第3話 最後の賭け
殺し殺されの脱出デスゲームが始まった。
俺達はサブマシンガンを持って敵を追いかける。
「チェーンソーとかのが雰囲気出るんじゃね?」
「馬鹿者、リーチが命じゃ」
このデスゲームの賭け要素はそもそもゲーム性を帯びているという点にある。
このゲームは加点式で逃亡者側が強化される仕組みになっており。
一人でも逃げ切れば勝ち、逆に全員捕まえれば俺達の勝ちという要素こそが最大の賭けとなっている。
用いるのはクソ野郎が残していった武器。
それの使用を許可したための弊害yは反撃の機会を与えてしまう事だ。
デスゲームとして運営側の有利たる部分を消している状態。
一方的な武器の使用は賭けの要素を薄めてしまうため運営側のフェニックスから却下された。
大量の魔王と人間相手に二人がかりで挑むのは正直、苦だ。
なので天空ドームを迷宮化することで、そのバランスを取った。
そこでようやく気付く。
「ライブラの能力って、バランスを取る事なのか?」
「ようやく気付いたか馬鹿者め。それこそ絶対の魔王の所以よ」
魔王の権能、その一端こそ絶対の均衡。
「……良し悪しだな」
「なぬ」
賭けにおいてバランスはこちらに傾いている状態がベストであり、常に均一なのは厄介である。
だがまあ、勝利の女神は確実にライブラだ。
この機は逃すわけにはいかない。
そしてこのデスゲームは同士討ちを許可しており、加点方式の中に組み込まれている。そう逃亡仲間は仲間ではない。これはデスゲームに見せかけたバトルロワイアルなのだ。
「まあしばらく高みの見物と洒落込もうや。動きあったら教えて」
俺は眠りの姿勢に入る。
スナイパーライフルを構えたライブラは飽きれた様に溜め息を吐くと、周囲の警戒を始めた。
しばらく眠る。
夢を見た。
子供の頃、友達と賭け事をした。
賭けは駄菓子を奢るくらいのものだったが。
一度も負けたことはなかった。
だけど一度だけ。
鬼ごっこで負けた事があった。
それが今の現状と重なって。
冷や汗を掻いて目を覚ました。
「……現状は」
「半数が同士討ちで減った、残りは二十組」
「ふぅん、まだ減らせるな」
「お前が設定した加点システムのせいで敵はだいぶ強化されてるぞ!」
心配はいらない。
絶対の魔王の権能がバランス調整だと知った俺は、敵の強化は大したことではないと判断した。
このゲームはライブラの権能により運営つまり俺達と参加者に対するアドバンテージは互いに打ち消し合っている状態だ。
つまり、最後に勝負を決めるのは。
「運だ」
「この賭け狂いが!」
「ははは、褒めるなよ」
「馬鹿者が!」
盛大に頭を叩かれるが気にせず俺は再び眠りに就く。
今度は夢は見なかった。
「おい起きろ!」
「残り人数」
「二組!」
「出るぞ」
俺達は戦場に躍り出る。
残った魔王と人間のタッグは――
「運命の魔王レミアとその配下、そして究極の魔王アルメとその配下じゃ!」
なんかヤバそうな名前。
気にせずサブマシンガンを構えて進む。
銃に関してはトーシロだが、そこはライブラの権能にあやかろう。
二人組に遭遇する。
「レミア!」
こいつがレミア、羽根を生やした黒い天使。相棒は冴えないサラリーマン。
「行くわよ」
レミアが相方のリーマンに声をかける。
持ち武器は……なんだあれ?
