11月第3週 折れないハート

『ウーバーブラン リースリング

 2019

 グレッツァー ディクソン』


 オーストラリア・タスマニア島、温暖とイメージされるオーストラリアの中で「クールクライメイト」と呼ばれる冷涼な地域にある。

 北海道よりやや小さな島でありながら、太古からの植物や固有の動物をはぐくむ未開の原生地域は世界遺産に登録されている。


 そのタスマニアのワインを世界的なワイン産地へと押し上げた立役者の一人、ニック・グレッツァー氏の1本を開けてみようと思う。

 

 今回のワイン品種はリースリング、ドイツの白ワインとして有名である。

 スクリューキャップをお手軽にひねってグラスに注いでみる。


 リースリング独特のペトロール香、ガソリンのようなオイルの匂いが最初に感じてしまう。

 この香りは正直好きではないが、その奥から甘さの感じるジャスミンティーや桃のような香りで気分が落ち着く。

 フレッシュな酸味のある味わいで爽やかだ。

 

『塩ちゃんこ』


 今回はダッチオーブンではないが、薪ストーブに土鍋をセットしてちゃんこをしようと思う。

 誰とも相撲をするわけではないが、心身ともに冷え込む夜には身体だけでも暖めたいのだ。


 まだまだ多忙故に、お手軽に塩ちゃんこの素をプチっと開けて水と具材と合わせて煮込む。

 具材は、鶏肉つみれ、えのき茸、白菜、ネギ、豆腐、油揚げなど、とりあえず冷蔵庫にある物を入れる。


 薪ストーブでも火力は十分、グツグツと煮え滾り、蓋穴から湯気が暴れ狂い鼻孔をくすぐる。

 タスマニアンデビルのように蠢く腹の虫を我慢していると具材に火が通り完成だ。


 味わいは期待通りの塩味と具材の出汁が程よく出ていて食が進む。

 このまま食べ尽くしても良いが、ワインと合わせねばこのエッセイが成り立たない。


 塩味の効いたちゃんこ鍋によって、ワインにも上手く溶け込み海のようなミネラル感を感じさせてくれる。

 鶏つみれから出た脂分もワインの持つ酸味のあるフレッシュさで後味を爽やかにしてくれる。

 

 鍋の中の具材が空になったが、最後の締めの雑炊が残っている。


 具材の旨味の溶け込んだスープと白米を卵でとじるだけのシンプルさ、これだけで心地良い余韻が味わえるのだ。


 食事前に荒ぶっていたタスマニアンデビルのような食欲が満たされ、人間を堕落させる魔導具・コタツでうたた寝をしてしまう。


☆☆☆


 まだまだ続く畑作り、今週もまた試行錯誤を繰り返した。


 前回は資材の加工をして終わったが、その加工済の資材を実際に立ててみた。

 

 今回考えたブドウ棚の仕立て方は、改良マンソン仕立てと呼ばれるものだ。

 通常のワイン用ブドウは、垣根仕立てと呼ばれるVSPという縦に枝を伸ばすスタイルが主流だが、その伸ばす枝をVの字に斜めに伸ばしていく。


 分かりやすい図は、noteで公開しようと思う。

 noteはカクヨムよりも大体1週遅れで不定期に公開している。


 試しに1列分だけ先行して立ててみよう。


 まずは、各列の支柱を繋ぐ構造上大事な番線を張らなければならない。

 その番線を張るために、前回仮で立てた大黒柱であるエンドポストの設置だ。


 前回では、仮に立てたエンドポストがイノシシに倒されてしまったが、本設置になれば頑丈なので安心だ。

 さらに前回ドヤ顔で語った45度の力の作用点を存分に発揮してもらおう。


 番線を1列分伸ばしていく。

 この番線を伸ばすために、ワイヤー繰り出し機というものを用意する。


 これは単純な道具で、巻いてある番線の束をその上にセットしてグルグルと回して伸ばしていくだけのものだ。

 ただ、番線の束は1個で50kgあるので、独りでセットするとかなりの力が必要になる。

 

 こいつの土台部分を地面に突き刺し、その上にグルグルと回す上の部分をセットする。

 その上に番線の束をセットすれば準備完了だ。


 この道具の純正品は単純構造の見かけによらず、高い。

 しかし、独りでも作業できるという優れものである。

 ニュージーランドのワイン学校で実際に使ったことがあるので、それは間違いない。


 早速、番線を伸ばす。

 1列目は距離が短いので、60m程をあっさりと伸ばし切る。

 

 さて、2列目……お?

