11月第4週 白き闇の気配によって戦術変更する
『オーカ ピノタージュ
2021
マン ヴィントナーズ』
南アフリカの地で、3人の男たちの若き情熱から始まったワイナリー、マン(MAN)の意味はそれぞれの妻の頭文字から取り、家族円満の願いを込めているらしい。
ワイナリーのコンセプトは、自分たちが買いたい・飲みたいと思うようなワインを造ること。
今回のワイン名のオーカとは、暖炉の縁の装飾部分を意味している。
暖炉の周りには自然と人々が集まり、楽しい会話や時間が流れ、このワインを飲む人々の幸せを願い付けられたブランド名だそうだ。
さて、今回のピノタージュという品種はピノ・ノワールとサンソーを人工交配して作られた黒ブドウで南アフリカを代表している。
では、とスクリューキャップをパキッと開ける。
色合いはそれ程濃くはないルビーといったところ、ミディアムボディ程度の軽やかさが予想される。
香りにほのかに甘さを感じさせるプラム系統がある。
味わいはフルーティーで滑らかなタンニンが軽やかで飲み口が優しい。
コスパに優れた気軽に飲める良質なワインだと思う。
『鶏ささみのパン粉焼き』
今回は久々に薪ストーブを使わずにキッチンのガスコンロで調理した。
台所下の調味料置き場に、見て見ぬふりをしていた大量に余っているパン粉を消費しようと思う。
このパン粉の賞味期限はなんと6月!
作り方は簡単、まずは鶏ささみを一口大に切る。
一人分だがレシピだと二人前の量があるので、大きめの丼に切った鶏ささみを入れ、酒の代わりにまたも余っていたみりんと塩こしょうで揉み込んで味付けをする。
ポリ袋にパン粉、乾燥パセリ、粉チーズをお好みの量を適当に入れて混ぜる。
程よく混ぜ込んだところで、味付けした鶏ささみを入れて全体に衣が付くようにさらに混ぜる。
後は、オリーブオイルでカリッと焦げ目がついて中に火が通るまで焼くだけだ。
実食。
カリッと香ばしく、パルメザンチーズの風味も良いアクセントになっている。
お好みでレモンを絞っても良いかもしれないな。
古すぎるパン粉だが、味に問題はなさそうだ。
ワインと合わせてみよう。
なんというか、飽くなき食欲と日々の疲労の蓄積のせいなのだろうか?
何も考えず、ただ貪り続ける。
気がつけばグラスが空になっており、次を注ぐ。
何かを感じる間も無く、箸を伸ばす手が止まらない。
これはおそらく、ワインと料理の相性が良かった証拠なのだろう、多分。
気が付けば、二人前の鶏ささみは無くなっていた。
さらに、賞味期限切れの白カビのブリー・チーズをクラッカーに乗せてさらに胃袋を満たし、内側から暖まってきた。
人間を堕落させる魔導具コタツで冷えた身体の外側も暖まり、まぶたが重くなってきた。
ふと気が付けば、3時間も経過しているではないか!
賞味期限食材ばかりで気絶したわけではないだろうが、肉体は正直だ。
疲れたらよく寝ること、これが生存するために最も重要なことなのだろうと思う。
☆☆☆
これは、まずいな……。
めっきりと寒くなった11月下旬、眼前の高い山の頂は雪化粧し、スキー場のコースラインがくっきりと見えるようになった。
ついには現在開拓中の畑にも、うっすらと白いものがまぶされている。
まだまだ量は少ないので、日が高くなると同時に気温が上がればすぐに溶けて消える。
しかし、白き闇の到来が近いようだ。
気象庁の発表では今期は暖冬を予想しているが、積もるほどの降雪があることは間違いないだろう。
いつになるのかは分からないが、この地域であれば根雪になることは確実だ。
例年であれば、年末年始前後ではあるが、今年も同じとは限らない。
いずれにせよ、そこまで降られてしまったら、これ以上の畑の開拓は雪解けを待たなければならなくなる。
補助事業の関係でそれまでにある程度完成させなければならないスケジュールとなっている。
ドカ雪が降る前に終わらせなければ、ゲームオーバーとなるのだ。
現在の進捗状況と作業速度で完成予測を立てる。
今のやり方では、年末までには終わらないことが分かった。
そうと分かれば、戦術を変更することにした。
前回から引き続いていたエンドポストの設置はそのまま続行する。
これが終わらないと話にならないからだ。
これは無事に木曜日には終わった。
その間に、畑の各所に置いていた加工前の支柱と部品を回収していった。
二度手間ではあるがこれも仕方がない。
畑に出れる天気の時は、設置作業を集中的に行うためだ。
秋の日没はあまりに早く、16時を過ぎればあっという間に暗くなる。
自動的に畑での稼働時間が短いので、その時間を有効的に使おうという作戦だ。
日が暮れる前に運搬可能な数だけその都度回収し、夕方日が暮れてから家の倉庫で組立作業、雨で畑に出ることができない日も組立作業だ。
これだけで毎日フル稼働で作業を行うことが可能となった。
組み立ての完成した支柱は、畑の手前の来年造成予定の空き地に積み重ねておく。
雨の中で畑に入ると土壌構造を台無しにし、さらにぬかるみにハマって抜け出せなくなるという最悪な事態になってしまう。
だが、手前の空き地も道路から中に入り込んでいるので、その通路ですらぬかるんでいる。
4駆の軽トラとはいえ、油断すると途中の沢に落ちるので気を抜くことは命取りだ。
これもまた、白き闇に世界が覆われてしまえば手も足も出なくなるので、今やるしか無いからだ。
こうして作業効率は圧倒的に上がり、例年通りの天候で畑に出ることができればクリスマス前(クリスマスって何だっけ?)に作業完了の見込みが立った。
もちろん、何もやらかさなければ、だ。
さて、前作から読み続けている読者の皆様にはお分かりだと思うことだろう。
やらかしスキルを持つこの作者である。
ここでフラグを立ててしまったのがいけなかったのだろうか。
前日の雨と夜更け過ぎの雪上がりの土曜日、大丈夫だろうと畑に出たらぬかるみにハマってしまった。
当然ながら、運搬車で畑の内部には入らずに通路部分のみの走行ではあるが。
通路部分はこれまでに運搬車で走行して踏み固められていたので大丈夫だろうとタカを括って旋回したら地面のゆるい部分にタイヤを取られた。
1時間程戦い続け、何とか脱出に成功できた。
これがダメだったら全てが台無しになるところだったので、最小限のタイムロスで済んでよかったとつくづく思う。
これを教訓に更なる戦術変更をすることになる。
が、その話は次回にしよう。
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