第14話 結論
メアリーは二週間を待たずして僅か十日で戻ってきた。
目立った怪我もなく、元気そうなのが何よりだ。
「ただ今帰りました!」
「おかえりなさいメアリーさん。……試験はどうでしたか?」
「エドガーさん……!」
彼女が満面の笑みで意気揚々と取り出したのは、煌びやかに輝く二枚の金貨だった。
「おめでとうございますメアリーさん!」
「……おめでとう……」
「ありがとうございます!」
「さあ、今日はご馳走にしましょう。すぐに用意するのでメアリーさんは休んでいてください。その金貨の話も後で沢山聞かせてくださいね」
「……グレイも、手伝う……」
「分かりました! 楽しみにしてます!」
グレイが一人で狩ってきた鹿肉。収穫したての畑で採れた生野菜。村で交換して手に入れたパン。これらを調理し机に並べていく。
言うなればこれは、狩りや農業、村人たちとの共同生活で手に入れた私たちの半年間の成果なのだ。
「──さて、これで最後です。ではメアリーさん、召し上がれ」
「……召し上がれ……」
「ありがとうございます! いただきます!」
家に広がる料理のいい匂い。それは幸せの、変わらぬ日々の証。
もぐもぐと頬張り恍惚の表情を浮かべるメアリーの姿を見ると、それだけでこちらもお腹が一杯になりそうな程だった。
「食べながらで、どうやってその金貨を稼いだのかお聞かせください」
「──はい! まず、街に向かう道中でワイルドボアを倒しました」
「ほう、メアリーさんも遂に一人であの大物を狩れるようになったのですね」
「えへへ、頑張りました……。それで、その皮と肉をそれぞれ街のお店に売りに行ったんです。だいたい金貨半分くらいの値がつきました!」
「それはまた随分よい滑り出しでしたね」
魔法も使えず、獣人のように強力な体もないただの少女が、生身で挑んで勝てるようになったというのは、文字通り血も滲む努力があったことは言うまでもない。
「そしてそれから冒険者ギルドでいくつかまとめて仕事を受けました」
「どんな依頼ですか?」
「主に採集クエストです! この時期は収穫の季節ですからね。普通の人は行けない少し危険な場所にまで行って貴重な薬草を集めたりしました!」
この季節に試験を行った理由の一つがそれだ。冬よりは圧倒的に依頼の難易度が下がり、その数も多くなる。
「それと宿を取るとお金がかかるので野宿で節約しました。街の方の森はこっちとは違う野草とかがあって楽しかったです!」
「そうですか。それでこんなに早くお金を集められたのですね」
冒険者は旅をするのが基本だ。野営技術がなければ生きていけない。
「はい! そして短期間に沢山依頼をこなしていたので、どうやら私のことが冒険者ギルドの中で話題になってたみたいです。最終日はある冒険者チームの方に声をかけて頂き、ゴブリンの討伐クエストについていきました」
「討伐クエストは危険な分報酬も高いですからね」
「まあ私は戦闘ではなく荷物持ちとサバイバル知識を生かしたスカウト要員でしたけどね」
「それでもそうしたチームの中で危険な戦闘任務で成功を収めたというのは良い経験でしたね」
「今後の縁を祈ってと報酬に色をつけくれて、とても良い人たちでした!」
楽しそうに話すメアリーを見ると、その冒険者たちが互いに信頼しあった良いチームであることが伺える。
そしてそうした人との出会いというのはメアリーを成長させるいい機会になっただろう。ここ以外に居場所を見つけるという意味でも……。
「──それではメアリーさん、これからどうしますか?」
「…………」
「この試験を一区切りとしてその冒険者チームに所属したり、またはギルドに登録してソロチームとして働いていくこともできます。メアリーさんがそうしたいなら、最後にできるだけの応援をしますよ」
私は努めて明るい口調でそう言った。彼女の幸せを願うならより輝ける広い舞台に送り出すべきだろう。
しかし半年以上共に暮らしてしまったら、惜別の想いが強すぎて、私は笑顔を取り繕うこともできなかった。私は子どもをもうけたことなどないが、きっと子の独り立ちを見送る親の気持ちとはこうなのだろう。
グレイも何か言いたげな表情をしているが、上手く言語化できず目を細め悲しそうに俯くだけだ。
「……エドガーさん。エドガーさんのおかげで、私はもう一人で生きていけます」
「──! ……そう、……ですよね……」
「だからきっとこれからはもっとエドガーさんのお役に立てると思います!」
「──それは……!」
「あのねエドガーさん。私、この村の人たちが大好きなんです。もちろんグレイちゃんも、……そしてエドガーさんも……」
「メアリーさん……」
「だからとりあえず今はずっとここに居たいと思ってます。……ご迷惑でしたか?」
「前にも言いましたが、そんなことありませんよ。メアリーさん、これからもよろしくお願いしますね」
「……よろしく……」
「はい!」
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