第19話:私は幸せです




 結果。

 症状は番延命が起こった時のものではあるけれど、実際には時間が経たなければ判らないとの事。

 えぇ~何それ。


 番ではないのに、番延命の症状が出た人など他に居ないそうなので、しょうがないと言えばそれまでなのですけど……ね。



 魔人の王の番であるサファイア様からいただいた飴は、症状緩和の為の鎮痛解熱剤でした。

 鬼人の王の番のティムール様のは、鎮痛剤の甘い飴でした。

 両方とも魔人の医師が確認して、正規のルートで販売されている後遺症も無い、妊婦でも大丈夫なほど安心な物だと保証してくれました。


 番延命に伴う諸症状とは関係無く、良い薬飴だそうです。

 いえ、関係は有るのかな?

 痛みと熱は、体が変化する為に起こる症状ではあるから。

 ただ、専門薬というのは元々無いそうです。



 なぜそれ程詳しく聞いたかというと、高熱ではなくなったとはいえ、微熱が下がらずベッドの住人となっている私は、やる事も無くただぼうっと過ごすしかないので、色々な方がお話をしてくださったのです。


 正直に言います。

 あまりにも暇なので、来る人来る人を引き止め、色々とお話をしていただいたのです。


 魔人の先生は、恐ろしく美しく無表情なのに、1番お話をしてくださいました。

 最後に「とりあえず、体調が戻ったら、またすぐに延命剤を貰うと良いわ」と言っていたので意味が解らず首を傾げたら、先生はカリナン様を指差しました。

 真顔で冗談を言っていたようです。

 え?冗談ですよね?




 通常の番延命の倍の時間は掛かりましたが、私の体調は全快しました。

 カリナン様が「こんなに掛かるのか?」「本当に大丈夫なのか?」と、しきりに周りに聞き回ったらしく、他族の王様やその番様達まで様子を見に来てくださったのが申し訳無かったです。


 魔人の王のアレキサンダー様がカリナン様を見る、呆れたようで、どこか楽しそうな色を滲ませた視線に、少し感動したのは内緒です。

 番のサファイア様以外へは、いつも感情のこもらない冷静な視線を向けていたので、王としての義務的な関係なのかと密かに思っていたのです。


 勿論、他の王様達もカリナン様を本当に好きなのだと、見ていて判りました。

 どうやらカリナン様は皆様の弟的な立ち位置のようです。

 揶揄からかわれて、カリナン様がちょっと怒ったように拗ねて、でも最後には皆で笑っていて。

 その光景を見ながら、なぜか少し涙が出ました。




 しかし、ゆっくりまったりとした空気は、それから半年しか持ちませんでした。

 なぜなら、私が妊娠したからです。

 それからはもう、上を下への大騒ぎです。

 お医者さんは、あの発熱時の3倍は居ます。


「これで体が変わったか判りますね」

 人間の番延命専門医の方が笑顔で言いました。

 え?何で?

 余程私がキョトンと間抜けな顔をしていたのでしょう。先生は苦笑しながら説明してくださいました。


「人間族の妊娠期間は約10ヶ月。天人族は約1年なんですよ」

 そうなの!?

 生まれてくる子供の属性は関係無く、母親の属性により妊娠期間は違うのだそうです。

 魔人族は1番長く、2年も掛かるそうです。

 でもあまりお腹は大きくならないとか。

 1番みじかいのは竜人族で、理由は卵で産むから。

 卵から孵るまでの時間を入れたら、1年程らしいですが。



 私が人間のままだったら、もう子供は生まれているはずでした。

 お腹の中の子は、11ヶ月を過ぎた今も、元気に私のお腹を蹴っています。


 今日も私の大きなお腹をそっと撫でながら、カリナン様は我が子に話し掛けています。

「元気に生まれておいで、愛しい子。もう名前も決まっているよ」

 応えるように、お腹がグニュリと盛り上がります。

「教えてって言ってるみたい」

 私が笑いながら言うと、カリナン様もとても良い笑顔になります。


「生まれてきたら、真っ先に名前を呼んであげよう」


 まだ私にも子供の名前を教えてくれないカリナン様は、得意気な笑顔です。

 それを見て、とても幸せな気持ちになりました。




────────────────

もう1話あります(笑)

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