第17話

線香を上げ終え俺は手持無沙汰になりどうするか迷っていた。というか今日朝比奈さんの家に来ると決まった時点で自分のプランは崩れたので困っていた。それはいつ告白をするのかという問題だった。学校で告白をするつもりだったためにタイミングは元より決めていために、今この状況だといつすればいいかよくわからない。晩御飯の前?それとも食べた後?晩御飯を作っているのは朝比奈さんだ。作ってくれている手を止めるのは申し訳ない。しかし食べた後だとそれまで何をすればいいか分からないし、人の家のためくつろぐことを憚られる。

何をするか迷っていると朝比奈さんが声を掛けてきた。


「お料理ができるまでは寛いで貰って構いませんよ?自分の家と思ってください。」


「そうは言っても・・・俺も料理の手伝いするよ。」


「駄目です。今日だけは私に任せてください。湊君は大切なお客さんなんですから。」


「え~、じゃあ期末の対策しとくよ・・・」


「お!関心ですね!まさかあの湊君が何も言われずとも自ら勉強をするとは・・・」


朝比奈さんがからかうように言ってきた。


「ね。俺自身信じられない変化だよ。まさかこの一か月でここまで変わるとは思わなかったよ。」


本当に信じられない変化だ。過去の自分に言っても信じないだろう。

しかしそれは、今目の前にいる人のためだ。きっと過去の自分も同じような事をしていただろう。

朝比奈さんは料理に戻るためにキッチンに戻ったため、俺はさっき言った通りリビングの机に教科書を開き、授業の復習を始めることにした。今まで教科書を持って帰るなんてことはしていなかったが、テスト勉強を始めてからはすっかりと習慣になった。

彼女と関わり始めてからは全てがいいことに向かっている。


「よし!湊君!ご飯ができました。どうぞ食べてください!」


勉強を始めてから一時間ほどが経ったころ、朝比奈さんがうきうきでキッチンから料理を持って出てきた。既にダイニングテーブルにはハンバーグや、色とりどりの野菜、鮭のムニエルに、白米、味噌汁などが乗っていた。


「すげー、めっちゃおいしそう。ありがとうね料理を運ぶ事もさせちゃって。」


「いえいえ、私は湊君に食べていただけるだけで幸せなので大丈夫ですよ。それじゃあ食べましょうか。」


「それじゃあ、頂きます。」


「はいどうぞ」


やはり彼女の料理は美味しく、ハンバーグも、ムニエルも、味噌汁も全てが俺好みの味になっていた。この料理なら本当に毎日食べたい。普段は食事という行為が面倒で食べないというときもあるほどだが、この料理なら楽しみは何かと聞かれたときに食事と答えることになるだろう。


「やっぱり美味しい!朝比奈さんってなんでも作れるの?」


「んー多分作れると思いますよ。外国の知らない料理だったり、あまりに時間が掛かったりするものじゃなければ大丈夫だと思います。なので湊君がリクエストしてくれれば作りますよ?もし私が作ったことないものでも、絶対に食べさせてあげるのでなんでも言ってください。」


口許に人差し指をたてて、微笑みながら彼女はそういった。それはまるで将来そうなると決めているような言い方だった。

そうか・・・彼女はもうそこまで考えているのか。それなら俺もそれに答えることにするか。


「朝比奈さん・・・今言ってもいいかな?」


「えっと・・・今ですか?」


「うん・・・言いたいことが整理ついたからさ、今言わないときっと言えなくなっちゃう」


「分かりました・・・。どうぞ。」


俺と彼女は箸をおいて、顔を見合わせた。

心臓が早くなっていくのが分かる。顔が熱い。口を開いても声が出ない。

その時、朝比奈さんが俺の手を握ってくれた。


「大丈夫です。ゆっくりでいいので聞かせてください・・・」


「ごめんね・・・いつも助けて貰って・・・」


「私も湊君に助けて貰ってばかりですよ?初めても貰ってばかりなので私は湊君に感謝をしているんです。」


「そんなことないよ・・・俺は朝比奈さんの事が好きで、朝比奈さんの事を守ることができるような人間になりたいんだ。なのに・・・」


「私はもう既に何回も湊君に守られていますよ?それに私はどんな湊君でも受け入れる準備はできています。」


「いいの?こんな俺でも?俺は翼みたいにかっこよくもないし、桃みたいに気遣いもできないし、朝比奈さんみたいに勉強ができるわけでもない。朝比奈さんの隣で胸をはって歩けるような人間ではないことは自分では分かっているんだ。」


そう。自分は大した人間ではない。

人並み以上に努力をしないと人並みに離れない。

どんなに頑張ってもどこかが抜け落ちて失敗してしまうことが多くあった。そんな人間だ。

でも・・・


「でも俺は頑張るよ。朝比奈さんの隣に一生いられるように、朝比奈さんが胸をはって誰かに自慢できるような、そんな男に俺はなるよ。だから付き合ってください」


「はい!喜んで」


彼女の顔を見ると、頬に涙が垂れていた。しかし笑顔だった。その笑顔は向日葵のように明るく、俺を明るく照らしてくれた。


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恋愛下手な君と僕   更新お休み中 羽根とき @goma1125

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