善意すぎる親友が心配でついていったら影ボスと呼ばれるアイツに何故か俺が捕まった〜俺を餌付けしても懐くと思うなよ! 花月夜れんver
花月夜れん
第1話
お、あれだ! ターゲット発見。これより接触を開始する。
俺は任されていないから、横でそんな感じで彼女を見た。
「これ、読んでもらえませんか?」
「…………」
そんな古風な手紙を無言で受け取ったのはなんと驚き、俺のバイト先の先輩。三年の
彼女は手紙を受け取ったはいいがムスッとしていた。俺と仕事が同日の時の顔だ。
これはついてこなければよかったか?
普段はクール美人なまなつ先輩。俺と組むと怒り顔になるのでボスに言って、出来るだけ同日にならないようにしてもらっている。
よくわからないが俺が原因であることは確かだった。
「これ、持って帰ってもらえますか?」
「え、あ、……読んでもらえませんか?」
狼狽える賢治をまなつ先輩は上目遣いで睨みつけた。
「直接言いにくる度胸がない人の事考える暇なんてないの。それに私、好きな人いるの。その人に私だって――」
ムッと口を閉じ、まなつ先輩は手紙を賢治に押し付けた。
「受け取れない。それじゃあ」
そのまま去っていく彼女を俺達は見送るしか出来なかった。
「オレが余計な事したせいだ」
うなだれる賢治の肩を叩き、俺は慰める。
「いーや、賢治はわるくないぞ。お前が運んでやらなきゃ、あの手紙はいつまでだって眠ってたんだ。今度は直接行ってこいって伝えてやればいいだろ」
「……そっか、そうだね。ありがとう智也」
いやいや、こちらもいい勉強になった。どうせ、告白するならやっぱり直接がいいよな。
それにしてもあのまなつ先輩に好きな人がいるのか。
バイト先ではいつもきっちりして、俺は怒ってる顔しか見た事ないけど、笑顔がステキだって言うヤツもいるくらい良い先輩だ。
あれだけ言い切ったんだ。近々告白して恋人どうしになるんだろうな。その時、バイトはやめるのかな、続けるのかな。
彼女がバイトから抜けるとかなりの痛手だろう。なんせ影のボスだからなぁ……。
まあ、俺には関係ないか。
「智也、今日もバイトだよね」
「っ!? そうだった。俺行くわ。最後まで付き合えなくてすまんな」
「ありがとう、あとはオレ一人で伝えておくよ」
賢治と別れ俺は急ぎ足でバイト先に向かった。
さっき顔を見せたばかりで微妙な雰囲気になりそうだがまなつ先輩とはシフトが違うから大丈夫だろう。そう思っていたんだが――――。
◇
怒った顔の彼女が制服とエプロンをつけレジを打っていた。
「あれ、まなつ先輩?」
「片桐君、おはようございます。今日は木崎さんがお休みで私が入ることになりました。よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ヤバい。久しぶりの同日シフトで、今日のあれだろ。どう対応すりゃいいんだ。相変わらずの怒った顔だし……。
「あの、俺が外出るんで、まなつ先輩は……」
「何か問題ある?」
「いえ、ナニモナイデス」
俺はこれ以上彼女の怒りメーターをあげないように出来るだけ離れて仕事をした。ファミレスなのでどうしても待機場所や料理受け取りで顔は合わせてしまうけれど……。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
無事終わった。良かった。これで明日からはまた別々のシフトに……。
「片桐君、これ」
「え、なんスか」
まなつ先輩がチョコをくれた。いや、なんでチョコ?
「今度のフェアでチョコのが始まるの。味の感想教えて」
「今っスか?」
甘いものは好きだった。メニューのパフェやらデザートはいつもうまそうだなぁとは思っていたけれど。
包みをあけ、パクっと口に放りこむ。ほろ苦いの後、ふわっとチョコの甘さが口いっぱい広がった。
「これ、甘くて俺は好きですよ」
そう伝えると、先輩は怒った顔のまま頬を赤くしていた。言い方まずかったか? もしかして、もっと怒らせた?
「……そう。また味見お願いするかも」
「え?」
くるりと踵を返す先輩はそのまま店の方へと戻っていった。
「なんだったんだ?」
俺は自転車の鍵を外し、家に帰った。
◇
それから――、
「片桐君!」
「片桐君、ちょっと」
「片桐君、10番お願い!」
何故か怒涛のまなつ先輩と同日シフトが続いた。何故だ、シフトは店長にお願いしていたはずなのにっ。
まなつ先輩、怒った顔ばかりで気まずいが限界突破しそうだった。俺やめたほうがいいのか?
だがしかし、もうすぐ発売のゲームとゲームとゲームを買う為に俺はバイトを続けたい。
意地悪なんかはされてなくて、むしろすげーまなつ先輩はフォローが上手くて仕事しやすいんだ。怒った顔だけが問題で。しかもなんか毎回チョコやクッキーやお菓子をくれる。フェアメニューになってないようなものまで……。
俺、餌付けされてる?
あれか……。
手紙事件の口止め料か。
あれから賢治は友達と喧嘩したらしい。凹んでいた。
断るのが悪い訳じゃないけれど読む事もしなかったまなつ先輩に少しの怒りがあった。
読んでいれば、また違っていたかもしれないのにと。
……口止めということはこの職場にまなつ先輩の好きな人がいるという事か。
そんなので俺の親友を困らせた事を許すつもりはないぞ。
見届けてやる。偉そうに言ってた直接告白ってやつをよぉ!!
「片桐君、何?」
「え、いや。今日こそかなっとちょっと観察を――」
「え、何が?」
「いえ、何でもないです」
「……? それよりコレ、また味見してもらっていい?」
まなつ先輩は俺にだけ向ける怒り顔でそう言った。
善意すぎる親友が心配でついていったら影ボスと呼ばれるアイツに何故か俺が捕まった〜俺を餌付けしても懐くと思うなよ! 花月夜れんver 花月夜れん @kumizurenka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます