決意2

元博と連れ立って、バイクを押して歩く。

俊矢たちと別れ、家路へ向かう。


「良かったのか?瞬くんのことを話して。誰も巻き込まず、犯人を探すと決めていたんじゃなかったのか?」


「ツキトシが自分の秘密を話してくれた以上、こっちも話すべきだろ。それに、事情を打ち明けないままいた所で、いつかは分かる話だ。早いうちに情報を渡しておけば、事件解決に向けて前進出来る」


結局、俺一人では犯人は愚か新しい情報すら掴めなかった。


それだけ、闇の深い事件でもある。


手は多い方が良いのだ。


「俺はお前にビックリしてるけどな。本当にお前も虹に正式に入社するのか?」


蓮が虹に入社することを決めた直後、元博も正式に入社すると言い出した。


先程、アルバイト先の店長に辞職する旨の連絡を済ませたところだ。


「前にも言ったかな。俺は蓮の力になりたいんだ。虹はそのために使える、最大の力だ。俺は自分のことはどうでもいいさ。蓮の夢が俺の夢だ」


「待遇は確かに虹の方が良いけどな」


「後は戒めかな。今回みたいな最悪が起きてしまう前に、止められるようになりたいんだ。たくさんの人と関わって、憎しみの連鎖を止めたいってのもある」


その後に続けられた言葉は、小さく聞こえなかった。


だが、何となく言いたいことは分かる気がした。


元博も複雑な経歴の持ち主だ。


虹に自身の存在価値を見い出したいのだろう。


「そういえば蓮、情報を渡すと言っておきながら、話してないことも多かっただろ」


考え事をしながら歩いていると、元博にそう尋ねられる。


思わず足を止める。


「なんの事だよ」


「保さんのことだよ」


「話す必要ねぇだろ。胸糞悪い話に胸糞悪い話を重ねてどうすんだよ」


なんでもないふうを装って、足を進める。


大まかな事件の概要さえ伝えれば十分だろ。


「隠し事は、それだけ信用を落としてしまうぞ」


「楽しい話じゃない。必要ねえって」


「蓮」


穏やかに、だが強い意志を持った言葉に再び足が止まる。


元博は尚も続ける。


「ツキトシくん達に協力してもらうなら、話すべきだ。隠し事はしない方がいい。必ず後悔する。言えないまま時が経てば、その分辛くなるぞ」


「そうかもな。でも、言っても過去は変わらない。直接的に事件解決に繋がらないことは不用意に話すべきじゃねえよ」


実際、蓮自身も思い出したくないのだ。


事件が起きてから一ヶ月の間の出来事は。


嫌でも思い出されるのはユラユラと揺れる、もう温かみを失ったモノ。


輝きを失った虚ろな目。


目が合った時の、あのゾッとするような感情。


「親父は何を思って死んだんだろうな」


事件の一ヶ月後、進展の無い事件の捜査は縮小された。


探偵として事件に関わるうちに、それは致し方ないことだと分かるようになった。


でも、それに絶望して父は自殺した。


何も守れなかった自分にも絶望したと遺書にあったが、何も守れなかったのは蓮も同じだ。


「俺は瞬のためにも、親父のためにも、母さんのためにも事件を解決しなきゃならない。仮にその過程で俺自身が死ぬようなことになってもな」


瞬のために死ねるなら、それは本望だ。


兄として、これ以上のことは無い。


「神崎がいる以上、すぐに分かることだろ。隠しても意味は無いのは分かってる。事件を解決するために必要だと判断したら自分から話すさ」


元博に話しながら、これは逃げだと感じる。


俺はきっと、元博以外の誰かと繋がることを心のどこかで避けてる。


宮野と一定の距離を置いて、利用し合う関係を作っているのもそうだ。


瞬のように失うことが怖い。


いずれ元博も切り捨ててしまうかもしれない。


「俺はいつでも蓮の味方さ。それだけは忘れないでくれ」


「……ああ。ありがとう」


帰ろうと呟く元博の後を追う。


引きずるバイクの重さが、背に乗る重責を表すかのようだった。

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