骸と思われる鉄骨が、錆を大量に纏ったようなボロボロの状態で、地面から突き出していた。

「何だよこれ……」

 俺は思わず呟いている。一度ゆっくり目を閉じて、もう一度開いてみる。ワンチャン見間違いであれと願っていた風景は、残念ながら現実のようだ。なんでこんなとこにいるんだ、と考えはじめる。これは何なんだ。一体何があったんだ。

 しかし相変わらず記憶が不明瞭で、はっきりと思い出すことができない。せめて落ち着いて考えようと、すうっと大きく息を吸う。そうしてみると、周囲の空気が乾燥していることにも気づいた。匂いも少し埃っぽくて、それらが不意に、小学生の頃に遊んでいた寂れた公園や、中学生の頃に興味本位で入り込んだ廃工場の記憶を思い起こさせた。そうだ、と自分についての記憶を辿る。そう、俺は小学生だったことがあって、中学生だったこともあって、高校生だったこともある。埼玉生まれ埼玉育ち。大学は都内を選んだが、中途半端に交通の便がいい実家の位置のせいで一人暮らしは叶わなかった。単位はぎりぎりだったけどなんとかストレートで進級し、就活はうまくいかなかったけど、かろうじて中小企業のエンジニアの職を得て卒業した。今は都内で念願の一人暮らしをしながら仕事に励んでいる、はずで、で、ここはどこでこれは何だろう。徐々に思い出してきたはいいが、この状況に繋がる気配は全くない。

 途方に暮れて上を見ると、空は灰色だった。ぶ厚い雲が太陽を覆い隠していて、なんだか酷く汚く濁っているように見える。地上の荒廃具合と相まって、まるで大昔のディストピア映画みたいだ。俺はなんでこんなところにいるんだろう。だってさっきまで俺は、だって──

「……あ!」

 俺は思わず声を上げた。そして唐突に、全てを思い出した。

 これはあれだ、「バグ」だ。ゲーム世界のバグ。

 俺はついさっきまで、没入型体験ゲーム、『異世界転生〜君も今日から主人公!〜(体験版)』をプレイしようとしていたはずだった。ありとあらゆる設定で異世界転生を体験できる、発売前から話題を呼んでいた最新ゲームのデモ版だ。ターゲットは幅広く、主人公は勇者にでも賢者にでも悪役令嬢にでも好きなものになることができ、さらには周囲の登場人物やストーリーも事細かに設定できて、本格RPGでも乙女ゲームでも、好みの世界を体感できる代物らしい。基本はオープンワールドなので、何をしようとどこに行こうとOKという、かなり自由度の高いゲームだ。全てを自分で選ぶのはさすがに面倒なのでデフォルトでパックされた設定がいくつも用意されているが、俺はそういうのが好きなのでキャラクターもなり細かく設定したし、さらには開発元に大学時代の友達がプログラマーとして働いており、そいつの学生時代の恥ずかしい暴露話を握っているという最強のカードを生かして、一部をいじってもらったりもした。

 だから俺を待っているのは、中世ヨーロッパ風な異世界における、チートな勇者が主人公の、チョロくて楽しいハーレム(R-18版)(体験版なので一人までしかやれないらしい)(通常盤と分けてあって値段が高いくせにエロがぬるいっていうからちょっといじってハードモードにしてもらった)(まあ多少違法ではあるけど個人で楽しむ分にはいいだろ)のはずだった。なのにこれは一体なんだ。俺好みに細かく設定したFカップの黒髪清楚系色白ヒロインはどこへ行ったんだ。

「つか何だよこのバグ……はーあ」

 確かにその友達から、デモ版だから下手にいじるとバグが起きることもある、という話は聞いていた。これがそうなのだろう。俺はようやく冷静になった。目の前でいまだに回転している箱をちらりと見やり、どういうバグが起きたら箱が喋って回るんだよバグ怖、などと普通にドン引きしながら、元の世界へ戻るべく自分の手首に目を落とした。手首にはコントローラーとしての機能を備えたバンドが装着されている。リセットやログアウト、一時停止やスクリーンショットの撮影なんかもできるやつだ。

