春
4月第1週 土壌診断
『アルバリーニョ
2021
蔵王ウッディファーム』
蔵王山麓かみのやまで、自社畑で育てたブドウでワインを造るドメーヌワイナリーである。
他にもさくらんぼや洋梨といった果樹園もある。
このワインの主体は、イベリア半島(スペインかポルトガルのどちらか)原産の白ワイン用品種アルバリーニョから造られている。
海のワインと呼ばれてもいる品種である。
わずかながら、プティマンサンもブレンドされている。
では、早速開けてみよう。
アルバリーニョのワインは、基本的にフレッシュで軽やかに造られることが多い。
だが、このワインは明るい黄色からして濃厚さが想像されるだろう。
桃のように熟した果実味、はちみつのような甘い味わいを感じ、生姜のようなスパイス感もある。
樽を微かに感じるトースト風味でより複雑な味わいに仕上げている。
アルバリーニョも様々な段階で収穫されたブドウがブレンドされ、濃厚な味わいのプティマンサンも入っているので、厚みのある白ワインとなっている。
日本ワインの新たな可能性が表現されている。
『山菜の天ぷら』
本来なら山に入って取ってきたかったが、ふきのとうはすでにとうが立っているし、他の山菜はまだ早いので、セットで買ってきた。
ふきのとう、タラの芽、こごみを天ぷらにしてみた。
さっと簡単に小麦粉と水、卵で衣を作る。
チョイチョイと衣を着せた山菜たちを熱々の油に入浴させるだけだ。
今回は山菜の素材の味を楽しむために、塩のみでいただこう。
揚げたてのサクッとした衣の中からふきのとうの独特な芳醇な香りと僅かな苦味がたまらない。
タラの芽はふきのとうに比べればクセが強くなく、食べやすい。
こごみはこのクルクルとした見た目でも楽しませてくれる。
さて、海のワインと山の食材、この組み合わせは絶妙だった。
ワインの持つ熟した果実味の中に、山菜の苦味と独特な香りが複雑に絡み合う。
海と山の調和によって、素材の味わいを高め合う。
これは、食事という生き物にとって必要不可欠である行為を最大限に楽しませてくれる。
始めの一本と一食、一歩目は順調なスタートを切ることができたことは間違いない。
☆☆☆
4月1日からブドウ農家としての一歩目が始まった。
前置きで、すでに最低限の仕事だけは終えていると説明したが、農業というやつは、やろうと思えば無限に仕事が湧いてくる仕事だ。
収入になるかならないかは別の話だが。
さて、まず第一歩目にやることは、畑の土壌診断からだった。
土壌というのは、農業にとって非常に重要で、植物を始めとする陸上生物の基礎となる。
苗木の植え付けは来年を予定しているので、空き地の現状を知っておこうというわけだ。
もちろん、借り受けたぶどう畑についても知っておくべきだろう。
やり方は、目視とバランスシートで簡易的に診断する方法がある。
この方法はニュージーランドの学校で教わったやり方でやろうと思う。
必要な道具があるので、100均やホームセンターで買い揃えねばならない。
しかし、目視だけでは詳しい土壌構成まではわからない。
そのため、土のサンプルを採取して分析にかける。
この分析は、肥料業者や最寄りのJAで有料でやってもらうことが可能だ。
僕は、最寄りのJAに持ち込もうと思う。
だが、サンプルを一週間程かけて乾燥させてからになるので、診断結果はさらに後になる。
おそらく、詳しい診断結果は1ヶ月は先の話になるだろう。
とりあえず、僕は準備を整え、車に乗って畑へと繰り出したのだった。
まずは空き地の方に到着すると、チェックシートに必要事項を記入していく。
場所、畑の種類、土壌の主要構成、湿り具合、現在の天候といったところか。
そして、スコップを担ぎ、必要な道具を持って歩いていった。
見晴らしがよく、拓けた緩やかな斜面だ。
しかし、北西向きなので日当たりは良くなく、ブドウ畑にとって最良の土地ではない。
こればかりは仕方がない。
与えられた条件で最善を尽くすだけだ。
さて、まずはスコップの大きさ分の土の塊を掘り起こす。
この時に、土の塊にある孔の状態を確認する。
この孔がどれだけあるかで、土壌の通気性や通水性と保水力のバランスがある程度分かるわけだ。
孔が細かい程、通気性や通水性と保水力のバランスが良い。
……よし、全然穴が無いぞ?
見事にベタつく吸水性の高い赤土の粘土質土壌ということも分かった。
次に見るところは、色だ。
色が黒っぽくてダークであれば肥沃、薄く灰色のようであれば養分がほぼ無い。
……ほぼ一色でよくわからない。色が濃いので、肥沃だろうと想像はできる。
ここでわからなくても、サンプル分析で養分構成が分かるので、大体で大丈夫だろう。
続いて、色のマダラ具合だ。
これで、排水性が分かる。
もしも青色ならば最悪で、水に浸かりっぱなしの状態である。
……赤土一色なので、多分大丈夫だろう。
だが、水が吸収されずに表層を流れていっているだけかもしれないが……
こうして様々な視覚診断をし、掘り起こした土の塊を腰の高さから自由落下させる。
これを三回ほど繰り返すが、スラムダンクのように叩きつけてはいけない。
この土の砕け具合で、根の伸び方や雨が降った時の水の動きなどが分かる。
細かく砕ければ良い土壌と診断される。
とりあえず地面に敷いたブルーシートの上に落としてみよう。
ベチャッ!
……全然砕けず、モチみたいにブルーシートにくっついた。
よし、次行ってみよう!
この砕けた土の塊をさらに手で砕きながらほぐしていく。
この作業は、このスコップ大の土の中に、どれだけミミズが生息しているのかの確認だ。
ミミズは自然に畑を耕してくれる益虫とされている。
通気性や排水性だけではなく、栄養素の循環も担っている。
ミミズの数が20匹以上いれば良い土壌だと診断されるが、ブドウ畑なら10から20匹ぐらいで良いのではないだろうか。
ほぐし終わったところでカウントだ。
……あ、一匹……だけ、でした……
ま、まあ、まだ寒いからミミズちゃんたちも活動が鈍いということにしておこう。
こうして、空き地の畑の他の箇所も診断していった。
結果、これからの土壌改良が大変だということだけは分かった。
詳しくは採集したサンプルの分析次第になるが、これだけがわかっただけでよしとしよう。
今年は1年かけてじっくりと土作りとなるようだ。
ちなみに、借りたブドウ畑の方は、まずまずの診断結果だった。
こちらも土壌分析の結果を待とう。
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