5月第2週 農業とは大虐殺なのである
『安心院スパークリングワイン
2020
安心院葡萄酒工房』
下町のナポレオン「いいちこ」でおなじみの三和酒類株式会社が運営するワイナリー、実はワイン事業はいいちこよりも歴史が古いらしい。
九州・大分県に本拠地を構え、様々なコンクールで高評価を受けている日本有数のワイナリーに数えてもよいだろう。
今回は安心院ワインの看板である、シャンパンと同じ製法の瓶内二次発酵のスパークリングワインを試してみようと思う。
スパークリング用のフルートグラスに注ぐと、レモンイエローの透き通った色の中に細かな泡が立ち上る。
柑橘系のスッキリとした香りとトーストしたパンのような酵母の香りを感じる。
味わいはキレのある酸味と爽やかな柑橘の風味が心地よい。
高級感を感じる上質なスパークリングワイン、この品質のものがこの値段ならばシャンパンを買う必要は……ゲフンゲフン。
『コシアブラの天ぷら』
コシアブラをいただいたので天ぷらにしようと思う。(5月3日の話)
沖縄以外の日本全国に自生しているので、雑木林のある地域であれば手に入る山菜だろう。
山菜の女王と呼ばれ、若葉は油を感じさせるような艶があって見た目も麗しい。
急なこともあり、あるもので衣を作ってみようとやってみた。
小麦粉はほんの少々しかなかったので、片栗粉とブレンドしてみた。
これで揚げてみると、さっくりとした食感は無事に再現できたと思う。
コシアブラの独特な素材の風味が程よく感じられる。
春を感じさせてくれる一品だ。
ワインと共に味わう。
辛口のスパークリングワインは大体の料理に合うと思う。
今回の場合は春らしいコシアブラの天ぷら、スパークリングワインの細かな泡と清涼感のある酸味が見事に合った。
春眠暁を覚えず、と古くからあるが、このまま永久の眠りにつきたいものだ。
いや、それはダメだろう。
これからが始まりなのにここで終わる訳にはいかない。
ただ、休息だけは自堕落に過ごしたい、そう願う。
☆☆☆
先週は芽かきについて語り、雨天のため中断したところだった。
今週はその続きを行った。
月曜日、午前中は小雨が降り続いていたので出稼ぎへ行き、午後に雨が上がるだろうという天気予報を信じて芽かきの続きへとでかけた。
畑へとやってきたが、午後になっても小雨が続いている。
天気予報を信じ、小雨の中作業を開始した。
しかし、一向に雨の止む気配がない。
僕は天気予報の嘘つきに悪態をつき、キリの良いところで作業を中断して帰宅した。
ずぶ濡れになった服から着替え、シャワーを浴びて暖まっているといつの間にか外は明るくなり雨が上がっていた。
自然というのは気まぐれ、今回はタイミングが合わなかっただけの話だ。
だが天気予報、お前は許さん。
雨が上がったので、ガソリンを入れて再び畑へと繰り出した。
まだ焦る時期ではないが、次の日の作業を考慮して第1回目の芽かきは完了したいところなのである。
その後、日が暮れる前の夕方に無事に一通り回ることはできた。
そこでざっくりと畑の中の見回りを開始だ。
すぐにおかしな芽になっているところを発見した。
ポツポツと褐色の斑点のできている葉が数枚あった。
この症状はおそらくハダニだと思われる。
ハダニの発生ピークは梅雨明け直後となるが、この時期にも多少出現するモンスターだ。
1匹では1ミリ以下の雑魚だが、大量発生してしまうと厄介な存在である。
ブドウを含め、植物の葉は光合成をして養分を作り出すので大事な器官だ。
その大事な葉を食い散らかすモンスターたちがハダニである。
このやられた葉に大体いるので、この葉をちぎり取り、水の流れる側溝でボッシュートしてもらった。
今回のハダニ共は水責めの刑で抹殺完了だ。
次に虫食い穴ができているボロボロの葉を発見。
この食われ方は、おそらくツマグロアオカスミカメというカメムシの一種だろう。
こいつも葉を食い散らす厄介なモンスターだ。
残念ながら本体を発見できなかったが、
基本的に周辺の雑草に棲んでいるため、草刈りが必須作業だと理解できるだろう。
まだまだ出てくるモンスター共、こいつはオオミノガかな?
こいつらも葉っぱを食い散らかすので、見つけ次第抹殺だ。
僕は確実に殺るため、グリグリと踏み潰した。
最後にとんでもない奴を発見してしまった。
トラカミキリだ。
こいつは本当に恐ろしいやつで、幼虫は枝の皮下を食い荒らし、成虫になると幹を食い破って外に出てくるエイリアンみたいな奴だ。
最悪の場合、樹を枯らしてしまうというとんでもない奴である。
こいつも即刻抹殺、悪即斬とばかりに真っ二つにねじ切る。
しかしながら、ブドウトラカミキリの成虫は、通常この時期にはほぼ見かけることはない。
他所から流れてきた別種のアウトローだと信じたい。
さて、このようにモンスターたちとの戦いも、畑の管理者のお仕事である。
ざっと見回っただけだが、ほんの数匹見かける程度だった。
この時期はまだ出現率はかなり低いが、最盛期に大発生してしまったらその時はすでに手遅れの状態だ。
そうなる前に手を打たなければならない。
農薬で汚物を消毒だ。
そう、これが次の作業のために急いだ理由である。
少しでも農薬を全体に行き渡らせるために、余分な芽を取り除きたかったのだ。
こうして翌日、農薬を撒き散らし大虐殺を執行した。
お分かりいただけただろうか?
農業の仕事は、様々なモンスターたちとの戦争なのである。
食卓に並ぶ作物は、敵対した虫たちの無数の屍の上に成り立っている。
つまり、農業とは大虐殺なのである。
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