「……あれ?」

 が、果たしてそこには何もなかった。どんなシーンでも、たとえ素っ裸だったとしても必ず装着されているはずの操作バンドが、なぜかなかった。

「なんだよもう……」

 俺は小さく呟いて、仕方なくアクションからホーム画面を呼び出すことにした。「ホーム」と呟きながら手のひら全体で目の前をスワイプする。しかしなぜか何も起きない。感度が悪いのかと思い、もう一度やってみる。なんの反応もない。妙だな、と首を傾げる。バグとはいえ何かしらの表示がされるはずなのに、何も出てくる気配がない。これでは戻れない。

「あなたさっきから何してるの?」

 俺が焦り始めていると、いつの間にか回転をやめていた箱が声をかけてきた。

「踊りじゃないよね? さっきも何かぶつぶつ言っていたし……聞こえなかったけど、もしかして歌ってたとか?」

「え? いや……」

「エイヤってどういう意味? データになかったけど、限定的な文化、あるいは一過性の流行の用語とかかな? 座標も時間も大体合ってるはずなんだけど、情報に漏れがあったのかなあ……うーん、厄介だなあ」

 箱はそう呟いたかと思うと、す、と音も立てずに俺に近づいてきた。思わずびくりと肩が跳ねる。想像していた動きと違った。なんというか、全然機械らしくない。浮遊していた物体がつるりと滑ってきたような、どちらかというと幽霊を思わせるような動きだった。

 俺は動揺しながら、後ろにそっと一歩下がった。すると箱はするりと動いてその分距離を詰めてくる。箱に顔はついていないが、こちらを向いた面に小さな点灯ランプがふたつある。それが緑色に点滅し続けていて、なんだか観察されているようで不気味だった。こいつの元は一体どういうキャラクターだったんだと考える。表面のフィルターが剥がれているとしても、そもそも人間のキャラならこんな形状にならない気がする。それとも物語に登場するキャラクターではなく、サポート用のマスコットキャラ的なものだろうか。記憶にないが、パッケージとかにいたんだろうか。

「あのー……」

 俺は若干怯みながら、箱に向かって声をかけた。バンドがない上にアクションコマンドでも反応しないのでは、目の前のこのキャラに頼ってみるしかない。

 ともかく一旦ログアウトして、現実世界に戻らなくてはならないのだ。幸いまだゲームは始まっていないのだし、セーブデータが消える心配もしなくていい。

「ちょっと聞きたいんだけど、ログアウトの方法って……」

 すると箱は「おっ!」と声を上げ、それからぴょん、と軽やかに飛び跳ねた。なんだその動きは。いよいよどういうキャラなんだこの箱。

「やっぱり同じ言語じゃん! ちゃんと通じてたんだね、良かったあ!」

 箱は心底ほっとしたような声を出しながら、ぴょこぴょこ跳ねて踊るような動きをした。先ほど近づいてきたときとは違って、どことなく可愛げがあるように見える。やっぱりマスコットキャラなのかもしれない。俺は少し安心して、「あの俺、」と言葉を続けた。

「操作バンドがなくなってて、アクションコマンドも反応してくんなくて……だからあの、ログアウトする方法を教えてほしいんだけど」

「……ログアウト?」

 箱は跳ねていた動きを止め、また微妙に傾いた。

 うん、と俺は頷く。

「あるでしょ? 緊急装置的なやつ。再起動がしたいんだよね」

「緊急装置? 再起動? ええと、あなたまだ何か機械を身につけているの? そういう風には見えないんだけど」

「身につけてるっていうか、まあ現実の俺は色々身につけてるけど……この世界では何もないよ。むしろないから困ってる。まあとにかく一旦ここから出ないといけないからさ、ログアウトの方法教えてよ」

「……現実の俺? この世界?」

「いやだから、このゲームの外の俺の話。現実ではVスーツ身につけてるでしょ。メタ発言で申し訳ないけど、一旦ログアウトして、Vスーツ脱いで再起動したいんだって。君そういうの案内するキャラじゃないの?」

「案内するキャラ?」

 箱はきょとんとしたように呟いたあと、ははあ、と何やら納得したような声を上げた。

「わかった、あなたは今のこの状況がゲームだと思っているのね? そうね、そういえば2040年ごろは体感レベルの高いVRゲームが一般に流行っていたという情報があったわね」

 なんだろうかその言い方は。俺は眉をひそめる。単なるキャラのメタ発言にしては、さすがにちょっと不自然な感じがする。

「残念だけど」と、箱は点灯ランプを青く点滅させながら言った。「ここは現実なの。今は2150年。ちなみに地球が滅んだのが2138年だから、12年が経っているわね」

「……は?」

 この箱は何を言っているんだろうか。地球が滅んだ? SFか? このゲームのストーリーについては例の友達から聞いているが、このゲームの話の中にSFの要素はなかったはずだ。しかもこんな、ベタでひねりのない設定の。

