甘えん坊な双子のお姉ちゃんといもうと

壊滅的な扇子

幼児退行するお姉ちゃん

 そうっと双子のいもうとの部屋の扉を開ける。私の可愛いいもうとはまだ夢の中のようで、すやすや眠っていた。私はベッド脇まで歩いて、その愛おしい姿に近づいた。


「おねえちゃん……」


 どうやらいもうとは私の夢をみているみたいだ。どんな夢をみているのか、楽しそうにニコニコしている。ずっと見ていたいけれど、学校があるから起こさなければ。


 私はいもうとのほっぺにちゅーをした。するといもうとはぼんやりした瞳で私をみつめてくる。私と同じ顔をしているはずなのに、こんなに愛おしく思えるのはなぜなのか。その可愛らしさに悶えていると、いもうとはまだ半分寝ている声でこんなことをつぶやいた。


「もういっかい、ほっぺちゅーして……」


 いもうとは甘えん坊だ。私は仕方ない、といもうとのほっぺにちゅーをする。するといもうとはにっこりと笑顔を浮かべて、ふわぁと大きなあくびをした。あまりの可愛らしさにもっとちゅーしたいけれど、我慢しなければ。


 私はお姉ちゃんとしての責務を全うして、部屋を出ていこうと背中を向けた。するといもうとが後ろから抱き着いてくる。温かな体温と「おねえちゃん。大好き」という甘いささやきに、私はすっかりめろめろになってしまう。


「お姉ちゃんも大好きだよ」と返すと、いもうとは前にやってきて私の唇にちゅーをした。


「えへへー」と笑ういもうととは裏腹に、私の顔はとても熱くなってしまう。双子のいもうとにこんな感情を抱いているのは、きっと私だけなんだろうなぁ。そんなことを思いながら、私はいもうとの頭を撫でた。


〇 〇 〇 〇


 食卓で美味しいごはんを食べていると、いもうとの口元にご飯粒がついていた。私はそれを指先でとって、自分の口に入れる。


「もう。いもうとは子供なんだから……」


「お姉ちゃんに取ってもらいたくて、わざと付けたんだよっ」


 いもうとはにこにこしている。いもうとは可愛い小悪魔だ。毎朝私のハートを打ち抜いてくる。


「いもうとは可愛いね」


 微笑んでいるといもうとの指先が私の口元に伸びてきた。


「お姉ちゃんのごはんつぶ!」


 そう笑って、いもうとはご飯粒を自分の口に入れた。ただご飯粒を食べているだけのはずなのに、その唇の動きが妙に気になって仕方なくて、じっとみていると。


「またちゅーする? くちびるとくちびるで!」


 いもうとはにこにこして、私の所へやってきた。そして目を閉じてちゅーを待つ顔になってしまう。私はちゅーしたいという欲望に抗うことができなくて、いもうとにちゅーした。


「えへへ。お姉ちゃんとまたちゅーしちゃった!」


 私の顔はまた熱くなってしまう。なんだか恥ずかしくて顔を伏せていると、いもうとが覗き込んできた。そしてまた唇にちゅーしてくる。


 こんな無邪気なちゅーに顔を熱くするお姉ちゃんをお許しください……。そう心の中でつぶやいて、私はまたいもうとにちゅーした。


 こうして私たちの一日は幕を開ける。高校の制服を身に着けて、カバンを持って、手を繋いで、家を出る。校門までやってくると、私はきりっとした表情で先生に挨拶をする。いもうとはそんな私をキラキラした顔でみつめてくる。


 なんといっても高校において、私は秩序を重んじる優秀でかつ厳格な生徒会長なのだ。校門を通ってしばらく歩くと女の子同士がちゅーをしている場面に出くわした。私は生徒会長として二人に注意をする。


