ニコラの好きな人
暫く家の前で呆けていたニコラだが、玄関の開く音に我に帰った。
「おかえり、にーちゃん」
「た…だいま、スピカ」
「うん!あのねえ、お手紙きてるよ」
スピカの頭を撫でながら帰宅。手紙…誰だろう、と思いながら受け取ると。
「!ルーファス様…!」
目が覚めてすぐに、手紙を送っておいた返事だろうか。ウキウキしながら自室に入り、深呼吸からの開封。
『ニコラへ
目が覚めたとの報、とても喜ばしく思います。貴女を失ったあの日から、私は色の無い世界に放り出された心境でした。私にとって貴女は、安らぎだけでなく彩りも与えてくれる存在だったのですね。
どこかで生きている…という希望だけを頼りに、これまで歩んできました。母君のことは本当に残念でした。深く冥福を祈り申し上げます。
これからは、私が貴女を守ります。貴女の人生における全ての困難、苦痛、煩わしさを排除しましょう』
「あなたは…なんでそこまで…」
読み進めながら、胸が高鳴るのを感じる。
ルーファスは昔から、幼いニコラを慈しんでくれた。ニコラもまた、ルーファスを愛している。貴族でなくなっても、捨てないでいてくれるのならば。
きっと、この人となら幸せに…
だけど…
「…わたしは、ルーファス様のことが好きだけど。どうして彼は…わたしなんかを…?」
ずっと疑問に思っていた。
ルーファスは現在ツェンレイの中でも、最高クラスの家格の当主だ。対してニコラは、家の歴史は古いがカンリルでも下級貴族に該当する。
例えるなら、平民と貴族が結婚するレベルの夢物語な婚約だった。
「ルーファス様は…婚約者もいなかったけど、申し込みは多かったはず。なんでその中で、他国の下級貴族の子供を選んだんだろう…
ま…まさか」
ニコラが思いつく可能性は2つ。
ルーファスには結ばれることの許されない想い人がいて…ニコラとの婚約は都合のいいカモフラージュのため。
それは大嫌いな父親と同じ行為。大好きな彼は…そんなんじゃない、と信じたい…
では、もう1つの可能性。
「ル…ルーファス様は、ロリコン…!?」
自分で仮定しておいて、その場に崩れ落ちる。
そんな…まさか。では、もう16歳…そろそろ17歳になる自分は、アウトなのでは…!?
「……いや、まさか…ね…?」
そうでないことを願いながら、続きに目を通す。
『トルネリでは少々問題が起きていましたが、全て解決しました。
なので今度こそ、貴女に会いに行きます。この手紙を出す翌日には、ツェンレイを出発しているはずです』
「えっ!?」
『成長した貴女にお会いできる日を、心待ちにしています。私はニコラと共に帰国し、婚姻を交わしたいと願っていますが。
もしも貴女の心が、別の誰かに傾いているのであれば…尊重したい』
「……そんな人、いない…よ…」
そう呟く表情は、苦しげで見ているだけで悲しくなってしまう。本人は全く気付いていないのだろうけど。
『まあ尊重するとは言っても、認めるかは別問題ですが。
それでは再会まで、少々お待ちください。
ルーファス』
「え…えらいこっちゃ…!ルーファス様に会える!はわわ、おめかししないと…そうだ!」
バッターン!とクローゼットを全開にする。そこには…ロットに買ってもらった、水色のドレスがある。
あれから少し痩せたけれど、身長は大して伸びていないので着れるはず。アクセサリーも、靴もある!ありがとう3人共!と貰った時以上に感謝した。
「さーて、これでルーファス様との再会は完璧だ!たくさんお話ししたいな〜。
じゃあ次、ゼラくんとのデート服…」
ドレス以外には、シンプルなものしかない。しかもほぼ男物。
「前一緒にお出掛けした時の…いやそれは微妙。
ゼラくんは多分、セクシー系が好きそう。そんなの、買わないと無いし…」
仕方ない、明日にでも買いに行くかあ。そう考えて。
まだ次の仕事も決まっていない…この時期に。服に無駄にお金を使うなんて、らしくない。もしかして浮かれてる?と自分で驚いた。
「…デート。わたし…楽しみにしてるんだ…
い…いやいやいや。ゼラくんのことだ、デート中も美人のお姉さんとかにデレ〜っとするはず!んもう、こんな小娘を揶揄って!」
好き なんて言葉は信用してないけど。
さっきからずっと…ゼラの顔が頭に浮かぶ。笑顔や、剣を振るう横顔や、真剣な表情や…
今日の帰り際に見せた、ちょっと照れたように頬を染めた姿。あれは初めて見る顔だった。
「……いやいや…」
そうだ…デートなんて言うから変なんだ。
ただのお出掛け、そう思えばいい。実はまたゼラにやってもらいたい大食いチャレンジも見つけてある。
ただ年頃の男女が、一緒に遊ぶだけ。
これは断じてデートでは、ない!!と言い聞かせる…臆病なニコラだった。
追放された悪女の娘は異国で溺愛される 雨野 @nahasyu
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