「生体反応も調べたんだけど、少なくともここから半径三千キロ以内は、十センチ以上の生物は生存していないわね。周囲にいくつか、あなたと同じようにコールドスリープをしていた個体のボディは発見したんだけど、機械の方が壊れてしまっていて、全員絶命していたの。一応回収はしたけど、元に戻せる保証はない。残念だわ」

 俺は昔から、ネタバレは平気なタイプだ。だからこのゲームのストーリーについても、オチの部分までしっかり話を聞いている。こんな展開はなかったはずだ。

「ああ、そうだよね混乱するよね。それに悲しいよね……想像はできるよ、同じ種族の生命体がみんないなくなっちゃったんだもんね」

 手首に目を落とす。やっぱり何もない。

「ホーム」と呟いてみる。やっぱり何も起きない。

「あなたはなんでコールドスリープしていたの? 多くの人々は『現代の技術では直せない持病を持っているから』という理由のようなんだけど、あなただけ年代が古いし、それに眠っていた機械、プロトタイプみたいだし……」

 箱は話し続ける。俺はまた手首を見る。ホーム、と呟く。

「あ、製造元もあったよ。あなたが勤めていた会社?」

 そう言って箱が口にした会社名は、このゲームの製造元の会社だった。

「え?」

 俺は思わず声を上げている。製造元ということは、つまり俺の友達の勤めている会社だ。

 プロトタイプ、とさっき箱が言っていたことを思い出す。コールドスリープ。知らない未来。滅んだ世界。俺の友達の会社と、プロトタイプの機械。

 ……え?

「ちょっ……え? これマジなの?」

「まじ? ああ、『マジ』ね。うん、そう、マジだよ」

 マジで? 俺あいつになんかされたの? それともなんか事故でも起きたの? そんでなに、コールドスリープされて? 眠ってる間に未来になってて? しかも地球滅んだの?

「マジかよ……?」

 そんなことってある?

 ただエロゲーやろうとしてただけなのに?

「マジだよ。あ、それでね、私はrl98gjdgdgぃおhふいgsrふいおsrつhりs星から来た、fjg;おjごいhdbっlgsvtglxkjfひうzっていう名前なんだけど」

「……なんて?」

 呆然として俯いていたところだったのに、唐突に意味不明な単語が発されたので顔を上げてしまった。

「rl98gjdgdgぃおhふいgsrふいおsrつhりs星から来た、fjg;おjごいhdbっlgsvtglxkjfひうzって名前なんだけど」

「ごめん聞き取れなかった」

「いいよいいよ、発音が難しいものね。それであなた、私に保護される気はない?」

「は?」

「私、文化研究員をしているんだけど。あなたたちの世界の文化の仔細を記録しに来たの。一度すでに調査は入っていてね、その時に色々設置したから、観測はずっとされていたんだけど……改めて現地調査をしようか検討されていた矢先にね、全部無くなっちゃったの。私の仕事は、絶滅種になってしまったあなたたち人間の生き残りを探すこと。保護して話を聞きたいの。大丈夫、酷いことは何もしないわ。かなり探し回ってあなたしかいなかったんだもん、死なれでもしたら困る。できるだけあなたの生活様式に合わせた空間を用意するし、食べるものも再現できるはずだから。一度調査が入っていたことが『不幸中の幸い』だったわね」

「え?」

 俺は混乱して間の抜けた声を上げている。

 なんだこの怒涛の展開。俺はどうしたらいいんだ。これは頷いていいのか? いや警戒するべきなのか?

「ああごめん、いきなり色々言われて混乱してるよね? そう身構えないで。とりあえずうち来なよ、ってこと。どう?」

 うちってどこ、と問うと、「うちの星。てかまずうちの船?」と軽い調子で返された。

「えー……」

「あ、ちなみにうちの宇宙船にはメスしかいないよ。君オスでしょ? 良かったね!」

「全然良くないけど」

 つまり人生初の逆ナンになるわけだが、正直まったく全く嬉しくはない。何せ相手は柔らかそうな胸も尻もない立方体なのでワンチャンの狙いようもない。

「あれ? ああ、同性愛者だったかな? それともXジェンダーとか、Aセクシャルとか、もっと数の少ない……」

「なんでそんなとこ詳しいんだよ」

 俺は思わず突っ込んでいた。さっきから思っていたが、この箱なんか全体的にテンションが軽い。ついさっき地中が滅んだとかいうかなり深刻な話題をされたばかりなのに、実感が湧いていない上に目の前の奴がこんな調子では、いまいち深刻な気持ちになれない。