「風紀を乱す行為はだめです! 今すぐちゅーをやめてください!」


 でも二人はむしろ見せつけるようにちゅーしている。いもうとは私に物欲しげな目を向けてくる。でも今の私は生徒会長なのだ。ごめんね。いもうと。


「もしもちゅーをやめないのなら、私がちゅーしてしまいますよ?」


 そう告げると二人の女の子は私の方をむいて、目を閉じた。まるでちゅーを誘うようだった。私は二人に近づいて、両手でほっぺを挟んだ。


「私は生徒会長として、心に決めた人にしかちゅーしません!」


 するといもうとがキラキラした瞳で私をみつめてくる。女の子二人はつまらなさそうな表情をして、手を繋いで昇降口に歩いていった。


 そうして私といもうとも昇降口に向かう。すると見知った顔が話しかけてきた。


「おはようございます! 生徒会長!」


 彼女は私の友達であり、右腕な副生徒会長だ。厳格であり、規範を重視する。生徒の鑑と言っても過言ではない存在。私は威厳ある声であいさつをする。


「おはよう。昇降口でなにを?」


「身だしなみの乱れを注意しているのであります!」


「ほぉ。私も協力しよう。いもうとは教室にいってていいよ」


 だけどいもうとはふるふると首を横に振った。


「お姉ちゃんと一緒がいい!」


 私はいもうとの頭を撫でた。するといもうとは上目遣いで私をみつめてくる。それがあまりに可愛らしいものだからついつい、ちゅーしてしまいそうになるけれど、副生徒会長の視線を感じて辞めた。


「二人は仲がいいのですね」


「うん! とっても仲がいいよ! 朝はね、いつもちゅ……」


 私は慌てていもうとの口を塞いだ。もちろん、手で。


「ちゅ?」


 副生徒会長は不思議そうに首をかしげている。私は生徒会長として威厳のある立ち姿でつぶやいた。


「ちゅ、チューリップの世話をしているのだよ」


「なるほど! 生徒会長といもうとさんに世話をされるなんて、チューリップは幸せ者ですね!」


 ふぅ。なんとか誤魔化せたようだ。そうしていると、生徒達が次々に昇降口へとやってくる。スカートを短くしている者、化粧をしている者。色々な生徒を、私たちは注意していく。そして、退屈そうにしているいもうとの頭をたまに撫でてあげる。


 そうしてチャイムが鳴ると、私たちはそれぞれの教室に向かう。


 いもうとと別れるのは寂しいけれど、私は生徒会長なのだ。頑張らなければ。私は目をうるうるさせるいもうとにお別れのハグをして、教室に向かう。


 私が教室に入った瞬間、ざわざわしていた声が一気に静まり返る。


 そう。私は威厳ある存在。生徒会長なのだから。


 授業を受け、休み時間はいもうとの教室に向かい、そしてまた授業を受け。


 放課後は生徒会の仕事。書類をたくさんさばいて、すっかり疲れ果ててしまった私は、待ってくれていたいもうとと一緒に家に帰る。家に帰ると、私はすぐに……。


「いもうと! いもうと! ひざまくら……」


 玄関でいもうとに抱き着いて、幼児退行する。


 生徒会長としてのプレッシャーや疲労がたまりすぎて、最近は学校が終わるといつも幼児退行してしまうのだ……。


 リビングのソファの上で、いもうとはお母さんみたいな優しい表情で、私の頭を撫でくれる。


「よしよし。可愛いね。お姉ちゃん」


「いもうとぉ。ちゅーしてぇ……」


 するといもうとは微笑みながら、くちびるにちゅーしてくれる。


 こんな姿をみて、いもうとは何を思っているのだろう。でも疲れ切った体と心を抑えるのは至難の業なのだ。私はたくさんたくさんいもうとに甘える。そして甘え疲れると、いもうとの膝の上でうとうとする。


「お姉ちゃん。大好きだよ!」


「わたしもすきだよぉ……」


 ニコニコと微笑んでいると、いもうとはまたちゅーをした。一日で一番幸せな時間だ。私は幸せに包まれながら、まぶたを閉ざした。


〇 〇 〇 〇


 そんな毎日を過ごしていると、文化祭が近づいてきた。生徒会の仕事はもはや激務と言っても過言ではなくなり、そのあまりに強いプレッシャーと疲労に耐えかねた私は、生徒会室で会議をしている間に、幼児退行し始めているのを感じていた。


「生徒会長。当日のスケジュールについてですが……」


 眼鏡をかけた真面目な委員が私をじっとみつめてくる。いつもならこんなプレッシャーは気にならないのに、幼児退行しかけている私からするとそれは注射針のようで……。


「いもうとぉ。助けてぇ……」


「……はい? いもうと?」


 生徒会室がざわざわした。


「ふ、ふぇぇ」


 私は泣きだしそうになってしまう。


「ど、どうしたんですか。生徒会長!」


 私の友達であり、右腕である副生徒会長も困惑しているようで、だけど幼児退行を抑えきることはもうできそうになくて……。


「優秀で威厳ある生徒会長って実は幼児退行するらしいよぉ? くすくす」なんて全生徒から蔑まれる未来が見えてしまう。だけどそのとき、突然、生徒会室の扉が開いたかと思うと、そこにはいもうとがいた!


