第5話 フローラ
彼女は水槽に浮かぶ脳を見つめる。
今、この脳の持ち主は新たな世界に生まれなおしたはずだ。
純粋無垢な少女は瞬間にその姿かたちを変え、髪の長い女性の姿となる。
それは、人間たちが神と呼ぶのと相違ないほど神々しく美しい姿。
「今度はもう少し穏やかな世界に行けるはずよ」
人の記憶が脳の許容量を超えて壊れてしまう前に、リセットすること。
それが、この管理工場の長である彼女、フローラの役目だ。
「お疲れ様ちゃんと使命を終われてよかった」
彼女は数百年孤独と戦った新聞記者の壊れていない終わりに、安堵のため息をつく。
ロボットの原則により、彼女たちは人の生きたいという意志に反してリセットは行えない。
AIによって生み出されたMUPは、人間の生き方を変えた。
そして、人間の肉体は不要なものとなった。
数億個の人間の脳が浮かぶ管理工場をAI達は管理し、世界の秩序はAIにゆだねられる。
しかし、
そのために設立されたのが、この特別なエリア。
特に強靭な魂を集め、人々はすこしだけ過酷な、けれど自分の望む世界で、新たな価値を創造する。
AIには想像のできないそのアイディアたちで世界を発展させるために。
それは強い心を持った人間に課された、一度きりの使命だ。
フローラはAIながらも考える。
普通に生きていた過去の世界と、夢の中で自分の望む生活のできる今。
どちらが幸せなのかと。
彼女には、わからない。
彼女は、“ソウゾウ”ができないのだから。
メイク 篠騎シオン @sion
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