第15話 再会

炎に包まれた城内。

柱から柱へ、床から床へと燃え移り、朽ちていく藤の城。

多くの忍装束を着た少女たちが床に倒れている中で、一人の男と龍が立っている。

「馬鹿な……、たった二人に……」

「案外何にもないんだな。てっきり奥の手でもあると思っていたんだが」

血を払い、刀を鞘に納めながら、男は最後の一人へと視線を向ける。

「さて、ヤクモ姫はどこに行ったのかな」

「私は占鏡様に仕える身だ。殺したければ殺すがっ」

話し終わる前に最後の忍の命は潰えた。

龍の一口によって、上半身を食いちぎられたのである。

「さて、向こうは上手くやってくれてるかな」

柱が折れ、天井が崩れていく。奥へと歩いていく背中は黒煙で段々と薄れていく。


・ ・ ・ ・ ・ ・

路面電車に乗る前の事である。

「先生」

「どうしたの?」

「ヒトミちゃんたちの体調がよろしくないようで、ここに居てよろしいでしょうか」

今朝より体調の優れない羅生姉妹を気にしていたケイからの提案だった。

ここ最近はまともな休みも取れず、気の滅入るようなことばかりだった。

「うん、ヒトミたちのことお願いするね。メノたちはどうする?」

「ヒトミたちの事は心配だけど、先生の護衛もいなきゃだからな。私は行くぞ」

「新撰組との戦いになるかもしれないしな。うちも先生と行くわあ」

そうして、留守組と護衛組に分かれ、メノ・ミコト・アズキ・美月・ハルノ・ソラで椿の国へと向かうことになった。

電車に揺られながら向かう最中、皆の表情は重苦しいものだった。

中でもアズキは一段と落ちつかない様子である。

「心配だよね。行っても大丈夫だよ?」

「……ありがとうございます、主様」

俯き、考えた様子のまま数十秒。ソラからの言葉を聞き、懸命に笑顔を作る。

「藤には優秀な忍が沢山いますから!大丈夫です!」

強がりなのは見てわかる。だからと言ってこれ以上心配することはストレスになる。

ソラは静かに「そっか」と流し、白い天井を見上げる。

――無名は今もどこかで苦しんでいるかもしれない

ふと、可能性に過ぎない悩みが脳裏を離れない。

それでも、それでも進まなければいけないのか……。

何を守るために、何の為に、この先に一体何があるというのだろうか。

ハルノがいう滅びの運命とは何なのか。帰る事は出来るのだろうか。

マイナスからマイナスへループする思考。段々と気持ちも表情も沈んでいく。

「こらっ!暗い事考えない!」

ハルノに頬を叩かれ、咄嗟に体が飛び上がる。

ぼーっとしたままの眠っていたかのような状態から、心配そうに見つめるハルノの顔が見える。

「あっ、ごめんなさい。つい癖で」

「癖……?」

「ええ、貴方にそっくりな人が居てね。特に今の表情なんて鏡かと思ったわ」

「そうですか……」

「馬鹿でいなさい。悲しみや苦しみと真剣に向き合っても良い事なんてないもの」

「でも……」

「否定しない。悲観しても好機は転がってこないわよ」

――何も知らない癖に

「!?」

自分に驚いた。正確には、自分から湧き上がってきたこの負の感情に驚いた。

自分に優しく励ましてくれている人への言葉に、なんとおぞましい言葉を。

「いいのよ。人は呪いを抱える生き物。他者を根本から拒絶する宿命なの。だから、沸き上がる呪いすら拒まないであげて」

「私は何も……」

「顔を見ればわかるわ。確かに、貴方の痛みや苦しみを理解する事はできない。だけど、理解出来ないから手を差し伸べない訳でもないわ」

――目の前に居るのは本当に人間なのだろうか

どこか神々しさすら感じる精神性。人離れした達観的視野。どこか恐怖すら感じる。

「思い違いでも勘違いでも、自惚れでも上等よ。貴方も導く人なのでしょう?」

「……ええ」

「誰かを導く者が、間違えた道に進むこともある。だけど、間違いを受け入れた上で正しい道を模索する者こそ、真の先導者」

――説法

そう、まさに仏の道。彼女のいうそれは悟りに近い印象だった。

人が追うにはあまりにも遠い理想。人がたどり着くにはあまりに果てしない心。

「随分と偉そうに、亡霊風情が」

聞き覚えのある声がハルノの声を遮る。

「あら、貴方だって大概じゃないかしら贋作さん」

声の方へと視線を向けると、そこにはいつかの敵が座っていた。

「千寿ツクヨ……!」

「昨夜ぶりだな変数。元気にしていたか?」

――誰のせいで

一瞬吹き出す怒りの感情を冷静にする。

新撰組の件は彼女の知る所ではないのだろう。

戦う意味があったのかは気になる所であるが……。

「椿の国が襲われているのに、随分とのんきだね」

最大限冷静に務めた上での皮肉。何より、冷静に考えれば彼女が何故ここにいる。

(マコトに首を刎ね飛ばされていたような……)

「確かに非常事態だ。しかし、私は今戦えないものでな」

話をしながら何やら紐で結ばれた箱を開き始める。

中には梅しそご飯と酢豚。焼き鮭と金平ごぼうと色鮮やかな食べ物がはいっていた。

両手をあわせ、割り箸を綺麗に割るともぐもぐと食べ始める。

「ふぉこできさふぁらにふぁすけてふぉらおうとおもってな」

「飲み込んでから話しなさい」

「ふまない」

そのまま数秒もぐもぐと頬袋を膨らませ、咀嚼し飲み込む。

話を始めるかと口を開いたと思えば再び箸を運ぶ。

「きさふぁらに」

「食べてからでいいわよもう!」


――To be continued.







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