「い、いもうとぉ……」


 私はよろよろと立ち歩きし始めたばかりの赤ん坊のように、いもうとの元へと歩いていく。いもうとは私を生徒会室の外まで連れていくと「よしよし」と頭を撫でてくれた。


 すこしだけ、理性を取り戻した私はだらだらと汗を流す。早く会議に戻らねば。だがこの状態で戻ったとしてもまたすぐに幼児退行してしまう……。どうすれば。


 考え込んでいるといもうとはきりっとしたかっこいい顔で、私の手を引っ張った。


「お姉ちゃん! 来て!」


 私はいもうとに引っ張られるまま、走っていく。角を曲がると、生徒会室が開く音がした。副生徒会長が「せ、生徒会長!?」と困惑している声が聞こえる。ど、どうすれば……。


 でも今は会議のことよりもいもうとに甘えたい欲の方が先行していて、私はいもうとの手に引っ張られるまま、人気のない屋上に出る扉の前のスペースにたどり着くのだった。


 私はいもうとに期待している目を向ける。するといもうとは床に座ったかと思うと、ひざをぽんぽんと叩いてくれる。


「お姉ちゃん。ひざまくらだよっ」


 私はへにゃへにゃと表情が溶けていくのを感じていた。本能に任せていもうとのももに頭をのせる。いもうとはお母さんみたいな優しい顔で私を見下ろしてくれている。かと思うと、顔を近づけて、唇にちゅーをした。


「えへへ。いもうとぉ」


 もうすっかり幼児退行してしまった私は、いもうとのお腹に顔をうずめる。


「お姉ちゃん。もう大丈夫だよっ」


 いもうとは優しく頭を撫でてくれる。あぁ、もう会議なんてどうでもいいか、なんて気分になってしまう。だけれどそのとき、聞きなれた声が聞こえてきた。


「せ、生徒会長!? う、嘘ですよねっ……?」


 明らかに失望の混じったその声は、私の友達であり右腕である副生徒会長のものだった。一気に感覚が鮮明になって、幼児退行から覚めていく。

 

 ど、どうしよう。会議から逃げ出して、いもうとに甘えるほどの甘えん坊だってことが噂になってしまう……。こ、このままだと生徒会長としての威厳が……。


 だけど焦りに焦った私に妙案が落ちて来ることはなくて……。黙り込んでいると、突然、いもうとがきりっとした顔になった。


「どうしてもいもうとが甘えたいというから、仕方なく甘えさせてやっていただけだ。生徒会長たるもの激務の中でもいもうとを愛する心を忘れてはいけないからな」


 そんなことをつげるのは、いもうとの膝枕にめろめろになっていた私ではなく、いもうとその人だった。副生徒会長は感心したように「なるほど。流石生徒会長」とつぶやいている。だけどすぐに副生徒会長は表情に焦りを浮かべた。


「でも今はそれどころじゃないんです! 生徒会長の辣腕が必要なんです。じゃないと文化祭に間に合いません! ですからどうか、会議に戻ってくださいっ!」


 副生徒会長は私ではなく、双子のいもうとの手を引っ張っていく。いもうとは悲しそうな顔で私をみつめてくる。ど、どうすれば? いもうとは私と同じ顔だけれど、成績はからっきしなのだ……。


 いい案が浮かぶ間もなく、いもうとは副生徒会長に引っ張られていった。幼児退行から戻っていた私は慌てて二人の後を追いかける。生徒会室の扉を開くと、もう会議が始まっていた。いもうとは書類の山に困り果てている。


 どうにかして、入れ替わらなければ。そうして考え込んでいるうちに、私は妙案を思いつく。私をいもうとだと思い込んでいる副生徒会長の制止を振り切って、私はいもうとに耳打ちした。


