第2話 ある転生者の日記1

〇月×日

 特にすることもないし、日記を書き始めた。暦を聞いたらよくわかんない言葉を言われたのでやっぱりそうなんだろう。ここは異世界で俺は転生してしまったらしい。

 俺の名前は加賀美勇太。17歳の男子高校生だ。自分でいうのもなんだが平凡な暮らしをしていた。一人っ子で、両親と暮らしていた。勉強もスポーツもそこそこ。彼女はいないけど、友達もいたしそれなりに楽しく暮らしていた。


 今日は最近はまっているMMORPGの大型アップデートが来る予定だったので、机の前で待機していた。そしてアップデートの瞬間、―椅子とともに落下した―

 次に広がってたのは広大な青い空だった。意味も分からず上空からすごい勢いで落下していた。まじで意味が分からない。これは夢か?と思ったけど体にかかるすげえ風圧が嫌でも現実だと理解させてきた。人間ってマジで驚くとほんとに動けないんだな。そうしてると段々と何かが近づいてくるのが見えた。いや違う俺が地面に近づいてたんだ。落下してたし。「あ、俺死ぬ」と思った瞬間、今までの思い出が走馬灯のように駆け巡ってた。ああ、父さん母さん孫の顔見せられなくてごめん。友達も、借りてた漫画返せないまま死んでごめん。そして何より、彼女一人ぐらい欲しかったなぁ...今思い返すとなんて情けない走馬灯なんだ。ともかくそんなことを思いながら。滅茶苦茶な音を立てて地面に落下した。


 なんでか生きてた。訳が分からない。椅子は粉々だったし。後、滅茶苦茶くせぇ!

なんか生臭いにおいがめっちゃした。怖くてしばらく目を開けられなかった。確実に小■漏■■ていた(乱雑に黒く塗りつぶされていてよく読めない)。恐る恐る目を開けてみると、なんか騎士?みたいなファンタジー世界のコスプレしてる人たちが俺の周りにいた。え、何?と思ったけど、マジで臭い!生まれてから今までで一番臭かった。吐きそうだった。なんか女の人がしゃべりかけてきたけど、何言ってんのか全然聞いてる余裕なかった。ていうか口を開けたら吐く。しかもなんか頭からよくわかんない汁が垂れてきて目に入ってめっちゃ沁みた。ふざけんな、なんだよあれぶっ殺すぞ!


 吐き気と沁みる目と格闘すること数分、ようやく慣れてきたあたりで再度、女の人が話しかけてきた。近くで見ると滅茶苦茶可愛かった。しかも海外の方、でもめっちゃ日本語上手だから日本の文化が大好きなんだろうなと思った。コスプレしてるし。その時になってようやくあたりを見回すと、なんかドラゴンみたいなやつの中央に俺が立っていた。しかもめっちゃでっかい穴が開いてた。もしかしてコスプレの撮影現場か何かに俺が乱入しちゃってしかもこのドラゴンの模型をぶっ壊しちゃったのかもしれないと思った。なんか付いてきてみたいなこと言ってるしまじで焦った。だってこのドラゴンめっちゃリアルなんだもん。俺の小遣いで弁償できるかな、周りのおっさんレイヤーたちもめっちゃマジな目をしてるし怖くて黙って従った。


 歩いているうちになんか変な感じがした。全然知らない場所だし、コンビニはおろか店も民家も見当たらない。なんかめっちゃ田舎だったらどうしようとか思ってた。今金ないし親に迎えに来てもらえるかなとか思ってたら、もっとびっくりした。

付いた先にでっかい門とさらにでっかい城がみえたからだ。しかも西洋風の、RPGで見るみたいなの。でその門の先に同じような格好のコスプレしてる大群がいてマジで混乱して声が一切出なかった。女の人がちょっと待っててくれと言った瞬間に目の前にゴリラがいた。いや人なんだけど、なんなんだあのおっさん。でかいしムキムキだし腕が俺の身体ぐらい太い。どうやら女の人の父親みたいだった。どうやったらあのゴリラからこの女の人が生まれるんだよ。突然変異すぎるだろ母親めっちゃ気になる。なんてアホなこと考えてると女の人に「父が話を聞きたがっている」と言われた。

 

