『桜の花が咲くと思う事』
小田舵木
『桜の花が咲くと思う事』
桜が舞い散る季節になると、私は切ない気持ちになる。
彼が自殺した時の事を思い出すからだ。
彼は
その知らせを受けた私は花見をしていて。
桜の樹の下で、酔い、浮かれていて。
その知らせとのコントラストが妙に心に残り。
未だに忘れられずに居る。
あれから
季節を重ねれば重ねるほど、彼の思い出は薄れていく。
まるで桜の花びらのように彼の思い出は散っていく。
別に親しかった訳ではない。
ただ、
むしろ仲が悪かった。
当時の私は若かった。跳ね返りのある若者だった。
それが彼の気に食わなかったのは明白だ。
思い切った喧嘩をした訳ではない。
ただ、冷戦のようにお互いを無視して。
同じ屋根の下、お互いに気まずく暮らしていたのを覚えている。
私は彼の事を何も知らなかったと言っても良い。
彼も私の事を何も知らなかったと言っても良い。
なのに。何故か忘れられない。
それは彼が亡くなる前に、向こうから和解を申し込んで来たからか?
…かも知れない。
「悪かった」彼は言い。
「別に良いですよ」と私は言ったはずなのだが。
その思い出さえ、定かでは無くなってきている。
なにせ10
当時の私は21。当時の彼は30代始め。
もうすぐ私は彼と同じ歳になるはずで。
もう少しマシな人生を送っているつもりだったが。
自らの弱さ故に職にあぶれており。
あの頃の
◆
桜は今年も咲き。
彼の死がまた1年遠のいていく。
私はその度に思い出しはするのだけど。
そろそろ怪しくなってきているのも事実だ。
だが。あの時の桜の花の色を思い出す。
そこにしっかり彼の思い出が結びついている。
淡いピンクの花弁が、彼の顔に結びついていて。
それを払いたくもあるのも事実だ。
何時までも彼の死に付き合う義理も無い。私にはその資格はないはずなのだ。
墓に弔いに行った訳でもなし。
それなのに。
君の思い出はしっかり桜の樹に
そこには君の姿がある…あくまで私の頭の中の君だけど。
君の苦悩を知らぬ顔して、無視し続けた私を君は
その当時は、君を理解する術はなかった。
…今もあるかは疑わしい。
今年も桜は咲き。
君の思い出もまた咲く。
何故、こうしてしか私達は結び付けられなかったのだろうか?
若気の至りだと笑えたら良いのだけど。
笑いかける君はこの世にはいないのだ。
今、私は桜の樹の下で。
君を静かに思い出してはいるが。
そんな資格はないのだ。
せめて安らかに眠れ、そう祈るしか私には出来ない。
◆
『桜の花が咲くと思う事』 小田舵木 @odakajiki
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