- 第 22 話 - EXモルニア

 モルニアに開いた穴には、足場が組まれ、リズムよくトンカンと金づちを叩く音が響いていた。


「わたしにも感謝してよね。あんたたちは、ホント、鳥づかいが荒いんだから」

「おれは何もしてないだろ」とメェダスは言った。

 カナリアは印刷された地図の束を持って、ぷかぷかと浮いている。


 町が崩落してすぐのことだった。


 メルカは地図をカナリアに持たせて、ぐるりと町のあったところを一周させた。

 被害状況の確認のついでにお願い、とメルカは言っていたが、実際は、地図のついでに被害状況の確認と言ったほうが正しいかもしれない。


 たったそれだけのことだった。


 歩いて探索することも、土地の記憶を読み取ることもなく、たったそれだけのことで、消えた町の地図があらわになった。


 ただ、カナリアに本を預けているあいだ、メルカはその場を行ったり来たりし、小声でぶつぶつと何かを唱えていて、落ち着かない様子だった。


「あんたも一枚いる?」

 カナリアはメェダスにも地図を一枚、手渡してきた。


 町に来た人にカナリアは地図を配っている。地図チズと言葉にすると、カナリアの存在に気づく人が多いそうだ。

 

 アリの巣のように町の地下まで張り巡らされていた坑道は、町の下敷きになり、ほとんどが埋もれてしまった。


 しかし、穴でむき出しになった断面には、きらきらと光るモルグ鉱石の結晶が散見された。

 地図にもその場所が記してあった。


「これはどういう意味なんだ?」


 印刷された地図の端にEXと書いてあった。


 メェダスの記憶ではその言葉は絶滅Extinctを意味していたが、町は、ふたたび、少しずつ炭鉱の町に戻りつつある。


「それはね」とメルカが教えてくれた。「存在の証明Existenceが終わったってこと」


 たしかに町は存在していた。みんなの記憶から薄れてしまっても、そこにはひとつの世界があった。


「そろそろ次の町に行こうと思うんだけど、カナリアも一緒に来る?」

「せっかく自由になったんだし、今度こそ好きに生きるわ」

 と、カナリア言った。


 その後ろで、エリナが大声でカナリアを探していた。


 カナリアは「しょうがないわね」と悪態をつきつつも、ふわふわと声のもとへと飛んで行った。


「次はどこの町に行くんだ?」とメェダスはたずねる。

「次に行くのはこの町ね」


 メルカは本を開いて、メェダスにそのページを見せた。


 そこには――何も書かれていない地図があった。


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絶滅区域<EX>のカナリア オオツキ ナツキ @otsuki_live

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