白日の元に晒される闇3-3

「待ってくれ、宮野刑事」


  声を上げたのは、意外にも俊矢だった。


  今までずっと静観してきた彼が、迷ったような目を彷徨わせている。


「どうした、ツキ」


「気になることがある。それを確かめたい。時間はそこまで取らせない」


「それは構わんが……」


  宮野がちらりと僚真を見る。


  僚真は首を傾げた後、ああと呟く。


「良いよ。探偵として僕が許可する。一応、ツキトシは僕の協力者って立ち位置だし、宮野さん達にも、ある程度は目を瞑ってもらうよ。今この場においての立場は、僕たち探偵の方が上だからね」


「恩に着るよ、僚真」


  俊矢は矢野に一歩近づく。


  余裕の笑みを浮かべた矢野とは対照的に、何かに怯えるように目を細める。


「この殺人事件は、誰かに教えを乞うたか?」


「どういう意味だ?」


  矢野が楽しそうに尋ね返す。


「さっきから聞いていたら、アンタは誰かに言われたみたいな話ぶりだ。犯行日を決めたのは俺じゃないとか、大切なものを奪った方がいいってとか、誰かから聞いたみたいだ。誰に計画を授けてもらった?」


  矢野は目を瞬かせ、高らかに笑い始める。


  俊矢はその態度で確信したのか、目を見開く。


「まさか、八雲なのか……」


「死神さんから、この殺人計画を教わったのさ。よくあるだろ、殺したい人いませんかっていうネット上のサイト。書き込んだら返信が来たんだ。貴方にピッタリの殺人計画を授けましょうってな」


「本当に死神とやらから計画を授けられたってんならァ、出すもんあるだろォ?」


  ヒロが手を出す。


  証拠を出せということだろうか。


「もしかしてアンタらのことだったのか。あの人が言ってた、計画を見破るかもしれない厄介な奴らってのは」


「無駄な話は良いから、早くしろォ」


矢野は懐から財布を取り出し、一枚のカードを引き抜き、ヒロの手に叩きつけた。


蓮の肩越しにヒロの手を覗く。


僚真や俊矢も集まる。


  死神が血の滴る鎌を持ったカード。


  上部に書かれている英語は一体なんだ?


「To the pathetic sparrow。直訳したら、愚かな雀へ。相変わらず巫山戯た文面だね。でも、これで確信できるね。今回の事件、裏で手を引いていたのは鞍馬八雲だ」


  そう僚真が呟く。


「どうやってこのカードを手に入れた?」


  激情のまま、俊矢が矢野の胸ぐらを掴んだ。


  隣にいたヒロが慌てて止める。


「落ち着けェ、ツキトシ。もう何を聞いたってェ手遅れだろォ。俺らが未然に事件を防げなかったってのはァ、紛れもねぇ事実なんだからなァ」


「言え。言えよ。どのサイトでこいつと知りあった?」


「死神の部屋、だったかな。でも、もう消えてるはずだぜ。何日か前に、サヨウナラって書き込みの後にサイトごと消えたからな。このカードはそのあとすぐに送られてきた」


「どうやら、虹案件になりそうだ。今後も、お前さんたちに協力を仰ぐことになるだろう」


  俊矢と矢野を引き剥がした宮野は、落ち着かせるように俊矢の頭をひとつ叩く。

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