「一緒に反復横跳びしよう」


 いもうとは困惑に目をぱちくりさせていた。でも「大丈夫」と微笑むといもうとは「うん」と頷いてくれる。いもうとは立ち上がり、私と一緒に反復横跳びをし始めた。


 真面目な顔をした委員会のメンバーたちが、反復横跳びをする私たちを前に騒めいている。そうだ。好きなだけ騒めけばいい。君たちが混乱すればするほど、私たちが入れ替われる確率は上がる。


 やがて私たちは反復横跳びをするのをやめて、フォークダンスのように手を取り合い、くるくる回り始めた。そしてシャッフルの要領で、私が生徒会長の椅子に座り、いもうとは生徒会室を出ていく。


「ふん。どうだ。だれも私たちが入れ替わったなど見抜けまい」と堂々と胸を張っていると、副生徒会長がジト目でみつめてくる。


「せ、生徒会長!? 今のはいったい……?」


 私は息を切らせながら告げた。


「か、体を動かすことで能率をあげようと思ったのだ」


 すると副生徒会長は「なるほど。流石生徒会長」と私を褒め称えてくれる。その様子をみて、他の委員長たちも「やっぱり生徒会長は一味違うな!」と笑顔を浮かべていた。


 だけど副生徒会長はどうしてか、首をかしげていた。


「でもいもうとさんと一緒に動く必要はありましたか?」


 その瞬間「確かに」とざわめきが生徒会室に広がっていく。た、確かにその通りだ。運動するだけならいもうとは巻き込まなくてもいい。ど、どう言い訳をしよう……。


「わ、私たちは双子だからな。同じ動きをしたくなるものなのだ」


 我ながら苦しい言い訳だった。でも副生徒会長は「なるほど! 双子ってそういうものなんですね!」とどうしてか感心しているようだった。それが呼び水になったのか「生命の神秘だな!」などと委員会のメンバーはみんな朗らかな笑みを浮かべている。


 そうして一気に緊張のほどけた委員会は、凄まじい効率で文化祭の準備を終えてゆき、その日のうちに全て完成させるのだった。


 私は凄まじい疲労を抱えつつ、待ってくれていたいもうとと共に家に帰る。


 そしていつも通り膝枕をしてもらいながら「ありがとう。いもうと」と告げるといもうとは首をかしげた。


「反復横跳びしなくても一緒に部屋の外に出て入れ替わればよかっただけなのでは?」


 はっ。確かにその通りだ。私はいもうとに笑顔を向けた。


「いもうとは天才だね!」


 するといもうとは「えっへん!」と胸を張って笑っていた。


〇 〇 〇 〇


 そうして文化祭の当日がやって来る。


 私は生徒会の劇に出ることになっていた。だから練習もしていたわけだけれど……。


 舞台袖からちらりと覗くと、全校生徒達がざわざわと舞台を見守っている。


「生徒会長! 最高の劇にしましょうね!」


 副生徒会長がそう告げるから、私は苦笑いをした。でもどうしよう。こんなプレッシャーと期待に晒されたらあっという間に幼児退行してしまいそうだ……。


 だけれど時間は無情にも過ぎ去ってゆき、劇の時間が来てしまう。とはいえ、私は生徒会長だ。幼児退行しない限りは、演技は完璧にこなせる。


 観客席は私が演技をするたび沸き立ち、そして静まり返っていた。


 生徒会のメンバーが行うこの劇は、悲劇なのだ。劇が進むにつれて、たった一つの失敗も許されないという緊張感で満ちてくる。私は必死で内なる幼児と戦っていたけれど……。


「な、なぜ殺したのでしゅ、でしゅ? で、ですかっ」


 副生徒会長が噛んでしまったのを皮切りに、理性が緩んで。


「い、いもうとぉ……。甘えさせてぇ」


 幼児退行してしまった。


「い、いもうと?」


 観客席がざわざわと騒めき始める。私をみつめるたくさんの目が怖くて、そのプレッシャーに幼児退行した今では耐えきれなくて、私は泣きだしてしまった。


「うわああああん。うえ。ひっく……」


 私の本気泣きに恋人役の眼鏡をかけた真面目な委員も同様を隠せないようで、うろたえている。幼児退行しつつもこのままだと劇が失敗してしまうことを私は悟った。

 

 だけどそのとき、突然舞台袖からいもうとが走って来た!


