第14話 不撓不屈
突如として現れた桜模様の着物を纏う女性。
ソラの手を掴んだかと思うと、窓ガラスに肘を打ち付け、そのままに飛び出す。
「えっ!え?えええええええええええ!」
そのまま二階から飛び降り、尻から地面へと落ちていく。
「絶対痛いやつ!」
しかし、衝撃は来なかった。
着地する瞬間にエアバックが敷かれていたかのようにふわりと跳ねたのだ。
それと同時に桜の花びらが数枚舞う。
「順序よく解決していくから貴方たちも手を貸して頂戴!」
まだ二階から眺めたままの美月とアズキに声をかける。
「私、戦いはからっきしなの!なんとかして!」
あまりに清々しい他力本願の姿勢。一瞬肩を落とすも、二人もすぐに降りてくる。
「主様、このお方は一体……?」
「さ、さぁ……?私が聞きたいくらいなんだけど」
言葉全てに強い意志を感じる光を体現したかのような女性。
気が付けば彼女のペースへと持っていかれてしまう。
「こら!作戦会議なら私も混ぜなさい!何にも出来ないけど!寂しいじゃない!」
(う~ん)
前言撤回。嵐のような女性かもしれない。
「解決と言ってもこの数は……とてもじゃありませんが」
「そうね。微小な呪いや霊魂を基盤にほぼ無限に湧き出てくるでしょう」
「……」
刻一刻と襲われていく住民たち。逃げ惑う人々と共に建物も破壊されていく。
「梅の姫はなんでこんなこと……」
「……まあ、誘き出しでしょうね」
少し考えこんだかと思うと、女性は全身が膨らむ程深く息を吸う。
「出てきなさーーーーーーーーーーい!マコトーーーーーーーーー!」
想像以上に小さかった。
普通の声の方が大きいかもしれないくらいに小さかった。
(そもそも、こんな呼び出してきてくれるなら誘き出しとかなんて……)
「はいは~い。マコトちゃんですよぉ~」
来た。
びっくりするくらい自然に現れた。
ソラの隣に無から湧き出たように立ち、どうしたのかとこちらを見つめている。
「今すぐ退却させて頂戴!」
「うちかてこんなことしたないわぁ。おたくんとこの引きこもりなんとかしてやあ」
「……そっちは私たちがなんとかするわ。今はとにかく引き下げて」
「二言はないで。なんで出て来たか知らんけど、このままなら殺すで、あの子」
そういってマコトが手を叩くと同時に弾けるように妖怪たちは姿を消した。
「それに、あの捻くれ探偵についてもそうや。おたくのせいで偉い迷惑しとるんや」
「……」
「こっちかて本気。あんまり邪魔されるとうち、怒ってまうわあ」
柔らかい口調ではあるが、その視線はナイフのように鋭い。
表情も笑っておらず、睨みつけるように女性を見上げている。
「2日や。2日だけ待ったる。それ以上は待たへん」
マコトは黒い粒子と共に姿を消した。
「十分すぎるくらいよ。今日で全部終わらせてやろうじゃない」
その後、皆で街を巡り、状況を確認した。
街は損害を受けたが、怪我人や死人は一切出ていないとの事。
マコトは本当に誰かを呼び出す為だけにここを襲ったのだろう。
しかし、それでも目的の人物は現れなかった。
「さあ、とりあえず一つ目はなんとかなったわね!」
先ほどの重苦しい表情は消えており、満面の笑みで振り返る。
「貴方は……?」
「そうよね。自己紹介もしていないもの。」
ソラの手を握り、しばらく沈黙のまま見つめ、話を始める。
「私は
「……」
屈託のない笑顔。一切冗談を言っているつもりはないようだ。
「椿と藤、どっちも大変でしょう。だけど、私たちが急いでも、事が起きた今では間に合わないでしょう。一先ず路面電車の停留所に向かいながら、説明でもさせてもらうわ」
・ ・ ・ ・ ・ ・
自然豊かな桃の実る楽園。
かつては天使の座を冠した学園だったそれは、恒久の平和と安寧の日々を願う姫たちによって空想の理想郷・桃源郷を目指して桃楽龍宮と名づけられた。
しかし、理想は理想。現実に恒久の平和は叶わなかった。
地域格差による食料と資源問題。統治する姫による思想の違い。今を生きる者と永遠を生きようとする者に別れていき、やがては誰がこの楽園を導くに相応しいか争うようになっていった。
「それが、五華戦争」
「でも、桃楽龍宮は……」
「本当は藤の姫から話して貰うのが一番なんだけれど、まあいいわ」
そういってハルノは立ち止まり、こちらに振り向く。
風が吹き、彼女の紫色の髪がなびく。
「かつての星・ヴァリアスは滅びの運命にあります」
「!?」
桃楽龍宮の話をしていたはずが、自分たちの住まう話になっていた。
「その運命は避けられない。定められた運命から逃れる為に、ここは創られた」
「……」
「でも、それは事を早めたに過ぎなかったわ」
「それはどういう……?」
「定めから逸れても、必ず修正者が現れる。新撰組がそれよ」
無名が服部と呼んでいた男の顔を思い出す。
「死ぬはずだった命を狩り、滅びるはずのものを滅ぼす。運命の番人」
「しかし、彼らもまたこの時代の人間。どうして彼らがそのような任を?」
アズキが真剣な顔つきで尋ねる。
「それは私にもわからない。でも、彼らを倒さない事には未来はないわ」
「……」
「さあ、電車が来たわ。行きましょう」
リョウマの方には触れる気にならなかった。
意図してそうしているのか、彼女によってそうされているのか。
ソラたちは路面電車へと足を乗せ、再び椿の国へと向かうのであった。
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