 おお?

 途中で動きが悪くなり、ついには動かなくなったぞ?


 道具の様子を見に行くと、地面が柔らかい上にあまりの番線セットの重さで地面に錐揉み回転してメリ込んでいるではないか!


 こいつは困ったぞ、と悪戦苦闘しながら2列目も何とか伸ばしきった。

 

 ここで戦術を変更しよう。


 まずはめり込んだ番線セットを救出しないといけないので、少しでも軽くするために伸ばした番線と対になる短い方を先に全て作ろう。


 この短い方は、エンドポストの片側に輪っかを作って先程伸ばした長い番線と繋ぐためだ。

 このやり方は後ほど語ろう。


 この短い輪っかを全19列分作成した。

 そのおかげでわずかに軽くなり、番線セットを地面から引き抜く事ができるようになり、台車に積んで次の列へと移動だ。


 次からは、ミサイルの発射台のように支柱用のコンクリートブロックを組み合わせて番線セットの土台として作った。

 そのおかげか、ここからは順調に作業が進んだ。

 土台を作る手間の方がわりと大変であったが。


 こうして無事に全列の番線を伸ばし終わった。

 伸ばした番線の先端を地面に突き刺してやれば、安心安全である。

 イノシシが侵入してきてグチャグチャにされない限り、であるが。


 さて、次に伸ばした番線を張っていく。

 番線を張る器械・シメラーと呼ばれる張線器を使ってガチャガチャと締めていく作業だ。

 

 すでにエンドポストが仮で立ててある列は準備ができているので、すぐに番線を張ることができる。

 ちょうど良い長さになる位置で番線の先端同士をシメラーで咥え込み、ガチャガチャと締めていく。

 この力は最大500kgのものを使った。


 よし、程よい張り具合になったな?


 そうして張力の効いた番線を繋ぐために部品をハメ込む。


 が、バヒョーンと抜けてしまうではないか!


 初期に頼んだ番線を止めるクリップが、この引張力に耐えきれる力がなかったのだ。

 ならば、と番線同士を巻き付けてクリップで締めてみる。


 しかし、またもバヒョーンと抜けてしまった。


 ぐぬぬぬ!


 ホームセンターへひとっ走りしてオーバルスリーブというワイヤーを固定する部品を試作として1セット買ってきた。

 こいつも簡易で安いものなので代替品としてちょうど良いだろう。


 また試してみる。


 だがしかし、バヒョーンと抜けてしまった。


 クッ殺s……いや待て待て。

 ふぅ、冷静になって頭を冷やせ。

 

 純正品であるグリップルというフェンス用のしっかりとした部品を某楽天で注文した。

 到着するまで2日程かかるので、それまでは支柱の加工だ。


 2日後、無事に到着し、その翌日に作業を再開だ。


 よし!

 無事に張れて番線もしっかりと固定できた。

 ホッと安心してシメラーを取り外す。


 何度目のしかし、だろうか。


 番線はしっかりと張れているのに、エンドポストがグラグラではないか!


 まだ張り方が足りないのだろうか?

 さらに番線を力いっぱい張り直す。


 グ、ググ、グググ……ブチーン!


 なんてこった番線がちぎれてしまったではないか……

 人は焦りの限界を超えると逆に冷静になるようだ。

 

 なぜだ

 と考える。


 その答えは、45度の角度では、地面の埋め込みの深さが足りなかったのだ。


 これまでの戦術をさらに変更し、埋め込み角度を60度に修正した。

 またも思った。


 全部を仮で立てる前で良かった。


 スコップで掘り起こし、腕の長さほどの深さの穴を掘る。

 そこにエンドポストのセットだ。

 そして、番線を張り直す。


 ふふふ。

 フハハハ!

 

 ようやく、エンドポストがバッチリと設置することができたのであった。

 

 この勢いのままに、1列の目の支柱を設置である。

 大体の完成イメージが固まり、4列程エンドポストだけは設置できた。

 

 さて、本日11月19日日曜日、どこまで設置できるのか。

 

 今週の教訓、何度失敗を繰り返しても、折れないハートを持つことが大事。

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