第2話 廻る弾倉
第三回戦。
俺とライブラ対累とレガルティア。
絶対の魔王をもってしても歴戦と呼ぶ魔王。
そんな相手に向かって武器を持って挑めと言う。
馬鹿な賭けもあったものだと思う。
だけど俺は、こいつにだけは負けられない。
「累、今度は負けねぇ」
「レン、君のそういうところ嫌いじゃないよ」
視線が交差する。
レガルティアが唸る。
「殺させろ! わらわは血に飢えている!」
「まあまあ待ってレガルティア、血ならさっき浴びたばかりじゃないか」
「足りぬ、足りぬわ!」
さて。
こいつらにどう勝つか。
宣戦布告を受けたのはこちらなので。
戦いのルールはあちらが決める事になる。
さらにそこに魔人杯のルールも乗っかる。
武器の使用と賭けの要素。
こいつらは一体、何を仕掛けてくる?
「そうだな、勝負は……ロシアンルーレットと行こうか」
その微笑みに何度騙されてきたことか。
しかしロシアンルーレットならば条件を完全に満たしている。
武器を使用し尚且つ賭けの要素もある。
「乗った」
「……我は絶対の魔王ライブラ、負けはせぬ」
「わらわを前に絶対を名乗るか小童の魔王が!」
「あんまりいじめてやるなレガルティア」
虚空から俺達の手元にリボルバー銃が現れる。
『不正の無いよう、銃器はこちらで手配しました』
「さすが幻想、用意がいいな」
「余裕そうじゃないかレン? 勝てるとでも?」
「勝てるさ、勝ってやるさ、今度こそ!」
「君の不屈さには恐れ入るなぁ!」
下卑た累の笑みも意に介さず俺はこめかみにリボルバー銃を当てる。
引き金を引いていく。
まるで作業かのように。
回る弾倉。
カチカチとまるで時計の針のように音が進み。
そして。
「ジャスト五回だ」
六発中五発を撃って俺は生還した。
それを見て冷や汗を掻く累。
「おいおい……もう自分の分は終わったてのかい……君、なにをした?」
累はライブラの方を見やる。しかしライブラは。
「天秤は我が配下に傾いた。それだけの事」
そして。
「次はわらわの番か!」
リボルバー銃をこめかみに当て一発目で頭から血と硝煙を放つレガルティア。
「痛いのう……これでいいのか?」
「化け物……」
ロシアンルーレットのルールは『生きていれば勝ち』だ。
銃弾が出ても生きていたのなら勝利になる。
これで五分。
残りは累とライブラだ。
今度は累がこめかみに銃を当てる。
「先に言っとく、ボクの銃弾は四発目だ」
引き金を引く事、三度。
最後の四発目を地面に向かって発砲する。
すると天空ドームの床に穴が開く。
銃弾が飛び出た証拠だ。
「あとはレンの相方だけだけど?」
果たしてライブラにレガルティアのような不死身性はあるのだろうか。
そもそも勝てるのか。
疑問があった。
だけど、俺は宣言した。
「俺の魔王様は絶対に勝つ。絶対に、だ」
ライブラがこちらを見やる。
俺はそれを見つめ返し頷く。
絶対の魔王は震える手でこめかみに銃を当てた。
「天秤は我に傾いている」
「アハハッ! 手がぷるぷるしちゃってさぁ! おっかしいなぁ、はぁ、可哀想だからやめさせてあげれば?」
累の戯言など無視する。
俺はただライブラを見つめていた。
俺達はなんの関係性も無いただの抱き合わせだ。
だけど、そんな素敵な偶然に賭けてみたい。
きっとそれを人は奇跡と呼ぶのだから。
引き金が一回引かれる。
空回る弾倉。
生きていることにほっと一息つくライブラ。
しかしあと何発撃てばいいか分かっていない様子だった。
手の震えは加速する。
銃を落としてしまう少女。
死。
彼女は死を恐れている。
ライブラに不死身性は無い。