 ここまで来たら、俺だってこれが単なるコスプレじゃないことぐらい理解し始めていた。でもだとしても意味が分からない。何も話せることないし、でも話さないとどうにもならないよな~と思って頷いた。その時にようやく言えた。まず体を洗わせてほしい、ついでに服も貸してほしいと。慣れたとはいえ臭いし。後ぬっちゃぬちゃだし。そういうと女の人はすぐに手配してくれた。まじ女神。可愛いうえに優しいとか。女の人が傍にいた兵士のおっさんに指示して井戸みたいなところに案内してくれた。案内してもらってる最中におっさんにここはどこで今は何月何日か聞いたけど、やっぱり全然聞いたこともない名前と意味わかんない暦を言われた。体を洗いながら俺は薄々思っていたことが当たっていると思った。ここ異世界だ。なら俺は転生者になるのか?でもこういうのって普通トラックに轢かれた人が神様とかにチートスキル貰ってくるもんじゃないの?俺家にいたんだけど?しかもなにももらってないし、一緒に来たの椅子だけだし。椅子でどうしろと?つーか椅子も砕け散ってんじゃねえか!そう思うとあの女の人達の表情もうなずける。きっとあれはドラゴン退治の真っ最中だったんだろう。そして倒したと思ったら空から俺が降ってきたわけだ。そりゃ騒ぎにもなる。としたらあのドラゴンの腹に空いた穴はあの女の人がやったのか。え、こわ異世界やばすぎるだろ。これはあのゴリラの娘ですわ。めっちゃ可愛いのに。なんて思いながら体を洗い終えて、用意してもらった服を着た。めっちゃぶかぶかだった。そりゃそうだ、ここの人めっちゃマッチョなんだもん。ちょっと悲しかった。


さっぱりした俺が連れられて部屋に行くと。さっきのゴリラ(仮)とゴリラ娘(仮)がいた。ゴリラ(仮)に席に着くように促されて。色々聞かれた。まず名前と出身を聞かれたので正直に答えた。その時に聞いたがやっぱり「日本」については知らなかった。そんで、あのドラゴンについて聞かれた。ぶっちゃけ俺が落ちた時には戦闘は終わってたし話すこと特にないんだけどな~と余裕ぶっこいてたら衝撃的なことを言われた。


 おい!なんで俺がドラゴン倒したことになってんだよ!手ぶらの一般人が倒せるわけないだろ!倒したのはお前だろゴリラ娘(仮)!俺はそういった。もちろんこんな汚い言葉は使ってない。紳士だから。別にびびったわけではないよ?そういうとゴリラ娘(仮)はすごい剣幕で俺にまくし立ててきた。まじでこわい。いや、わかるよ女性があんなクソでかい穴ドラゴンに開けたら引かれるってことぐらい。でも、本当にお前がやったんだ。諦めて認めてくれ、父がゴリラなんだから娘もゴリラなんだ。

 結局、話は平行線のまま膠着状態になったとき、兵士みたいな人が部屋に入ってきて、ゴリラ(仮)に何かを耳打ちした。え?何この空気。ゴリラ娘(仮)も憐れみみたいな目線向けてくるし俺殺されるの?とビビってたらゴリラ(仮)が俺に「行く当てはあるのか?」って聞いてきた。そうだよ!俺この世界じゃホームレスじゃん!どうしよう。と思って首をふるとゴリラ(仮)は俺のことを騎士団で保護してくれると言ってくれた!なんて優しいんだ。娘の優しさは父親譲りだったんだ。ありがとうゴリラ(仮)なんて言ってごめん。今度からゴリラ(神)って呼ぶよ。そう思ってると、ゴリラ(神)は娘に部屋に案内するよう言っていた。どうする?みたいな顔で見られたから俺は速攻で首を縦に振った。


 こうして話は終わり俺はゴリラ娘(仮)に部屋へと案内された。はぁ、マジでどうしよう。異世界で何の力も持たずにどう生きればいいんだ。騎士とかになるしかないのかな。でも俺剣なんて選択授業の剣道しかしたことないんだけど。なんて思ってると、突然ゴリラ娘(仮)が振り返ってこういった。

「先ほどはありがとう。私の名前はティルーゼ・ミランダ。王国騎士団3番隊の隊長を務めている。これからよろしく頼む」

そう言って手を差し出してきた。そういえば名前聞いてなかったなと思って改めてティルーゼさんを見ると...やっぱりめっちゃ可愛いんだよなぁ。優しいし、なんかめっちゃ良い匂いするしでもパワーがゴリラなんだよなぁ。いやでも、頼れる人がほかにいないんだからこのゴリラ、じゃないティルーゼさんに守ってもらおう。そう決意して俺は、

「加賀美勇太。こちらこそよろしく」

と言って握手した。可愛すぎてちょっときょどっちゃった。死にたい。

初めてまともに触った女性の手は、想像よりも硬く、力強かった。

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異世界でのとある日記 ぶんけん @bunken

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