「2040年前後の日本、で検索したら出てきたいっぱい出てきたワードだから。まあ誤差はあるけど」

「ああそう……まあ俺は比較的多数派というか、おっぱいが大好きな異性愛者なんですけど」

「じゃあいいじゃん。良かったね。ハーレムだ」

「良くないだろ話聞いてた? おっぱいが好きなんだよ! あんたないだろどう見ても!」

 この立方体め! とよくわからない罵声を浴びせてしまう。混乱しているんだと思う。絶対にもっと真面目に考えるべき問題があるのに、俺はさっきから何の話をしているんだ。おっぱいが好きなんだよ! じゃねえよ。いや好きなんだけども。

「おっぱいねえ……内側にあるかもよ?」

「え、あんの?」

「さあ」

「どっち!? なああんの!? それによってあんたんとこに行くかどうかの返事が変わる!」

「胸はないけど、お尻はあるよ」

「おし……」

 尻あんの? マジで?

 俺は考えた。尻派になるか、胸派を貫くか、それが問題だ。いやもっと真面目に考えるべき問題があることはわかっているが、とりあえず今はこれが問題だ。何せ俺はエロゲーをやろうと思ってゲームを始めたのだし、今後のことを考えると精神的な癒しは重要な要素だ。

「それに口もあるし」

「え?」

「ちゃんと柔らかいよ」

 ちゃんと柔らかいよ? 柔らかいよってなんだ、何を想定した発言だ。

「あ、ほら、来た」

「来た?」

「私たちの船」

 あたりを見回すと、俺の背後から巨大な立方体が音もなくこちらにやってきていた。この箱と同じ、つるりと滑るような動きだ。そして形も色も同じだ。なんというか、「箱型の乗り物(宇宙船的なやつ)」という感じだ。というか、ただでかいだけの白い箱だ。

 巨大な箱は俺たちから数メートル離れたところで停止した。まもなくシューっと音がして、下方が四角く開く。開いた形も正方形だ。そして中から、隣の箱と同じ見た目の立方体がいくつも出てきた。全部箱だ。全部白い立方体。メスと言われても全然わからない。

「ねっ、ここの職員は全部メスだって言ったでしょ。壮観でしょ? 良かったね」

 良くねえよ、と俺は雑に言いながら眼前の光景を眺める。まあ、ずらっと並んだ箱はある意味壮観ではある。全然そそられないけど。あと「ねっ」とか言われてもメスかどうかとかわかんねえけど。

「ハーレム、と呼ぶんじゃないの? こういうのって」

「……ハーレム……といえば、ハーレム、かなあ……」

 とりあえず全部硬そうだ。が、口は柔らかいとさっきこいつが言っていた。だったら尻も柔らかいのかもしれないし、触ったら気持ちいいのかもしれない。「さ、行こっか!」

 箱は俺の前に出て飛び跳ねるような動きをする。なんだか可愛く見えてきたのはきっと錯覚だ。

 これからどうなるんだろう、と俺は考える。しかしまあとりあえず、この箱たちの口と尻が本当に柔らかいのかは確認したい。これから状況を実感したら、あまりにも大きな絶望に向き合わなければいけないのだから、癒しイベントがあるかどうかは重要な問題だ。

 とりあえず尻派になるか……と俺は決意して、彼女(?)の後ろをとぼとぼついて歩いた。







「──え? ちょ、こいつすごい嬉しそうにゲーム進めてんだけど」

「え? 何で? ハードモード(物理)しかもディストピアSF(笑)に設定したんだよな?」

「そのはずなんだけど、設定ミスったかなあ……ちょっとした悪ふざけの……いやできてるできてる、一ミリもそそらねえ感じの立方体にハーレムされてる」

「ええ……? そういうのが好きだったのか……おっぱい好きって言ってたのになあ……」

「なんか目覚めさせちゃったんじゃね」

「えー……悪いことしたかなあ……」

「嬉しそうだしいいんじゃね? どうせ体感一ヶ月で目覚める設定になってんだし、なるようになるだろ」

「うーん……まあいっか……?」









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