第1話 幼き日
僕は大きな音の後、燃え盛る近隣住宅と崩れゆく自宅の下敷きになりながら、自分を守るように覆いかぶさった母親と父親の体温が消えていく感じがして、怖くて泣いていた。
その当時まだ生まれて数ヶ月くらいだったけど、僕はなんだかその耐えられぬ恐怖を覚えている。
大きな音と何語かわからない悲鳴が聞こえる。
そして、しん……となる僕の周り。
母親と父親の体温は完全に消えていた。
両親に覆いかぶさられているから、真っ暗ななか、泣きじゃくる僕。
不意に、穏やかそうな大和撫子の声が聞こえる。
そして、ゆっくりと瓦礫と両親が退けられた。
「……ごめんね、でも、貴方だけでも助かって良かった」
当時、世界は人造人間ーモルモットーを使って戦争をしていた。
その僕を抱き上げた頬に返り血のある"彼女"も人造人間だと僕が気づいたのは数年先の話だけど、僕はしっかり、禍々しく、でも綺麗な真っ赤な羽根が彼女の背中にあるのを記憶していた。
僕は日本の人造人間、"被検体X"、ー通称ひばりーに抱き抱えられ、日本政府のある施設に連れていかれた。
死んだらしい両親と近隣住民の埋葬は、しっかり日本政府の埋葬係がしてくれたと、数年後に聞いた。
ある施設に着くと、ひばりを、片眼鏡の痩せた中年男性が迎え、抱えられている僕を覗きこむ。
「その赤ん坊は?」
「唯一の生存者です、博士。可哀想に、火炎のモルモットに近隣住宅は焼かれてて、両親は銃のモルモットに何発か。両親は必死にこの子を守ろうと覆いかぶさってました」
「……そうか、間に合わなかったか」
「……はい、申し訳ないです。私がもう少し早く駆けつけたら……」
ひばりに"博士"と呼ばれた中年男性は、遊馬博士と言う。
ひばりを作り上げた天才マッドサイエンティストで、世界大戦でひばりの活躍により日本が優位になるなか、英雄扱いする国民もいるほどの人物だ。
もちろん、ひばり自身を英雄視する国民もいるし、中には「女神様!!」と崇める国民もいるようだ。
しかし、自身の血を操って武器を作ったり防御をしたりして、他国の人造人間を殲滅するひばりだが、ひばりが戦う前に命を奪われる、僕の両親みたいな国民もいて、僕の記憶のうちでは、それに胸を痛めているひばりの姿もある。
「まあ、それは仕方ないさ。この子だけでも儲けもんじゃあないか。どれ。女の子かな?男の子かな?」
「あ!? 博士!!」
ひばりの胸で安心してすやすや眠っていた僕を博士は無理やり奪い、無茶な抱き方で、僕のおしめを剥ぎ取る。
僕は訳が分からず泣き叫んだ。
僕は女の子にはないそれが付いていて、博士はふふふ、と意味深に笑うし、ひばりは顔をほのかに赤くして僕を博士から取り上げた。
ひばりの胸の中は安心した。
「男か! よし、A汰と名付けよう!」
「博士!! もしかして人体実験に使うんじゃないでしょうね!?」
今の人造人間は完全に試験管から生まれた生命体だが、初めは非人道的な人体実験により作っていたらしい。
「え? 実験係は猫の手も借りたいくらいだから此処で英才教育していい人材作りたいだけだが」
ひばりは少しホッとしたようだった。
「ちなみに漢字は私が決めるからね」
「ああ、好きにしなさい!」
そして、僕は両親の死亡で本名が不明なため、A汰、通り名(通称)を瑛汰と名付けられた。
しかし、マッドサイエンティストは抜かりない。
あらゆる検査を赤ん坊の僕にしていた。
「でかしたぞ! A汰!!」
「博士!! 変な抱き方しないで!! まだ首が座ってすぐなのよ?!」
僕の血は、ひばりの能力を高めたり、怪我を治療したりできる特殊なものだったらしい。
終戦が間近だったこの年。
ひばりは博士から取り上げた僕を見つめて微笑んだ。
「瑛汰、これから死が二人を分かつまで、私のそばにいてね。………………ごめんね」
赤ん坊だったから「ごめんね」の意味も何も分からなかったが、僕はひばりに向かって手を伸ばし、無邪気に笑った。
.
最強アイアンメイデン~僕の愛した女性は世界最凶の人造人間~ 三途ノ川 黒 @jakou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強アイアンメイデン~僕の愛した女性は世界最凶の人造人間~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます