決意1-2
「こっちの条件を飲んでくれるなら、虹に協力してやらなくもない」
ひねくれた俺は、交換条件しか出せない。
呆れたあいつの顔が浮かぶ。
「条件?」
「虹に探偵として協力する代わりに、俺が追っている事件を解決する為の手を貸してほしい。この条件を飲んでほしい」
「蓮。良いのか?それは……」
事情を知っている元博に肩を掴まれる。
同じように協力関係にある宮野も、心配そうに見つめてくる。
「手は多い方がいいから」
「詳しく聞かせてくれないか?蓮が追っているという事件について」
俊矢の問いに頷く。
手は自然と、胸の桜に伸びていた。
「俺には弟がいた。名前は瞬。歳は七つ下。俺に似て生意気で、でも元気な自慢の弟だった。このパーカーは俺の誕生日に瞬がくれた。桜の刺繍も、瞬がやったんだ」
そう、あの日までは。
大切な弟だったのに。
これが、最期の誕生日プレゼントになってしまった。
「一四年前、瞬は死んだ。何者かに殺害されて、たった七歳で死んだんだ」
「殺された……?」
頷き、財布から折りたたんだ新聞記事を取り出す。
もう何年も握りしめていたからボロボロだ。
「事件の翌日の新聞記事だ。当時は大々的に報道されたが、二ヶ月も経つ頃には人々から忘れ去られていった」
「その時期に起きた事件なら、小学一年生下校時殺害事件、だったかな。僕もほんの少しだけど、捜査に参加したよ。直後に起きた連続強盗事件の方に駆り出されて、すぐに捜査からは外れちゃったけど」
驚いた。
神崎は一体いつから探偵をしているのだろうか。
「この事件を追っているってことはァ、解決してねえってことかァ?」
「ああ。未解決だ。俺は瞬を殺したヤツを捕まえるために探偵になったんだ。一発じゃ合格出来なくて、二回目の試験でどうにか探偵になったけどな」
事件以前、探偵とは縁遠い生活をしていたのだ。
瞬間記憶能力を加味しても、探偵になれたのは奇跡に近いかもしれない。
元博に言わせれば、瞬のための執念らしいが。
「おっさんとは一〇年前にある事件で出会ってな。それ以来、おっさんを利用する形で事件を探ってる。一切の進歩はねぇけどな」
犯人の尻尾すら掴めない。
もう一四年も経つし、人々の記憶から薄れていっていることも相まって、情報は思うように集まらない。
「虹に協力するのは構わない。何でもするよ。結局、俺は探偵としてしか自分の価値を見い出せないしな。その代わり、事件が持ち込まれたら俺にも首を突っ込ませて欲しい。頼む」
頭を下げる。
瞬の事件を解決するためには何でもやると決めたんだ。
使えるもの全部、使ってやる。
「当たり前じゃないか。顔を上げてくれ。虹のモットーは、絶望を晴れさせること。蓮の力にならせてくれよ」
ポンと肩を叩かれ、頭を上げる。
腕を広げた俊矢が、ニヤリと笑みを浮かべる。
「俺たちはアンタを歓迎するよ。ようこそ、何でも屋虹へ」
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