そう確信すると俺は落ちた銃を拾い上げると。
ライブラの額に銃口を当てた。
「は、羽須美蓮……?」
「俺が撃つ、いいなライブラ」
「ひっ」
「おいおい、そりゃルール違反じゃ……」
いや、これはルール違反じゃない。
これは個人戦じゃなくてチーム戦。
俺が撃つ分には問題無い。
そう運営側も判断したのか、フェニックスも何も言っては来ない。
「はよ血を見せろ」
レガルティアの煽り。
俺は――再び弾倉を親指で回転させた。
その行動にレガルティア以外の人間、魔王が驚いた。
「お前、何を」
「いいから」
これで銃弾の位置は分かった。
せっかくの一発をリセットしたかのように見せた行動は銃弾の位置を重みから計算するためのブラフ。
そして勝ちを絶対にさせるための策。
「先に言っておく、五発だ。六発中五発撃って勝つ。文句ないよな累!」
「……無理だ」
「いいや絶対出来る」
「わらわは構わぬ。さっさと血を見せろ」
「おいレガルティア!」
するとレガルティアの眼光が鋭くなる。
「累、上下関係を間違えるなよ、わらわが魔王で貴様が配下だ。策士気分だったんじゃろうが。それもここまで。ここからはわらわの勝負」
「……勝手にしろ」
累は見るからに不貞腐れる。
昔からそういう奴だった。
主導権を握らなけば満足できない人種。
そんな人間だった。
俺は引き金を引いていく。
一発目。
震えるライブラの前で弾倉がカチリと音を立てて回る。
二発目。
「ひっ」
三発目。
「……お前、もう」
四発目。
「や――」
五発目。
崩れ落ちるライブラ。
俺は天上に向かって発砲した。
弾丸が飛び出し天井を突き破ったのを確認する。
「俺の、俺達の勝ちだ。累」
空発数は合計、十発。
向こうは一発、本命を引いている。
誰がどう見ても勝敗は明らかだった。
「不正があった」
「どこに」
「君は親指で銃弾の位置を確認した!」
「証拠は」
「そんなもの!」
「証明できないなら――お前の負けだ」
昔、累の借金の連帯保証人になった事があった。
賭け仲間の累は「今度勝って返す」と言って姿を消した。
親友、そのはずだった。
黒い手が床から伸び敗者を地面へと引きずり込もうとする。
それをただ在る様に受け入れるレガルティア。
そして、累。
「どうして、君は」
「さあな、地獄で会ったら話してやるよ」
多分、言葉の続きは「そこまでクズなんだ」だろう。
そんなこと知れている。
俺は生まれつきそういうものとして生を受けた。
俺が俺である理由。
それが賭けである以上、俺は一生クズなのだろう。
それで構わない。
俺の存在証明は俺でする。
目の前の少女に手を差し出す。
「大丈夫か、俺の魔王様」
「お前、許さんからな……あっちょっと待って立てない」
腰が抜けたらしい。
俺はもう過去は見ない。
命をはった大一番は終わった。
さあルールを加えよう。
『だ、第三回戦、勝者は蓮&ライブラのタッグ! ルール追加権が与えられます!』
「さっそくだがルール追加だ」
『は、はい、なんでしょう?』
「残る全員で俺達にかかって来い。総力戦だ」
正気の沙汰ではない。
狂気に踏み入れるくらいが面白い。
賭けってのは常に全額レイズで行かなければ。
命を賭けてるなら尚更だ。
ライブラがポコポコとへっぴり腰で俺を叩くが気にしない。
まどろっこしいのは性に合わない。
残り四十数組、全員まとめて叩き潰す。
「勝負内容は、生き残りを賭けた脱出デスゲームだ! 俺達から逃げきれるかお前ら!」
勝負は始まった。
勝つのは俺達だ。
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