大文字伝子の休日29

クライングフリーマン

大文字伝子の休日29

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。

 物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。

 依田俊介・・・伝子の翻訳部後輩。元は宅配便配達員だったが、今はホテル支配人になっている。

 依田(小田)慶子・・・依田の妻。ホテルコンシェルジュ。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。

 南原文子・・・南原龍之介の妻。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。

 南原蘭・・・南原龍之介の妹。山城の婚約者。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 服部コウ・・・服部源一郎の妻。

 藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。料理教室経営者。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 青木新一・・・ある事件で知り合った、高校生。中山ひかるの友人でもある。Linenを使った捜索には、自信のLinenグループを使って、EITOに協力をしている。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。警視庁とEITOの連絡係。エレガントボーイとして、現場に出ることもある。


 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =


 午後1時。伝子のマンション。

 「DNA鑑定?」と、物部が驚いた。高遠は、いつものように、集合可能なメンバーで、Linenでメンバー会議をしていた。

 「つまり、大西議員を懲らしめませんか?というネットの募集に応じて応募して、怖くなって警察に相談した、という人物、佐々木龍なる人物は、偽物かも知れないと思ったんです。面談して警護月の囮捜査に協力してもらう約束をして貰った警察官は、久保田管理官に事後報告したけれど、彼の家に出向いた時に、健康保険証でしか本人確認をしていないんです。副部長もご存じの通り、今はパスポートや運転免許証だけでなく、お名前カードを本人確認証に使用する時代です。お名前カードは?という質問に、件のシンキチ騒動で怖かったからまだ作っていないと答えたそうです。」

 「つまり、高遠は『偽物』の振りをした『本物』のマフィアが、一般人の『替え玉』になって現れた、と言いたい訳だね。」と、福本が言った。

 「ややこしいわねえ。で、結局どうなの?」と祥子が言った。

 「ヤサ、つまり、佐々木の住居が分かっているので、警察官が行ってみると、一軒家の玄関は施錠されておらず、窓も施錠されておらず、だった、と。近所に聞き込みをしたら、人付き合いがあまりなく、顔が分かる人はいないようでした。井関さんの申し出で、家捜しした中で異臭のする場所があったので、久保田管理官の判断で、床下を調べたら、白骨死体が出てきた。」

 「詰まり、佐々木本人は殺されて埋められていた?ってことですか?」と、慶子が高遠の説明に口を挟んだ。

 「うん。半径3キロ以内の歯科医院に問い合わせして、治療した歯は遺体の頭蓋骨のものと一致した。更に、運転免許証とお名前カードのデータを参照したら、運転免許証の方で当該データがあり、実家の住所も判明したので、実家に協力して貰い、血液型とDNA鑑定で、本物の佐々木だと確定した、ということです。」

 「じゃあ、警察に申し出てきた人物は、誘拐犯の振りをしたんじゃなくて、募集した本人?いや、募集も無かった、とか。」と。今度は依田が言った。

 「今日のヨーダは冴えてるね。警視庁に申し出てきたので、警視庁にあるサイバーセキュリティー班が調べたら、ここ2ヶ月間に該当の募集投稿は、どのSNSにも無かった。そもそも、大西議員が国会を空転させていたのは、最近のことだろう?」「ああ。」

 「ひょっとしたら、もう新しい敵が現れて、ってことですか、先輩。」と、蘭が言った。

 「高遠さんの推理によると、所謂『幹』が同時に動いている、ってことですか?」と南原が言うと、「職員室に来た、偽物佐々木が新しい幹?」と文子が言った。

 「大西議員は、最初から殺す積もりだったんですか、高遠さん。」と、服部が言った。

 「その通り。闇頭巾が失敗しても良かったんだよ。自分で始末する気だったから。」と、高遠が言うと、「ちょっと待って。じゃあ、ひかる君と親しかったトランスジェンダーも、協力していた、っていう母親も、偽物佐々木に会ったことが無くて、欺されていた、ってことかしら?」とコウが言った。

 「いや、そうとは限らない。飛躍しすぎだよ、コウさん。彼らが仲間を売る訳がないからね。」「ごめんなさい。」と、コウが謝ったが、

 「気にしないで。」と高遠はなだめた。

 「大文字。高遠。何故ひかる君がおかしい、と思ったんだ?」と物部は尋ねた。

 「副部長。サプライズ卒業式のことを、彼が言ってきた時、妙にはしゃいでいた。有名人が来るってことだけにしてはおかしい、と思ったんですよ。」

 「それにな、物部。ひかる君はEITOのことをある程度しゃべってしまったらしいんだ。つまり、EITOにコネがある、と。いつも慎重な筈のあの子が、おかしいなと思った。以前、辰巳君が、デートを目撃した、って言ってただろう?それで、ひかる君の周辺を夏目リサーチに問い合わせるように、学に言っておいたんだ。」と、伝子が言った。

 「そしたら、お相手は、スタンダードの『彼女』ではなく、トランスジェンダーだと分かった。自信は無かったけど、もし洗脳されてても、彼女への愛情からでも、彼女に言いなりになっているとしたら、目覚ませなければ、と思った。僕が思いついたのは、アナグラムだった。見事に彼は全て解き、冷静さを取り戻した。それで、伝子に言って、罠をしかけた。ああ、大西の件は、実は総理から相談を受けたらしい。ね?」

