エピローグ

「ポトス様! 模擬戦をお願いします!」

 才女となった私は、国のシステムを全て変えることを勇者であるポトス・ヒペリカムに話した。エビネの言っていた歴史も添えて。しかしポトスは、かなりの保守派のようで、全く聞く耳を持ってくれない。

「君と僕とでは力の差が歴然だ。それに、使用人の1人が言った歴史に囚われすぎだ。嘘かもしれないじゃないか」

「まだそんなことを言うのですか? エビネは優秀な使用人です。嘘を言っているわけではないです。その証拠に、魔力の質を測れる初代勇者の編み出した測定器を作ったのですよ」

「だとしても、今からこの国のシステムを変えるなんてだめだ!」

「ごちゃごちゃうるさいですね。模擬戦しましょう」

「嫌だよ! 女の子を痛めつける趣味はないんだ!」

「私、剣術も使えますよ? なんなら、魔法抜きで模擬戦してもよろしいのですよ? それに、ポトス様は先ほどから、自分が勝利する前提で話をされているようですが、私が勝つ可能性もあるのではないですか?」

「はあ。剣術も学ぶ才女がどこにいる。冗談も大概にしてくれ」

「わかりました。では、模擬戦で私が勝ったら、一切の口出しをしないでくださいませ。私が負けたら、大人しくポトス様に従いましょう。いかがですか?」

「はあ。わかった。今から1時間後に闘技場で模擬戦だ。魔法、剣術どらもありとする。降参するまでってルールでいいか?」

「ええ。構いませんよ」

 勇者をねじ伏せなければ、私が才女になった意味がない。どれだけ強いのかはしらないが、お手並み拝見といこうではないか。


「それでは、これより、リリー・カーディナリス様とポトス・ヒペリカム様の模擬戦を行います。立会人として、リリー様の侍女であるカルミアがつとめます。では始めてください」

「女の子に剣を向けるのは忍びないが、仕方がない!」

 付与魔法で身体強化と武器強化。ヘレボルスと同じ戦い方。スピードもパワーもかなりのものだ。だが、当たらなければ意味はない。

「剣で勝負ということでしたら、付き合いますよ」

「想像魔法!? くっ! 付与魔法まで……!」

「さっさと降参してください。私は、国のシステムを変えるために才女になったのですから」

「ダメだ! 我がヒペリカム家の名において、それは譲れない! はあ!」

 みんな、家のためって言うけど、個人の意思ってのはないのかしら。まあ、そういう教育をされてきたら、そうなるのも当然なのかもしれない。私が変なだけか。

「なっ! 消えた?!」

「終わりです」

「ぐはっ!」

 ポトスの背後に回り、体全体に重力魔法を使った。抵抗するも、ポトスはすぐに意識を失った。ダリアの方が、もっと頑張って抗っていたように思うが。

「勝者、リリー・カーディナリス様!」

 観客のいない模擬戦が終わり、約束通り、ポトスは私のやることに口出しをしなくなった。これで、演説会が開ける。

 演説会とは、勇者や才女が今後の国の方針を話すことだ。勇者、才女試験が終わった1週間後に行われる決まりだ。候補がいなければ、試験日の日に行うらしい。今回は、才女が交代したということもあり、演説会も注目されている。そんな中で国のシステムを変えるというのだから、保守派のポトスは焦ったのだろう。

「本当にいいのか? 魔力の質とやらで才女や勇者を決めたら、君は才女でなくなるかもしれないのだぞ?」

「いいんですよ。もともと、才女になりたいわけではないですから。才女になったのは、国のシステムを変えるためで、私が才女であり続けたいわけではありません」

「誰もが憧れる地位にいながら、変わった奴だな」

「なんとでもどうぞ」

 ポトスはあきれたように笑った。



 演説会には多くの人が訪れていた。他の国では、王様がスピーチするみたいなものだから、これくらい派手なのも仕方がないのだろう。

「集まってくれてありがとう。現勇者のポトス・ヒペリカムだ。まずは、新たな才女を紹介する」

「現才女となりました、リリー・カーディナリスです」

「そして、新たな才女、リリー・カーディナリスより、これからのツァオベラ王国について話があるとのことだ。心して聞くように」

 なんだ。きちんとお膳立てまでしてくれるのか。今日で勇者を辞めなければならないかもしれないのに、意外といいやつなのかもしれない。

「この国は、魔力量が全てです。ですが、この国に住む人々は、魔力量だけでは測れない魅力をたくさんもっています。それなのに、魔力量だけで人を判断していいのでしょうか。私は、幼い頃から納得ができませんでした。そこで、私は、魔力量の測定を廃止したいと思います」

