3回目 ダメ押しのもう1回
(あれ?俺って死んだんじゃ)
再び、意識が戻った事に俺は驚いた。
だが、何故だろうか。体の違和感が凄い。
その時、突然声が聞こえてきた。
「どうだ!私が長い年月を費やして作り上げた無敵の軍団だ!恐れ慄くが良い!!」
偉そうな女の人の声だ。
(ああいう偉そうな人、好きじゃないんだよな。)
「おのれ魔王め!!なんと卑劣な!!」
かっこいい声がする。顔を上げると、軽装に身を包んだイケメンが、光輝く剣を手にしている。
その姿はまさに勇者だった。
勇者の隣には杖を持った魔法使いらしき女の人と、双剣を握った白髪の若い女性の姿もあった。
だが、そんな事よりも俺が気になったのは、俺の周りにうようよといる数え切れないほどのアンデッドだった。
「うー、うー。」
呻き声を上げながら、気持ちの悪い動きをしている姿はゾンビそのものだった。
「このアンデッド軍団を見ても恐れぬか!さすが勇者だ。だが強がっていられるのも今のうちだ。かかれ!!」
魔王の号令と共に、ゾンビ達が一斉に歩き出した。
(うげぇ。気持ち悪い。)
不快な気分の俺だったが、ふとゾンビが俺に襲い掛かってこない事が気になった。
(あ、あれ?)
俺の足が勝手に動く。まるで俺の意図しない力が働いているように。
(いったい、何なんだよ!!)
「うー、うー。」
声を出そうとした俺の口から出たのは、気味の悪いうめき声だった。
(マジか……。)
考えてもみれば俺はこの異世界で死んだのだから、蘇生でなければ蘇る方法はもう一つだろう。
そう、アンデッドとして、俺は蘇ったのだ。
最悪の気分だ。おそらく俺も周りの動き回る死体と同じ様な容貌なのだろう。
俺は魔王の力に導かれるまま、勇者達の元へとゆっくりと歩いていく。
(悪く思わないでくれ、勇者達。俺には逆らう術がないんだ。)
「うー、うー。」
この上なく惨めな気分だ。まさか魔王の作った何百人ものアンデッド軍団の一人として、異世界で生きることになるとは。
そもそもこの状態では生きていると言っていいのかすら、定かでは無い。
俺が有象無象のゾンビ兵の一人として、懸命に戦う勇者パーティーに近づいた時だった。
(ん?まさかな。)
一瞬俺は目を疑った。
しかし、見れば見る程、疑念は確信に変わっていく。
勇者の隣にいる白髪の双剣を握った人物に、見覚えがあったのだ。
そもそも、異世界に来て初日に死んだ俺が知っている異世界人なんて限られている。それに一人は俺より先に死んだから、俺が死んだ時にまだ生きていた知人は三人だけだ。
(あいつ、勇者パーティーに入っていたのか。)
少し成長しているし、髪も短くなっているが、間違いない。
あの白髪とエメラルドの瞳。
(サキだ。)
この世界で俺を殺した人物。
今は真剣な表情で熱心にゾンビ達相手に戦っている。あの時の儚げな表情は見る影も無い。戦闘の最中だというのもあるだろうが、きっとそれだけでは無い。
(いい仲間に恵まれたんだな。)
少しだけ、嬉しかった。
とはいえ、俺にとっては自分の仇だ。
俺は進行方向をサキに変える。
魔王の支配下にあっても、多少の自由はあるようだった。
俺がサキに近づくと、彼女は一片の迷いも無く、俺を斬った。
しかし、今の俺はアンデッドだ。体を引き裂かれる感覚はあっても、痛みは感じない。それに、一度斬られたくらいでは簡単には倒れない。
とはいえ、ゾンビ一人一人の力は勇者達に比べたら、圧倒的に弱い。
「うー、うー。」
俺は周りの同胞達と共に襲いかかる。
「ユウキ!!こいつらきりが無いよ!」
サキはゾンビ達を切り刻みながら言う。
凛とした声だ。俺にとってはついさっきぶりだが、一度死を挟んでいるからか懐かしく感じた。
「分かってる。俺の聖剣とメルの魔法で一気に浄化する。」
勇者と魔法使いは大規模な魔法を詠唱し始めた。
「オーケー。」
勇者達が魔法を唱えている間、サキは一手に敵を引き受け、周囲一帯のゾンビ達を蹴散らしていく。
「うー。」
俺もサキの剣をもう一度受けて、呻き声を上げた。
そして、勇者は光輝く剣を振り下ろした。
次の瞬間、周囲一帯は眩い光に包まれる。
温かい優しい光が俺達ゾンビを包み込んだ。まるで全てを洗い流してくれるような、懐の深い浄化の光。
(今度こそ、本当に終わりだ。)
現実世界で死んでから、生きている時間で換算したら一日も経っていない。
しかし、人生の最後に異世界で過ごすという夢を見る事ができたと考えれば、案外悪くないかもしれない
それにしては、儚く悲惨だった気もするが……。
俺は浄化の光に包まれながら、消えていく。
最後の瞬間、俺の顔を見たサキが、驚いたように目を見開いた気がした。
それを見て、俺は少しだけ嬉しくなる。
(なんだ。覚えてたんだ。)
俺は最後に彼女に笑いかけ、完全に消滅した。
異世界で生きるのって難しい U0 @uena0
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