 「もし、暗殺されたら、論戦をしている武智大臣が疑われる。総理は任命責任を問われる。結局、殺されて、武智議員は誹謗中傷を受けている。」と、伝子はため息をついた。

 伝子のスマホが鳴動した。

 「総理から、SP応援の要請だ。稲森達に行かせよう。テロ防止だ。」と言い、伝子は、なぎさに電話をした。

 午後1時半。伝子が電話を終えると、高遠はLinenを終了させていた。

 「出撃する?」と高遠が言うと、「今日は、このまま待機だ。」と、伝子は自分の PCに向かった。このところ、本業の翻訳は作業が止まったままだった。

 高遠も、自分の本来の作業、小説の電子ファイルを書き始めた。

 最近、部長である蘇我の墓参りに行けていない。伝子には、なかなか言いづらい。

 福本達に依頼はしているが、高遠は気になっていた。

 午後3時。二人が休憩していると、綾子と藤井がやって来た。

 「おやつ、食べる?」と綾子が差し出したのは、あべかわ餅だった。

 「珍しいですね。今、お茶炒れますね。」と、高遠は台所に向かった。

 「伝子、無理してない?」」「大丈夫だよ。昨日だって、皆に任せて指令出してただけだったし。」綾子の問いに伝子は応えた。

 「ドクターの命令は絶対よね。それで、日向さんだっけ?どうなの、具合は?」

 「『断裂』までは行って無かった。リハビリは時間がかかるかも知れない。エマージェンシーガールズのコスチュームは、防弾チョッキのような働きもする。」

 「ワンダーウーマンの時とは違うのね。」「ああ。全然違う。」「実はね、今朝、日向さんのお母さんが来られたの。」

 「え?そうなの。で?」「クレームかと思ってビクビクしたけど、娘が心配だって話だけ。おじさん、つまり、お母さんのお兄さんが海将なんだってね。あの子は、オジサンっ子だから、簡単に自衛隊に入っちゃって、って泣いて。ああ、あべかわ餅、お土産なの、日向さんの。」

 「じゃあ、お義母さんのところへは愚痴こぼしに行ったんですか?」「そんなところね。伝子、あの子、復帰したいみたいよ。出来るの?」「そりゃあ、本人次第だよ。まずは治療次第だな、その話は。」

 「田坂さんの例もあるしね。お義母さん、田坂さんのお母さんは復帰に猛反対でね。臨時要員として、準隊員になってから、本人のやる気を見て復帰を許したんですよ。こういうことは時間がかかるんですよ。」

 「時間が解決するってやつね。」と、横から藤井が言った。

 「そうね。」とあべかわ餅を頬張りながら、綾子が言った。

 「明日、新しい隊員が3人来るそうだ。落ち着いたら、教えてあげるよ。」

「今日は、優しいのね。」「今日は?一言多いんだよ、クソババア。」

 藤井がクスクス笑った。「始まった始まった。」

 高遠も釣られて笑った。高遠のスマホが鳴動した。高遠はスピーカーをオンにした。

 「ああ、青木君。どう?ひかる君の様子は。」「僕と同じ境遇になっちゃったから、かえって、話を合わせやすくなったよ、高遠さん。2日に1回はゲームすることになった。それと、彼が入る大学は寮があるらしいんだ。寮に入る手続きしたって。」「そうか。良かったね。わざわざ電話ありがとう。」「ううん。それじゃあ。」

 スマホを切ると、高遠はコーヒーを入れ替えに立った。

 「良かったね、伝子さん。ナイーブな年頃だからねえ。」と高遠が呟くと、筒井が入って来た。

 「確かにな。これ、新しいバトルスティック。」と、筒井は伝子に新しいバトルスティックを渡した。「どこが違うんだ?」「発信器が追加された。ああ、大西議員。やっぱり轢き逃げだった。ブレーキ痕がない。スマホがないから通信記録もない。ただ、目撃者が現れて、ドライブレコーダーの画像を提供してくれた。迷うことなく撥ねている。」

 その時、EITO用のPCが起動した。画面には理事官が難しい顔を見せている。

 「EITOのNew tubeチャンネルのコメント欄を使って、挨拶、いや、挑戦状を突きつけてきた。文面はこれだ。」

 画面に、コメント内容が映し出された。

 《

 やあ、君たちにいい知らせと悪い知らせだ。闇頭巾が定年退職したので、若手の私、ブラックスニーカーが引き継ぐことになった。これでも正統派だ。予告やヒントはあげるよ。今度の作戦は大阪と東京同時攻撃、いや、同時侵攻だ。日時?まあ、一日前なら教えてもいいが、僕は少し気まぐれだからなあ。でも、安心したまえ。計画変更はしない主義だ。大阪府民と東京都民以外は、枕を高くして寝ていいよ。今のところはね。また逢おう!!

 》

 「私、きらーいい!!」と、藤井が言い、「私も。」と綾子が言った。

 理事官は、にっこり笑って「私もだ。」と言った。画面は消えた。

 「好き嫌いで済むかよ。」と、伝子は言い、高遠の手を握った。

 「ダーリン、守ってね。」「うん、伝子。」

 それを見た綾子は「私、きらーい。」と言った。

 皆で吹き出した。

 ―完―



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