 会場が一気にざわついた。

「それでは、今後の才女や勇者はどうやって決めるっていうのですか?」

「魔力の質で決めたいと思います。ツァオベラ王国は、初代勇者が作ったと言われる魔力量測定器で10歳になったら魔力量を測定しています。ですが、初代勇者が作った測定器は、魔力の質を測定するものだったのです。2代目の勇者により、真実がゆがめられてしまいましたが、本来、魔力の質を測っていたのです。ここに、初代勇者が作った魔力の質を測定する測定器があります。見た目も測り方も同じですが、測定器が光り輝いたとき、質のいい魔力として判断されるのです。ではまず、ポトス様にやっていただきましょう」

「なっ!」

「お願いします」

「ぐぬぬ……いいだろう」

 ポトスが水晶に魔力を込める。だが、水晶は全く光らなかった。

「どういうことだ?」

「壊れているのではないか?」

「皆さん。これが通常の測定器の反応です。ですが、これを壊れていないと証明する必要がありますね。そこで、2人のゲストをお呼びしています。カルミア、連れてきてくれる?」

「はい。すでに」

「では紹介します。セラス・カーディナリスと、ヘレボルス・カーディナリスです。はい、これに魔力を注いでください」

「こ、こんなに大勢の前で……?どいうつもりなのですか、リリー」

「大丈夫です。さあ、どうぞ」

 2人は不安げな面持ちだったが、水晶を握りしめると、手の中から光があふれだした。

「これが、魔力の質を測るということです。初代勇者の、本当の測定器です」

 そう。私は、2人の魔法を見て、美しい魔法だと思った。だから、ここに呼んだのだ。2人ならば、必ず測定器を光り輝かせてくれると分かっていたから。

「今後は、使用人処も奴隷商も廃止します。魔力の質で改めて魔力を測定し、次の才女候補、勇者候補を見つける基準とします。それ以外で、魔力を人の価値を決める基準とすることを禁止します。そして、本日より、勇者、才女は、セラス・カーディナリスとヘレボルス・カーディナリスがつとめることとします」

「えっ!!?」 

 2人は焦った顔をしていた。息もぴったりだったし、問題ないだろう。ポトスは分かっていたような顔をしていた。

 私の目的。それは、才女となりこの国のシステムを変え、そしてお姉様を才女にすること。才女になって、自信を取り戻してもらいたい気持ちもあったし、なにより、魔力の質で決めるなら、お姉様が1番だ。

 私は全ての目的を達成させたのだった。


 衝撃的な演説会から数日が経過した。奴隷商も使用人処も廃止したことで、行き場のない人たちは、カーディナリス家で引き取った。自分で生きていくという人には、家を用意した。戸惑いの隠せない国民たちだが、次第に慣れていくだろう。今までが異常だったわけなのだから。それに、国をまとめるのが、お姉様とヘレボルスなのだから問題はない。

 お姉様は才女としてお忙しそうにしていた。だが、必要とされて嬉しいのか、生き生きとしていた。

 私はというと、才女になるために学んだ膨大な魔法の知識を教えるため、学校を作った。また、魔力量の多い一族だけが書物を独占していたのも廃止し、図書館も建てた。そもそもツァオベラ王国には、仕事や学校という概念がなかった。魔法で食べ物も水も服も全て生み出すことができたため、誰もが魔法を使えるこの国では、困ることがなかった。子供が生まれても、魔力量が少なければ使用人処や奴隷商に送られるため、学ぶこともない。私は自身の国が、異常であると異国の書物で知った。他の国では子供は学校で学び、大人は仕事をする。才女であるお姉様には、このシステムを作ってもらうように頼んだ。私の頼み事もあって忙しいのかもしれないと今更ながら思う。

「あれ? セラスお姉様のつけてるネックレス……」

「気づかれました?」

「メア!」

「儀式の間で見つけたんです。それを修理して今お付けになっているんですよ。宝物だとおっしゃっていました」

「セラスお姉様……」

 どんなに遠くにいても、お姉様はやっぱり、優しく美しい、大好きなお姉様だ。

 私の胸元にも、お姉様と同じ色のネックレスが光り輝いていた。

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シスコンな才女候補は姉を救いたい! 花咲マーチ @youkan_anko10

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