第2部 7話
煌羅の自室。煌羅は先ほどあったとこを思い出していた。初めてみた奏雨のあの表情、そして泣き出したパン屋の店員さん。二人は元々知り合いだったのか?帰り道はそんなことを聞ける雰囲気ではなく押し黙ったまま帰路に着いた。
聞くのは気まずいけど‥。よし。煌羅はスマホを手に取りLINEを開く。一番上に位置する名前をタップする。
『よう、奏雨。大丈夫か?』
短い文章。とりあえず最初からは踏み込んで聞かない。すぐに返信が届く。
『大丈夫。さっきはごめん。』
『気にすんな。俺が無理やり連れってたんだし。こっちこそごめん。』
『いいよ。煌羅のせいじゃない。僕が悪いんだよ。』
『言いたくなかったら答えなくていいんだけどさ、あの店員さんと奏雨って知り合いなの?』
なんて書いたらいいのか迷って結局この文章を書いた。もっと言い方はあったと思うけど俺にはこれが限界だった。少し時間をおいてから奏雨から返信が届く。
『いや、僕はあのお店に行くこと自体は初めてで、あの女の人と実際に会うのは初めてだと思う。』
ん?なんか引っかかる言い方だと思った。何がおかしいのかすぐには分からなかった。返答を考えていると続けて奏雨からさらにLINEが届く。
『あくまでも現実世界ではという話なんだけどね。なんて言うかさ、あの女の人と僕、どこかで会ってるような気がするんだよ。いつ、どこでとかは全く覚えていなんだけど。』
こいつ何言ってんだ。じゃあゲームとかテレビで見たことがあるって言うのか?あのお姉さんは綺麗だったけど芸能人ってほどでもないし、少なくとも俺の知っている範囲ではあの店は地域のテレビに取り上げられたことすらないはずだ。でも奏雨があの店を知っていたと考えにくい。だとしたら、あいつはどうやってあのお姉さんと知り合ったんだ。
『昔から知ってるのか?』
『ううん、知らない。でもあの人は知ってるんだ。それとあまり会わない方がいいってこともね。』
『なんだそれ。まるで夢の中の話みたいだな。会わない方がいいってのはあんまり聞かないけど。』
『そうだね、夢だったのかもしれない。』
『そんなわけないだろ。忘れてるだけだよ。でも大丈夫そうで何よりだ。じゃ、また明日な。』
『うん、じゃあね。』
奏雨はため息をつきながらスマホを枕元に置く。自室のベッドの上。やっぱりおかしかったよな、僕のあの時の反応。先ほどのパン屋での出来事が思い出される。なぜだが説明はできないけれどあの女性のことを知っているのは確かだ。そしてなぜだかあの人には会っていけないと強く思った。だから話すことすらせずにあの店を出た。ただ店を出る時にチラリと見えた彼女の泣き顔。悪いことをさせちゃったな。
いつもの夢を見た。話しかけてくれる人の顔はやはり見えなかった。話しかける内容はいつも同じで、「大丈夫」とか「心配しないで」なんだけど今日は少し違っていた。
『君のことはよく知っているし、君も私のことを知ってる。でもね、私たちは本来出会ってはいけない存在同士なの。だから、ごめんね。』
ハッと目が覚める。電灯がついた自室のベッドの上。煌羅からのLINEを返信してそのまま寝落ちしていたらしい。ふと自分の瞳から涙が溢れていることに気づく。服の袖で拭うと起き上がる。あの女の人だ。今日会ったパン屋の店員さんだ。顔も見えなかったし、店員さんの声すらあまり覚えていない。でも確信があった。僕はあの人を知っている、そしてあの人も僕を知っているんだ。
サイカイ〜君と再び会うことができたら〜 霧雨カノン @odasaku0605bsd
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