「レーザーガンじゃ! 強化されとる!」
バランスとは。
普通の銃器とSF兵器との格差など推し量るまでもない。
だけど、これは賭けだ。
このデスゲーム自体が賭けの対象になっており。
ライブラが権能でバランスを取り。
俺は生粋のギャンブラー。
勝機は確実にある。
「レーザーガンにはクールタイムがある。そこを狙う」
「一発目は? 光速なんて避けられんぞ!」
「本当にそうか? レーザーガンにも銃口はある、相手の姿勢、運動を見ろ、光線は真っ直ぐ飛ぶ。予測は出来る」
「予測出来ても光速で――」
そんな禅問答を繰り返す前に、俺はリーマンが放った光線をかわして見せた。
「クールタイムだ! ライブラ狙撃頼んだ!」
「ええい、ままよ!」
スナイパーライフルでリーマンの額を撃ち抜くと。
相方のレミアは黒の手に引きずり込まれて消えて行く。
残るは究極の魔王アルメ。
俺は天空ドームの迷宮化を解除して平地に戻す。
露わになる究極の魔王アルメ、銀髪金眼の相貌、
気圧される。
持ってる武器は見た事も無い形状をしていた。
限界まで強化したキメラ兵器と言った感じ。
相方の金髪碧眼の少女はおどおどとしている、
持ってる武器はおっかないが。
しかしデスゲームはここで終わりだ。
「生き残りおめでとう」
「……なんのつもりだ」
「これからは最終ラウンドだ。元々デスゲームの勝利条件は一組生き残る事、だから。まずは勝者に得点だ」
そこに積まれたのは札束と金のインゴット。
「報酬はこれで十分か? 生憎、魔王の価値観は分からなくてな」
「ふざけているのか?」
「いんや? 馬鹿正直だぜ?」
一瞬で燃える金とお札。
アルメの逆鱗に触れたらしい。
「最終ラウンドとやらの説明をしろ」
「武器を使う、総力戦、その要素は満たした。だけど俺的にはギャンブル要素が不十分なんだよ。だから、最終ラウンドは賭けだ。コイントスをしよう」
アルメの額に青筋が浮かぶ。
「どこまでもいい加減で、気に食わん、そこまで賭けに興じてなにが楽しい」
「サガなんだよ、止めらんねぇ、だから、死ぬまで楽しむ」
「ならばそのコイントスとやらで死ね」
「お前がトスしていいぜ、運営、コインを」
アルメの手元に表に花が、裏に髑髏が描かれたコインが現れる。
「これを投げて手で受ければいいのだな」
「ああ、隠す形でな、それで俺が表か裏か言う、当たれば俺の勝ち、外れればお前の勝ちだ」
「時間をかけるのもしゃらくさい、行くぞ」
放物線を描くコイン。
手の甲で受け取るアルメ。
「表だ」
開いた先にあったのは――花のマーク。
「――なんともつまらん結果、だ」
黒い手に飲み込まれる二人組。
それを見届けると。
俺ら以外の参加者は全員消えた。
フェニックスが宣言する。
『第百回魔人杯の優勝者は蓮&ライブラです!! 貴方達には世界を支配する権能が与えられ、そして、魔人ワンとの戦闘権が与えられます!』
魔人ワン?
世界を操れるとは魅力的だが、魔人ワンとはなんだ。
「魔人ワン、それは規則的に現れる超常的存在、世界を破壊する者、それを撃破するための、魔人杯なのだ」
――つまり、これは侵略者から世界を守る者を選ぶための選抜式だったということか。
「いいぜ、ここまで乗った船だ。ライブラ、俺の魔王、二人で倒そう、魔人ワンを」
「いや……それは我の我だけの役目だ。お前は世界を守れ、羽須美蓮」
「ライブラ?」
「お前と過ごしたとても短い時間、とても楽しかった。ありがとう」
「ライブラ!」
二人の距離が遠ざかる。
天空ドームから俺だけが落ちていく。
ライブラを残して。
――いや、まだだ。
「フェニックス! 最後のゲームに勝った報酬を使わせろ! 魔人杯のルールに魔人ワンと戦う権利を俺にも寄越すように追加しろ!」
『かしこまりました。あなたがたの戦いが勝利で終わる事を願います』
「俺は必ず賭けには勝つ、待ってろよライブラ!」
迎えに来た不死鳥の背に乗り、俺は天空ドームを目指すのだった。
ライブラと共に戦うために。
それがどんな苦難であろうとも。
二人なら『絶対』勝てる。
これまでも、これからも。
そういえば、賭け事以外でこんなにも心が動いたのは初めてだった。
「……そうか、好きな相手のためなら、自分の全部を賭けないと、だよな!」
天空ドームを包む雲の上、巨大な影が見えた。
あれがきっと魔人ワン。
それに向かう一条の光、ライブラだ。
不死鳥に乗って追いかける。
驚くライブラを後目に二人は魔人ワンに向かう。
勝敗なんて聞くまでもない。
俺は賭けには絶対勝つ男だぜ?
有り金全部すっても、命だけはすらなかったとだけ言ってくよ。
完
魔人杯~魔と人と杯~ 亜未田久志 @abky-6102
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます