11月第5週/12月第1週 剪定と選定

『ラ キャピターナ カルメネール

 2021

 ヴィーニャ ラ ローサ』


 19世紀前半にオッサ家によってチリのペウモ谷に設立されたワイナリー、ペウモ谷は首都サンティアゴからやや南に位置する。

 ちなみに、オッサで検索してみるとオッサンが大半を占めるが気にしないでおこう。


 チリ産では珍しい100%自社畑で行っており、その広さは600ヘクタール、イチローの出身地である愛知県豊山町とほぼ同じ面積という脅威さである。

 フィロキセラという厄介なブドウの天敵がいないため、樹齢100年を超える古木も珍しくないという畑でもあったりする。


 では、実際に開けてみよう。


 うむ。

 あまりの寒さでキンキンに冷えていて何の香りも感じない。

 ストーブを点けて部屋を暖めて待とう。 


 室温が上がってきたところでもう一度、それでもまだ冷たすぎる。

 グラスを手で覆って体温でも暖めてみる。


 こうしてようやく香りと味が開いてきた。

 渋みは控えめで、よく熟したプラムのようなギュギュッと濃縮した果実味が良きかな、である。


『お好み焼き』


 またも在庫処理をしようと小麦を大量消費するためにお好み焼きだ。

 と思っていたら、実は以前にもお好み焼きをやっていたようだ。

 だが、こんなこともあるさ、と気にせずに料理を続行した。


 味の素のレシピを参考にしたが、在庫処分の関係で色々と代用品を使いまくった。


 長いもの代わりに、似たようなジャガイモでんぷんなので、使う機会の少ない片栗粉をバサッと入れる。

 揚げ玉の代わりに、前回の賞味期限切れのパン粉を振りかける。


 こうして出来上がったのが、今回のお好み焼きだ。


 さて、肝心の味の方である。


 ふむ、まあ悪くはない。

 レシピ通りならば、ふわふわに仕上がったらしいが、片栗粉のせいかもっちりとした重量感がある。

 揚げ玉ならば、おそらくサクサク感はあっただろうが、存在感のないパン粉であった。

 味の方は普通に豚玉で、お好み焼きソースとマヨネーズでうまくごませていた。


 では、ワインと合わせてみよう。


 ぬ?


 こいつはどうも微妙だ。

 飲み食いができないほどではないが、良くはない。

 

 どうもお好み焼きソースの甘さによって、ワインの持つ大事な果実の甘味がかき消されてしまっている。

 ワインの味わいがどこか筋張っているような気がする。

 

 そう思い、以前の話を読んでみると、何と同じようなことをしているではないか!


 同じ失敗を繰り返す、これが思いつきで即行動する猪突猛進型のこの阿呆であるようだった。


☆☆☆


 白き闇が徐々に下界に迫ってきている。

 雪が降る日が徐々に増え始め、日が差す時間が短くなってきた。

 白一色に染まる闇に閉ざされた世界、雪国の冬の到来なのだろうか。


 早い。

 あまりにも早すぎる。


 長々と続いた酷暑が嘘のように、想定外の早さで冬がやってきてしまったようだ。

 

 この週は、天気が一気に崩れ雨が降り続いた。

 さらには、量はまだ少ないがついに雪が昼間に降るようになった。


 こうなってしまっては、畑作りは一旦休止しなければならない。

 土は水分を大量に含み、下手に踏み込んでしまっては悪影響ばかりなのだ。


 だが、それでもやることはまだまだたくさんある。

 大雨の日は、家の倉庫で支柱の組立作業だ。


 組立作業ははかどり、次々と組み上がっていく。

 山積みされていた資材は徐々に減っていた。

 その代わりに、畑前の空き地には、大量の金属の塊に覆われていた。


 しかし、まだ本格的な冬には入っていない。

 下界はまだ白き闇に覆われることもなく、無事に雲の切れ間が出た。

 そうなれば、好機とばかりに畑へと出動だ。

 

 もちろん、まだ水分の多く含んでいる開拓中の畑ではない。

 すっかり忘れ去られているだろうが、もう一つの畑の方である。


 収穫が終わり、すっかり葉も落ちて微睡み始めるブドウ樹たち、来春に向けて力を蓄えるために休眠期にこれから入るのだ。

 このまま眠りにつかせてやるのだが、この時に人間が奉公すべき事がある。


 四方八方に伸び切った枝を切りそろえてやる作業、剪定だ。


 本来ならば、ここまで慌ててやらなくても良いが、この地では今やらなければならない。

 雪の重みを軽減させる意味でも、この時期に枝を減らしておかなければ取り返しの付かない事態になる。

 白き闇、大雪が降られたらその重みでブドウ棚が潰されてしまうからだ。


 白き闇に棚が潰されてしまったら、勇者共に奪われてしまった魔王軍の領土(逆か?)のように折角築き上げたモノが台無しにされてしまう。

 そのため、迅速な判断力と行動力が必要となるわけである。


 この畑は、X字長梢剪定という日本では昔ながらの剪定方法で栽培されている。

 これがなかなか手間のかかる栽培方法だが、僕は日本の気候風土にあっていると思う。


 この剪定方法がなかなか複雑で専門的なので、ここでは詳しい話はしないでおこう。

 専門外の読者の皆様が休眠してしまうだろうから。


 というわけで、この週の後半はこの剪定をやり始め、白き闇対策に乗り出したわけだ。

 これからは、天気予報と毎日にらめっこし、どの作業進めていくのか選定していこうと思う。

 

 できるだけ多く畑の作業を終わらせていきたい。

 さもなければ、白き闇に蹂躙されてしまうことだろうから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る