第20話:幸せの形 sideあの二人
天人の王に、子供が生まれた。
それは全世界に向け発表され、どの国も盛大にお祝いをした。
亜人の王は世襲制では無い。
だがやはり王の子供は能力が高い事が多く、王位に就かずとも国を発展させる事が多いのだ。
ここ【人間の国】も例外ではなく、国をあげてのお祝いムードである。
そのような中、ある噂が広がった。
「恩赦が出るらしい」
凶悪な罪を犯した者以外、刑が軽くなるというのだ。
勿論、改心の余地のある者に限られるが。
魔人の王アレキサンダーは、お祝いムードの【人間の国】の王の部屋で、定例報告を聞いているサファイアを待っていた。
アレキサンダーが一緒だと人間達が萎縮してしまうので、渋々部屋で待っている。
耳は隣の執務室でサファイアにされる報告を一緒に聞いていた。
「恩赦か……」
ふと、アレキサンダーの脳裏に二人の人間が思い浮かんだ。
純粋な人間ではないが、【人間の国】に住んでいた血の薄れた獣人である。
サファイアを傷付けた肉食系獣人とよく似た思考に嫌悪し、【獣人の国】へと反射的に送ってしまった二人。
「良い機会だ。戻してやろう」
アレキサンダーは指を鳴らした。
部屋の中には特に変化は無い。
はるか遠くの公園の広場に、やたらと粗末な服?を着た二人が急に現れて、周りの人間達を驚かせただけだった。
「え?どこ?ここ……」
ルーフリアは突然変わった風景に、呆然としていた。
単なる布を肩口で縛っただけの服を纏い、四つん這いの腰高のあられも無い体勢をしていた。
下着は着けていない。
その側には、何かを持っていたような間抜けな体勢のまま固まるソーベルビアがいた。
同じように保けた顔をしている。
同じような布を巻いただけの服で、下着は着けていない。
【獣人の国】には、下着の概念すら無くなっており、布すら巻いていない住人もいた。
「ソーベルビア?」
腰を落として座り込んだルーフリアが声を掛けると、ソーベルビアの視線が下がった。
ルーフリアに視線を止め、激しく眉間に皺を寄せる。
明らかな嫌悪である。
「まさか、ルーフリアか?」
ソーベルビアが怪訝そうに名を呼ぶ。
それはそうだろう。
手入れもされていない肌も髪もボロボロで、避妊などされない交わりに何度も妊娠出産を繰り返したルーフリアは、昔の面影など微塵も無かった。
ソーベルビアは肉体労働ばかりさせられていたのか、体が一回りも二回りも大きくなっていた。
良く言えば精悍に、正直に言えば野蛮人に見える。
二人は視線を合わせた後、無言で逸らした。
ルーフリアは立ち上がり、ソーベルビアは体の向きを変え、歩き出した。
向かう先は公園の出口である。
周りの奇異の目も気にせず歩く二人は、出口を出て、挨拶もせず、それこそ視線も合わせず別々の方向へ歩き出した。
それぞれ実家へと向かったのだろう。
ソーベルビアは街中のあちらこちらに映し出されている、幸せそうなかつての婚約者を見た。
昔程の番衝動は無いが、胸にポッカリと穴が空いたような虚しさは変わらない。
「本当はあの隣に居るのは俺で、あの腕に抱かれているのは俺の子だったはずなのに……」
呟いた瞬間、涙が出た。
そのまま
実家に戻されたソーベルビアは、即病院へと入れられた。
【獣人の国】で奴隷として働かされていた──などと言えば当然だろう。
それか、何年も行方不明で死んだと思っていた息子の扱いに困ったのかもしれない。
それでもソーベルビアは幸せだった。
奴隷より、病院に入院している方が遥かに楽だったから。
時を開けず、ルーフリアも入院していた。
男女で別の病棟だったが、同じ主張を繰り返すので、治療の一環で面会の機会が設けられた。
人間らしい、
日常生活には支障が無いとされた二人は退院し、互いの家から縁切りのように金を渡された。
その金で静かな田舎町に家を買い、二人で住み始めた。
子供は出来なかったが、ただ静かに、穏やかに暮らしたようである。
終
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長い間お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
エタらずに最後まで書けて、良かったです。
『あの二人』のお話は、もっと恥辱にまみれて後悔しかないお話だったのですが、「あ、カクヨムは18禁アウトだった!」とソフトになりました(笑)
因みに今回は、アルファポリスでも同じ内容です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私は、幸せです。 仲村 嘉高 @y_nakamura
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