「お姉ちゃ……。お前は悪くないっ」


「ふぇっ? いもうと?」


「お前の心は優しいから、泣いてしまうのだろう。だが、奴らの所業を思い出してみよ!」


 いもうとはリハーサルの時もいたから、きっとセリフを全て憶えていたのだろう。いもうとの演技力のあまりのすごさに、観客席からはすすり泣きが聞こえてくる。


 その一方、私は妹に甘えたくていもうとを呼ぶ。


「いもうと……。いもうと……っ。ちゅーしてっ……」


 するといもうとは私の唇にちゅーをした。


 その瞬間、観客席は泣き声で大洪水になった。ようやく私は思いだす。私は悲劇のヒロイン役で、今、妹が演じているのがその恋人役だということに。


 舞台袖では委員会のメンバーが音のない拍手をしていて、みんなが涙を流している。


 どうやら劇は大成功したみたいだった。幕が下りてもなお、拍手は止まない。


 劇が終わると、私は幼児退行したまま、いもうとと一緒に屋上近くの人気のない踊り場にやってきていた。いもうとが私をたくさんたくさん甘やかしてくれる。ちゅーだってたくさんしてくれる。


「よく頑張ったね。お姉ちゃん」


「うん。頑張った。たくさん頑張ったよぉ……」


 そうして甘やかしてもらっていると、副生徒会長がやってきた。


「劇ですら復習を欠かさないとは。流石生徒会長です!」


 そんな風につげて、笑っている。


「ですが、今は文化祭です。一緒に楽しみませんか? ほら、妹さんも」


 私たちは笑顔で副生徒会長の手を取った。


 とはいえ私は幼児退行したままだった。そのままの姿で人前に出ると、どうしてかみんな「きゃー」と黄色い声をあげていた。そして次々に頭を撫でられる。いもうとは不満そうな顔をしていたけれど、私は幼児退行した私を受け入れてもらえたのが嬉しくて、みんなににこにこ笑顔を返した。


 するとみんなはますます興奮した様子で、私の頭を撫でてくれる。


 そうして文化祭は大成功で終わり、夜、日が沈むと夜空に花火が打ち上げられていた。


 私といもうとはそれを二人っきりの教室でみつめていた。その頃になると、私はいつもの凛々しい生徒会長に戻っていた。


 綺麗な花火を大切ないもうとと一緒にみる。そんな何ともロマンチックな状況だから、私の心からはいもうとを愛する思いが溢れてしまいそうになる。


 これはきっと片思いなのだろうけれど、それでも我慢できなかった。


「ねぇ、いもうと」


「なに? お姉ちゃん」


「大好きだよ! 私と付き合ってくれませんかっ!」


 だけど告白の瞬間、花火の音で声がかき消されてしまう。私はしょんぼりしながら、いもうとから目を離した。いもうともなにか言おうとしているみたいだったけれど、同じく花火の音に消されてしまって、しょんぼりしていた。


 でもきっと告白しようとしたのは私だけなんだろうなぁ。


 そんなことを考えていると、花火が終わってしまった。私は肩を落としながらつげる。


「いもうと。大好きだよ」


 すると妹は切なげな顔で「私も大好きだよ」と笑った。


 私たちはずっと姉妹のままなのかな……。もしも劇でしたみたいに、恋人になれたら、どれだけ幸せだろう。そんなことを考えていると、やっぱりいいなって思ってしまう。


 いもうとと、恋人。


「ね、ねぇ、いもうと」


「……な、なに? お姉ちゃん」


 私は勇気を振り絞って告げた。かつてないプレッシャーを伴う告白だった。


「わ、私、いもうとのことが好き。だからっ、私と付き合ってくれませんかっ?」


 いもうとは目を見開いてまん丸にしていた。だけどすぐに笑顔で「はい」と頷いてくれる。でも私はプレッシャーのせいでまた幼児退行してしまっていた。


「いもうと。甘やかしてぇ……」


「もう。お姉ちゃんは本当にお姉ちゃんなんだから……」


 いもうとは微笑みながら、私の頭を撫でてくれる。


 私は幸せな気持ちで、いもうとと微笑み合った。

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